【Beginning of History】PartⅡ
【Time Jump】
A-Zentが設立してまだ間もない頃
組織が設立されたはいいが組織とは名ばかりで人員不足が深刻的な状況であった
問題はそれだけではない
時貞博士の作った時間遡行装置は完成はしているものの試験稼働はしておらず
また試験をするにあたってもどの様な結果になるかが分からない以上命の危険もあり立候補する者は誰一人としていなかった
そしてA-Zentを率いる指揮官を任された千川 朱音は隊員をどうやって確保するかを模索している状況だった
「だぁぁぁぁッ!!クソッ!!どこの部署も人を出す余裕が無いだぁ!?命が惜しいだけだろうがッ!!」
…前例のない組織,ましてや試験稼働もしていない得体の知れない時間遡行装置を使いたがる人間なんている訳もなく他の部署も見て見ぬふりをしていた
「落ち着いてくださいよ,焦ったってどうもならないと思いますよ?」
「おーおー気楽そうでいいなぁ網笠ぁ!こちとら上の連中に圧かけられてんだボケ!!」
「それにしたって人員確保って言ってもなぁ…博士ー…なんかこう…適任みたいなのありません?」
「ふむ…強いて言うのなら賢い人間でなければ務まらない仕事ではあるのう」
「賢い人間…か」
「賢い人間つったってどうすりゃいい?東大出身の民間人に募集でもかけるか?」
「賢いとは何も頭がいいだけじゃない,臨機応変に柔軟な思考を持ち,仕事を貫ける信念を持つ者こそが…」
「じゃあなんだ?社畜みてぇなの探すってか?」
「少なくとも政府の中にはいないな…現に誰一人確保出来てませんし…」
「ったく…成功したら出世なんかって誘いに乗らなきゃよかった…なぁにが出世だよ,失敗したらクビじゃねぇか」
「ほんとですよ…どっかに好きに使える人間いませんかね…」
「……好きに使える人間?」
「……何か心当たりが?」
「……確か政府からはある程度の権限を与えられるって言ってたよな?」
「必要とあらば可能な限りの権限を…との事でしたね」
「…それなら…よし,ハゲに連絡入れてくれ」
「ハゲ……?」
「警視総監のおっさんだ,今からそっちに行くってな」
「……もしかして犯罪者を使おうとしてます?」
「よく分かってんじゃねぇか」
東京都/凶悪犯罪者特別収容房エリア
当然ながら独房と言うからにはここには凶悪犯が数多く収容されている
その多くが終身刑を言い渡されここから出る事は出来ない者達である
「……なんでわざわざここに来たんですか?」
「言ったろ?賢い人間探すんだよ」
「賢い人間はそもそも犯罪を犯さないと思うんですが…」
「いやいや…そうとも限らんぞ?ここにおる凶悪犯はいずれも高い知能で凶悪犯罪を犯した者達…言い方を変えれば選りすぐりの頭脳を持った者達じゃよ」
「…って博士も言ってるぜ,未来から来た奴は使えねぇのか?」
「…そもそも未来から来ておる者が更に過去へと遡って手を貸してくれるとは思えんのぅ」
「おい千川,お前また妙な事考えてやがるな?」
「よぉハゲチャビン,こんなかでとびっきり頭のいい奴って誰だ?」
「犯罪者に頭がいい奴いると思うか?頭が良かったら犯罪起こさねぇんだよ」
「へいへい…こっちで勝手に探すよ」
とは言ったものの凶悪犯の中から誰を使うか
犯罪者の一人を時間遡行装置の試験に使う許可は降りたのだがいざ探すとなると誰が適任かは頭を悩ませる
ただの凶悪犯が従うとは思えない
かと言って適任がいるかも到底思えない話なのだが…
意外とそうでもないらしい
「おーいそこのお偉いさん方やー」
「……あ?」
「そーそーあんたあんた,誰かお探しかい?」
「……こいつ誰だ?」
「そこのハゲに聞いてみたらー?ひゃっひゃっひゃっ」
「うるせぇぞ沖牙!大人しくしてろ!」
沖牙
そう呼ばれたのは比較的若そうな女性だった
目が開いてるのか開いてないのか分からないが口元はニチャァと笑みを浮かべていた
大抵の人が抱くイメージは胡散臭い,これ一択だろう
「……そっちの若いのは時貞博士だね?見た目は若い女性だけど口調は爺ちゃんそのものって事はクローンにでも意識を転送したかな?それで…タイムマシンは完成した?」
「………!!」
「お…その反応やっぱし当たり?この前もここに来て早瀬川の奴となんか話してたっぽいし鎌かけたんだけどまっさか本当に出来たんだ」
「…なぁ署長,こいつなにもんだ?」
「沖牙 喰,詐欺罪でぶち込まれてる,どうやったかは分からんが政府の人間騙くらかして馬鹿げた金額を騙し取ったが逃げる時に金を無理矢理担いで潰れてるところを捕まった」
