【Beginning of History】PartⅢ

【Revision of History】


2072年12月24日 0:00/東京都


試験稼働は成功


二人は過去の時代へと遡っていた


「さっっっっっっむ!」


「…聞いてはいたけど本当に服すら無くなるなんて…」


「寒くて縮こまってんじゃん,ちっさ」


「…風邪引く前に何とかしますよ…」


時間遡行装置は正確には二種類に分類される


それらを簡単に分けるのであれば肉体を構成して意識を転送するもの,肉体そのものを過去へと転送するものの二種類でそれぞれⅠ型,Ⅱ型と分類されている


更に詳細に区別するのであればⅠ型は肉体を構成し意識のみを転送する為如何に重傷を負っても,更に言えば死亡しても無事に済む安全性を重視した設計となっている


しかし使用するには予めどの年月に何日間意思を転送するかを決めておかなくてはならない事,またその間に死亡しても定められた時間にならなければ覚醒が出来ないという欠点があり,過去へと送れるのは意識のみで衣服や武器なども転送が出来ない


それに比べてⅡ型は肉体そのものをその状態のまま過去へと転送する為衣服や未来の武器も過去へと持ち込む事が可能である


その時代にない武器や技術を使えるという意味は少し考えればどれだけ危険かは容易に想像出来るだろう


だがその反面欠点が多い


Ⅰ型とは違って肉体をそのまま過去へと転送する際に大きな負荷がかかる為体が弱い人間は強い副作用で場合によっては命を落とす可能性もあるという事


更に当然Ⅱ型を使用して過去で死んだ場合,何の保険もなく死ぬしかない事


これらの欠点から安全性,倫理的に開発の段階で無くなった機能である


だがその技術が漏洩,もしくは別の手段で作った者達がこのⅡ型を使用する事は十分にあり得る話である


「少しばかりこの店から借りるとするか…」


「いや…やめた方がいいよ?この時代の警備システムはかなりハイテクだし下手に警察に捕まるのはごめんだからねぇ」


「……じゃあどうするんだ?こんな極寒の中裸じゃ風邪引くよりも死ぬかも知れないんだぞ…」


「はぁぁぁぁこれだから頭硬いんだよねぇ先輩,硬いのはちんこだけでいいじゃん」


「……もう怒る力も湧かないわ…」


そういうと沖牙は全裸のまま歩き出した


そしてとある家の前へと訪れると何事も無かったかの様にベルを押した


「おい…!?」


「先輩黙ってわっしに合わせて」


扉が開かれる


当然と言えば当然だが扉を開けた男は驚いた表情で声を上げた


「すみませぇん,ちょっと外でやんちゃしてたら服無くしちゃって…お礼するので何か着るものをいただけるといいんですけど…」


「え…あ……は……はい!どうぞ中に…!」


男は沖牙の裸をジロジロと見ながら室内へと誘う


そりゃ全裸の女性を見たら男なら邪な気持ちを抱えられずにはいられないだろう


扉が閉められその瞬間


沖牙は男の首へと打撃を加えて意識を奪った


「お…おい……」


「時間遡行のルールは殺してはいけない,危害を加えちゃいけないなんて事は定められてない…でしょ?」


「そりゃそうだけど…」


グレーなラインだが男は確かに生きている


犯罪者なだけあってルールに従ってはいるがギリギリのラインだ


「ほら適当な服でも貰ってさっさと出ようや,この部屋臭くてたまんないし」


衣服を手に入れ一先ずはこれで活動が出来るだろう


とは言ったものの…


「さーて…犯人の顔も情報も頭に叩き込んではいるけど具体的にどうやって探すのかまでは先輩に一任してるって言ってたけど…金も無い,武器も無い,どうするつもり?」


「いや…金ならある」


「…へ?こんな昔の時代に?」


「八雲さんの口座からいくらか拝借する,本人もその事を許可していてみたいでね,しっかりと口座と暗証番号は教えてもらったよ」


「………へぇ,で?その番号ってのは?」


「教える訳ないだろ犯罪者」


この時代で作戦を行う為の資金源は八雲の口座