「詐欺師か…」
詐欺をするからには頭は相当良いだろう
だが問題なのは協力的かどうかだ
「なぁー頼むよー,こんな場所に来るって事はタイムマシンの試験でもすんだろー?んでその試験に協力してくれる人をこんなかから選ぼうって話だと思うんだぁ?わっしなら手を貸すよ〜?」
「……へぇ,手を貸して何が欲しいんだ?」
「んやぁちょっとばかし外で自由に歩かせてよ,このままここで一生終えるのも嫌だなーって?」
「…………」
「なぁー頼むよイケメンさん,他の連中なんてあてにならないよー?ここにいる大半が人殺せりゃいいって連中だしさー」
「いいだろう,署長出所の手続きを」
「……イケメンって呼ばれて選んでません?」
「あ?」
「よっ!太っ腹〜,署長の三段腹よりも太いねぇ〜」
「んだとてめぇ!!」
沖牙 喰
詐欺師
詐欺で多額の金を政府の役人から盗み取った過去を持つ
殺人犯よりは遥かにマシだろうが信用ならない
狙いは何であれ試験稼働の人員は確保出来たから良しとしておこう
「なーなーお偉いさん方何するつもり?ただ時間遡行装置の試験運用ってだけじゃないでしょ?」
「あのなぁ…お前はただの犯罪者って事を忘れるなよ,詳しい事を教えるつもりはない」
「そうは言っても最低限は教えて貰わなきゃ協力も出来ないしー?まぁおおよその事は考えりゃ分からけどね,ひゃっひゃっひゃっ」
「なぁこいつ黙らせてくれよ」
「手綱を握ってるのは指揮官ですよ」
「ひひーんひひーん!ひゃっひゃっひゃっ!」
「うるせぇぞ沖牙ァッ!!」
人員は確保出来たので適正の確認が行われる
それは文字通りA-Zentの隊員として相応しいかどうかの試験だ
性格診断 最悪
身体能力 優
射撃能力 並
知識/頭脳 極めて優秀
結果として隊員としては申し分ない
ただ本人の性格が性格で問題がある
とは言ったものの他に適任と呼べる者はおらず一ヶ月の訓練期間が設けられ沖牙はそれをこなす事となった
一ヶ月後/A-Zent拠点ビル
「あーあーあーーー!」
「……………」
「なぁー指揮官暇だよー,んなぁぁぁぁぁーーー」
「……………」
「耳付いてる?もしもしー?聞こえるー?聞こえてますかぁぁぁあ?」
「……………」
「ホスト崩れ」
「あ"ぁ"!?」
「何だ聞こえてんじゃん,ひゃっひゃっひゃっ」
「あのなぁ…暇なら暇でやる事やれよ」
「やる事ってわっしは時間犯罪者が出た時に過去に遡ってとっ捕まえるのが仕事でしょー?雑用とか書類は指揮官がやった方がいいんじゃないー?」
「ったく……もう少し働き者の方が良かったなこれじゃ…」
この約一ヶ月
動きという動きはない
あくまでも問題が起こった際に対処出来る最低限の準備が整っただけ
しかし過去へと遡り歴史を変える時間犯罪という性質上どうやってそれらを察知するのかは未だに模索中であり既に何者かが過去へと遡っているかも知れない
政府からは待機を命じられているが現状何も進展はなくただ形だけの組織となっていた
これだけでも金は貰えるのでぱっと見は楽な仕事だと思われがちだが結果を出せなければ組織が解体されるのも時間の問題だろう
更に暗黙のルールとして扱っている情報が情報なだけに組織が解体されれば問答無用で口封じをされる
「お疲れ様,昼飯買ってきたぞ」
「おースモークチーズはあるかい?」
「頼んでないだろ,いつも通りのものしか買ってこないよ」
作業の手を止めて昼休憩へと入る
博士はあれからずっと時間遡行装置のメンテナンスを続けている
何かあった際にすぐにでも起動出来る準備をしておく為だ
残りはどうしてるかと言えば基本的に他部署からの書類を押し付けられたり雑用をしていたりだ
「なーこれ飽きたんだけどー」
「知るか,こっちのはやらねぇぞ」
「いいじゃんけちんぼー,ホスト崩れー」
「お前マジで一度死ぬか?」
「食事中くらい静かにして欲しいんだけど…」
この一ヶ月である程度打ち解けたと言えば打ち解けた
専ら沖牙が人の神経を逆撫でする事が大半ではあるが
『続いてのニュースです,千葉県では最近不審な停電が多く発生しており…』
「おーおー停電だってさ停電,珍しい」
「停電くらい別に問題でもないだろ」
「千葉は山が多いですからね,電力供給も安定してないんでしょう」
『……しかしこんな多くの頻度で広範囲で停電が起こるのは人為的な可能性もあり……』
「………………」
「……どうした?沖牙」
「……ねぇ,千葉に行ってみない?」
「あぁそうだな,ついでにハワイにでも足を伸ばすか」