……だが妙な話だ


八雲の容姿は精々歳をとっていたとしても30代


だというのに何十年も前に口座が存在している事


何かの一族だとしたとしても普通なら不正に口座からお金がなくなれば不審に思うはずだが…今は使えるものを使うしかない


「行動するのは日が昇ってからにする,それまでは…」


「腹減ったからどっかの店にでも行かない?お金あるんでしょ?」


「……確かに冷え過ぎた,朝までそこで時間を潰すとしようか」


24時間営業の店はこの時代でも珍しくはない


特にこの時代はまだ自然破壊が深刻な頃でもなかったので今となっては食べれない食材も店で食べれる


ちょっとしたおまけのようなものだが


「おーしっかりと生きてたのが死んだ魚だ,造られた魚じゃない」


「流石に美味いな…本物の魚は…」


「この時代に住みたいなぁ」


「犯罪歴が消えるからだろう?」


「あ,バレた?」


一時の落ち着いた時間


これが任務でなくただの旅行として訪れていればどれだけ幸せだったのだろうか


この時代において目に入る物,耳に入る事は全て情報だ


些細な事でも失われた情報の可能性がある


気が休まる瞬間はないに等しい


『ジェームズ氏の来日に備えて警視庁は厳重な警備網を…』


「大物女優ねぇ…そんな有名だっけ?」


「そりゃ……映画は何本か出てた筈だけど……おかしいな…あまり記憶に残っていない…」


「…それってつまり失われた歴史の一部って事じゃないの?」


「単純に見た映画が印象に残らなかっただけだろう,消えた歴史は死因に関する事,そして恐らく何故死んだのかを突き止めるのが正解だ」


「へぇ…じゃあどうする?確かに歴史から消された死因は暴かなきゃいけない本物の歴史,けどそれは過去へと遡った時間犯罪者によるもの…ってなると阻止をしていいのか,それを傍観しなきゃいけないのか……どっちが正解?」


「それは……」


「もっとよく考えてから来るべきだったんだと思うんだぁわっしは,例え死因がはっきりとしてもそれは時間を遡って変えられた歴史,歴史の改変は犯罪行為となるからそれはわっしらからしたら阻止するべき事,けどそれじゃあ辻褄が合わないんじゃぁない?」


「……………」


「仮に時間犯罪者を止めてジェームズ氏が生き延びたとしよう,けれど阻止したところで死因を見届けるには時間が少ない,つまりそれはわっしら自身が過去を変えてしまう事になる…違う?」


「………いやそもそも今回過去へと遡ったのは目的がどうであれ時間犯罪者の確保だろ,死因を調べる事は別だ,騙そうとしてないか?」


「ひゃっひゃっひゃっ,バレちった」


「いいか,今回は遊びじゃない,任務として来てるんだ,何があっても確保しなければならないんだ」


「わーってるよ,ちょっとしたお遊びさね,過去へと遡った理由はなんであれこの時代のこの日時に来た事とジェームズ氏の来日は関係性があると考えるのが妥当,だとすればわっしらは犯人を確保もしくはジェームズ氏を守らなくちゃいけない」


「…その為にも朝になったら装備を調達する」


「さてこっからはマジな提案なんだけどね,恐らく今回の任務は二手に分かれた方が成功確率は上がると思うんだ…って言ってもわっしから目を離すのは危険…と思うかも知れないけど過去へ滞在出来る時間は24時間,目を離して何かをしてたところで24時間後にはまた元の時代へ戻る事になる,それなら確実に任務を果たした方がいいと思わないかい?」


「…胡散臭いな…目を離すと何をするか…」


「確かにこの時代は飯も美味いし犯罪歴もないから自由に行動が出来る,けどここにわっしの居場所はないよ,結局は元の時代へ戻って不自由な生活に逆戻りだ,それならわっしは任務は真面目にこなして不自由な中での仮初の自由を選ぶね」


「…それなら今回はお前の提案に乗る,作戦はあるのか?」


「わっしが瀬戸内を探す,同じ犯罪者だし思考はわっしの方が読みやすい,万が一の場合に備えて先輩はジェームズ氏の監視,そしてわっしが失敗したら命を掛けて守る…これでどう?」


「…恐らく殺すつもりなら近くに潜伏する筈だ,それこそパレード中とかにな,二手に分かれて捜索,見つけ次第情報を共有して挟み撃ちの形になれば最高か…」


「そういう事,パレードが始まるのは午後18時,それまでは装備を調達してこの時代を楽しむとしない?」


「遊びで来てるんじゃないんだ,それに武装してる以上は監視の目も掻い潜らなきゃいけない,やれるか?」


「わっしは詐欺師ですよ?人を騙くらかすのは得意でさぁ,ひゃっひゃっひゃっ」































































































































































東京都某所/午後17:45


二人は準備を整えて作戦を開始した


「一先ず確認できた事を纏める,昼間に行ったガンショップには俺達以外にも今日武器を買った者がいたが瀬戸内ではなかった事から瀬戸内は俺達の時代の武器を持っている可能性が高い,狙撃するタイプだったら厄介だ,その為予め狙撃ポイントは潰しておいた,これで接近しなければ殺害は不可能,これから俺達は現地で瀬戸内を捜索して確保する,いいか?」


「ごめん寿司食ってた,なんだって?」


「お前なぁ…」


「冗談冗談,しっかりと聞いてたよ,一般人に紛れて動くと予想されるから見つけるのは困難だと思う,だから先輩は最前列で待機,わっしは後ろから探しながら追い詰める,おーけー?」


「そんなところだな,じゃあいくぞ」


午後17:50/作戦開始


大物女優なだけあってその姿を一目見ようと訪れている人達の数は多い


この中からたった一人を探すのは極めて困難である


…そもそもの話少しでも変装されていたら見つける事は不可能に近い


沖牙はその可能性に関しても考えていた


考えていてあえて網笠には伝えていなかった


それもその筈だ


沖牙は最初からやる事を決めていたからだ


「はいはいこちら沖牙,目標は未だ不明」


『こっちも同様に確認出来ない,間も無くパレードが始まる,引き続き捜索を頼む』


「……………」


『…沖牙?』


「さて……やりますか」


通信機の電源を切る


沖牙は歩き出してとある場所へと向かっていた


誰かを探す様な歩き方ではなくただ早くその場所へと行く為の歩き方だ


パレードの通りから離れ人気の少ない裏通り


沖牙はそこで身を隠した


何故ならそうする必要があるからだ


まるでその後に何が起こるのかを知っていたかのように


とある男女が裏通りへと入ってくる


男は興奮した様子で,女は恐怖に震えていた


こんな人気の少ない場所へと誘い込まれてしまえば助けも来ないだろう


…本来ならば助けは現れない筈だった


「表通りはパレードで賑やかだ,ちょっとやそっとの声じゃ助けも来ない,諦めるんだな」


「嫌です…それにこんな事がバレれば貴方だって…」


「バレるはずがない,何故ならヤッた後にお前は死ぬからだ」


男が銃を取り出し女へと向ける


より一層女の顔が恐怖に歪んだ


誰でも銃を向けられ命の危機を感じればそうなるだろう


「そこまでにしろ外道」


「……あ?」


「その女性を離せ,お前が触れていい相手じゃない」


「……………」


そう


本来であれば誰も助けに来る筈がなく


この女性は強姦されるしかなかった


しかしそうはならなかった


何故ならばこの場に現れた男


それこそが探していた男である瀬戸内 始だったからだ


「お前はなんなんだ?人が折角気分良かったのに邪魔に入りやがって…下手に正義感を出すと死ぬぞ?」


「所詮外道は外道,言っても分からなそうだな」


「けっ…おっさん最後の警告だ,目の前から失せな」


「そいつぁわっしのセリフだねぇ」


「誰だ!?」


沖牙が姿を現す


手には銃を構えて銃口は男を捉えている


「わっしはただの…あー……タイムパトロール?そっちのあんた…ドラえもんごっこは終わりにしたらどうだい?」


「………!」


「おい…何を訳の分からない事を…」


「そうさねあんたには用が無い,そこでレイプしようが女を殺そうがわっしには関係のない事,わっしが用があるのはそっちの血眼な方,大人しくしてくれると助かるんだけどね」


「………お前なんなんだ…?」


「同じ時代の人間同士,少し話さない?なぁに悪いようにはしないしわっしも仕事が出来ればそれでいいからねぇ」


「おい…お前ら二人とも…」


「外野は黙ってな」


足元への威嚇射撃


当然沖牙には当てるつもりはない


如何なる場合であっても過去の人間を殺すのはルールに反する


それだけはしっかりと守るつもりのようだ


「こっちには敵対しない方がいいよ?2対1ってそれじゃあ不平等じゃぁないかな?分かったら賢い選択をしてくれるとわっしも楽なんだけどね?」


「…………」


「さぁて話を再開しようか,あー何も言わなくてもいい,結論から言うとそんなおいしい話がある訳もない,だからもう一度言う,ドラえもんごっこはこの辺でやめときな?」


「…ツッ……知った様な事を…!」


「あぁ知ってる,よぉく知ってる,詐欺の基本は相手の全てを知って有効なカードを切る事,だからこそよぉく知ってるよ,何をしようとしているのかも耳にタコが出来てそのままタコ焼き作れるくらいにそりゃもう…ごっこ遊びは本気でやらなきゃつまらない…けど本気を出しすぎたね,超えてはならない一線ってやつを超えたんだ,あんたはね」


「ツッ!!!」


「!!!!」


瀬戸内が引き金を引く


しかしそれは沖牙へと向けられてはいない


男の方へと向けていた


それに気がついた男も同時に引き金を引いた


それはまったく同じタイミングで銃声は一発の様に轟く


瀬戸内の放った弾丸は男の頭部を確実に捉え貫いた


一方の男の弾丸は瀬戸内の胸部へと着弾した


二人ともその場へ倒れ込む


たった一発の弾丸


それだけで全てが終わった


瀬戸内の目的も


沖牙達A-Zentの目的も


「あ………ぁぁあ………」


「……やっぱこうなっちったかぁ……お嬢さんさっさと逃げな,ここは危ない,ほらパレード会場で楽しんどいでー」


「ひっ……!!」


女はたまったもんじゃないだろう


目の前で二人の男が死んだのを目撃したのだから


…いや…


「……………」


「…まだ息あるな,余計なギャラリーもいなくなった,これで本心で話せるでしょ?調べさせて貰ったよ瀬戸内 始,既婚者,職業は元警備員,34年前に妻がとある男に襲われ昏睡,命は助かったが意思の疎通は出来なくなって現在も病院で寝たきり状態…そう…34年前,2072年12月24日,この日あの女性,瀬戸内 美香はこの場所で男に強姦されて頭を銃で撃たれる筈だった,けどそうはならなかった…おめでとう時間犯罪者さん,わっしは阻止しようとしたけれど間に合わず時間犯罪者の思惑通りになってしまったという訳だぁ」


「………」


「さて口を開くのも辛かろう,じゃあ聞きたいだろう事を話してあげようじゃないか,わっしは優しいからね,殺すよ,時間犯罪は殺人よりも罪が重い,その為わっしらは時間犯罪者の射殺許可を政府から容認されている,つまりは殺したい放題だ,わっしは詐欺師,別に人を殺すのは専門じゃぁないが殺しも合法となってしまえば人を殺すのも楽しむのがベストだと思ってるんだがどうかね?おっと…胸部を撃ち抜かれて喋るのも辛かったね?」


「……て………れ…」


「うん?」


「伝え……て……くれ………未来で……」


「……………」


「沖牙……沖牙……ッ!どこだ!!」


「……どうやらお喋りの時間はもうないらしい,アディオス,良い眠りを」


沖牙が引き金を引く


銃弾は瀬戸内の頭へと命中


瀬戸内はそれ以降話す事はなくなった


「沖牙!連絡はしっかりしてくれ…ってそいつ瀬戸内か?」


「やぁ先輩,こっちは任務完了,見ての通り銃を使って撃ちましたぁ」


「…その様だな…で……死んだのか」


「こっちだ!銃声はこの路地からだ!」


「おっと〜…どうやら話してる時間もないみたいですねぇ先輩,一先ず逃げるとしましょうや〜」


「…だな,任務は果たした,後は時間までは待機だ」


瀬戸内 始


頭部への射撃により行動不能


ジェームズ・マリアンヌは無事に来日パレードの成功を収めた


任務を完了した網笠,沖牙は規定の時間を迎えてこの時代から姿を消した











































































































































2112年/A-Zent拠点ビル


24時間が経過して二人の意識は再び現代へと帰還した


だがここで問題が生じた


これは予測もつかなかった事だった


意識の転送


それは安全性を重視しての設計だった


過去への転送時には問題は起こらなかったが問題が起こったのは帰還時だ


帰還時の意識には当然だが過去での記憶が残留する


問題はそこだ


行きに比べ帰りの際の記憶の違い


それが問題だった


単純に考えれば分かるはずだった


意識と記憶は同一のものでなければ当然拒絶反応が起こる


半ば錯乱状態に陥った二人と会話可能になったのは三日後の事だった


任務完了


時間犯罪者の無力化


及びジェームズ・マリアンヌは来日パレードを無事成功を収めた


しかし死因は変わらず不明


他の時間犯罪者の手によるものか,はたまた自然と消えてしまったのか


疑問は残りこそすれど今は時間遡行装置の再調整の方が重要だった為この問題は忘れられていった


「おい…沖牙はどこ行った?」


「新作のカフェラテを飲みにスター……なんとかに行ってくるとか」


「はぁ……まぁ任務も無事にこなしたし大目に見てやるか…んじゃ網笠代わりにこれ提出しといてくれ」


「……これは?」


「今回の成果と上層部への要請,流石に人数が足りな過ぎる,優秀な人材の引き抜きの許可を得る文面のものだ」


「……それ他の部署に喧嘩売る事になりませんか……」


「だから提出したくない,代わりに行ってこい」


「はぁ………分かりましたよ……」





















































































































































東京都/某病院


沖牙はとある病院へと足を運んでいた


怪我をしたから?


それならば政府内でもっと良い病院がある


ましてや沖牙は犯罪者


顔を仮面で隠してはいるものの普通の病院なんかには到底かかる事は出来ない


では何故この病院へとやってきたのか


「さぁて…くたばってなきゃいいんだーけど」


面会許可を得てとある病室へと入る


…とは言え面会する人なんか滅多にいない


何故ならその病室にいる男は話すことも出来ない植物人間状態だからだ


病室のプレートに書かれている名前


それは瀬戸内 始だった


「おーおー生きてる生きてる,いやぁ最近になって観葉植物でも育ててみようかと思っててねぇ,そこんとこどう思う?……あーごめんもう喋れないんだっけ,良い眠りは体験出来たかな?時間犯罪者」


「………………」


「さぁて聞こえているか聞こえていないか,それは別に関係ないしこれから話すのはわっしの独り言,何故あの時殺さなかったのか,わっしは殺すつもりで撃ったと思うよ?本来の歴史ではあの時あの女性はあの場所で今の君みたいになる運命だった…けど神の悪戯なのか…わっし達が過去へと遡った時に綻びがあったんだろうね?本来君みたいになる筈だった女性は無事で少し前までの君の様にこの時代を生きている,ちょっとした綻びで立場が逆転してしまった訳だ,それをハッピーエンドと捉えるか否か…議論するつもりはないし出来ないでしょ?だからわっしがここに来たのは単純に今の君と違ってこうして自由に生きているのを見せびらかしたかっただけさ,ひゃっひゃっひゃっ」


「……………」


「さて…満足したしわっしは帰るかな,もう二度と会いにも来ない,精々自分の犯した罪を償えばいい,わっしが言えた事じゃないけどねぇ」


「あら………」


「おやおやおや…どうやら別のお客さんの様だね,どうもこんにちは」


「えぇ……こんにちは…貴女もこの方のお知り合いですか……?」


「いーや知り合いでも何でもないかも知れないしもしかしたらこの男をこんな目に遭わせた奴かも知れない…とまぁ冗談はおいといて…ちょっとした知り合いでね」


「……そうですか…私も似た様なものです」


「というと?」


「…私は昔この人に助けられたんです……本当にあの時は怖かった…あの時この人が来てくれなかったら私は生きていなかったでしょう…それも不思議な事にこの人は私の夫と同じ名前でしたので…」


「そいつぁ珍しい,偶然ってのは本当に怖い,怖いねぇ…けど面白い話だね,夫と同じ名前の男が身を挺して守ってくれた…運命を感じるみたいだ,さぞかし不思議な体験をしたでしょう」


「えぇ本当に不思議な事もあるものです…」


「……失礼ですがお名前は瀬戸内 美香であってます?」


「そうですが…何故私の名前を…?」


「実はこの男がこうなる前に伝言を預かっていてね…『自分の事を不幸に思わないで貰いたい,自分は満足のいく事が出来た,幸せに生きて欲しい』…と,さぁ伝言は伝えたしわっしももう行かなくちゃならない,それではごきげんよう」


「…あの……もしかしてどこかでお会いした事が…」


「…さぁどうでしょう,会った様な会った事ない様な…思い出せないなら思い出さない方が良い事もこの世界には数多くある,それでは…危険な路地裏には精々お気をつけて,バイビー」

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