「いやさぁちょっと考えてみ?いくら千葉の開発が東京に比べて劣ってるとはいってもこの時代停電起きてどれだけ被害出ると思ってんのさ」
「…何が言いたいんだ?」
「普通何か大規模な事でもやらない限りは停電なんてまず起きない,ニュースキャスターも言ってた通り人為的な線が強いと思うんだぁ,じゃあ人為的に停電起こして…何が目的だと思う?」
「さぁ…それこそ停電を起こしても利があるのなんて保険会社くらいじゃないです?それ以外となると…」
「そっ,得をするのは停電でデータ吹き飛んだ人らに補填を行ってその分を電力会社からぶん取る保険会社って訳,だとしてもここまでやるのは異常を超えてわざとらしい,ってなると民間人が引き起こした事の可能性の方が高いって思うのは至極当然だしのび太くんでも分かる事さぁ」
「あぁもう回りくどいなさっさと言えよ」
「はぁぁぁーこれだから短気と早漏は嫌われるんだぁー,まぁ結論から言うと停電が起こる程電力を必要とした何かを使っている…と考えられない?」
「……網笠,博士を連れて来てくれ,千葉に向かうぞ」
「いぇーい外出外出,お弁当買って来ていい?」
「今食っただろうが!!」
13:06/千葉県:東金市
「……でー…つまり停電の原因はここのどっか…って事か?」
「うぉー!山だ山!」
「……なんでこいつテンション上がってんだ…」
「キャンプが趣味らしいですよ彼女」
山岳地帯が多く都市開発されている場所に比べると田舎っぽさを感じるがここ一帯の山は全て政府が所有している
今の時代自然と呼べる物の多くは人工的に作られた木や山であるがここには本物の木が生い茂っている
人間の欲深さはよっぽどな物で後先考えずに森林を伐採しまくり開発を進めて今の日本に本物の自然と呼べる物はもう5%も残っていないという
酸素がなくなる恐れがあるとデマに慌てふためいた人間は自然を育てるのではなく人工的に酸素を作り出す機械を開発した辺り賢いのやら愚かなのやら
「よし一旦話を纏めよう,ここら一帯で起こる停電の原因は何者かが作った時間遡行装置の起動実験の弊害であると仮定して…その中でもこの地域の電力消費量が圧倒的に多い,つまりこの東金市に時間遡行装置が存在してる可能性が最も高い,でだ……どうやって探すんだ?」
「指揮官それでも有能?You know?」
「あ"ぁ"!?」
「うっわーこわぁ」
「確かにこの中から探すって言っても本当にあるかも分からない…手がかりもないし…」
「ひゃっひゃっひゃっ!お二人とも頭硬くない?そんなの博士がいるんだから聞けばいいじゃん?」
「だそうですよ時貞博士,何か良い案ありますか?」
「そうは言われてものぉ…」
「だーかーらー頭硬いってぇ,硬いのはちんこだけにしとけってひゃっひゃっひゃっ!…博士が時間遡行装置を作るとして満足な部品が無かったとしたらどうする?取り寄せ?いーや作ろうとしてるならなるべくデータは残したくない筈,だとすればここら辺で部品を扱ってる場所…特に精密機械を扱ってる店を検索すれば…ビンゴ,どうやら東金市には三つ程しかないみたいだぁね」
「……お前そういう事は頭の回転はやいんだな…」
「そりゃあ人騙くらかして生活してたし?犯罪者の視点ってのも役にたつでしょー?」
物を作るのには部品が必要
部品を売っている場所を探すのは自然な事だろう
東金市で精密部品を扱っている店は三店舗
そして沖牙の推測通り三店舗とも利用している人物が浮かび上がった
「こんなすんなり行く事あるか?」
「優秀って事でボーナス出ない?」
「二階級特進ならくれてやるよ」
「馬鹿な事言ってないで令状取りますよ」
「え?必要?」
「必要あるか?」
「…なんか毒されてません?」
いくら政府の組織とは言え手順は守らなくちゃいけない
正しい行いであろうが手順を守らなければ犯罪行為になってしまい…
「っしゃぁ!政府の役人様のお通りだぁ!」
「おらぁ!総務省様の登場だ!!」
「……はぁ…」
「やる事が派手だねぇ…」
当然この頭のぶっ飛んだ指揮官とそもそもが犯罪者である沖牙は気にする事もなく,ドアを蹴破り室内へと侵入していく
一見すると普通の一軒家
だが当然そんな筈がない
二人揃って畳を引っぺがして地下室を探す…探している筈なのだが随分と楽しそうだ
引っぺがすというか破壊に近いのだが…
「指揮官!ここの床おかしいですよぉ!」
「おっしゃ踏み抜け!」
「らっしゃぁぁぁぁ!!!」
当然と言えば当然なのだが隠し部屋を作るのなら地下室が最も作りやすい
そして予想通り,地下の空間には得体の知れない機械が鎮座しているのであった
「ふむ……これは……」
「どうですか博士,やはりこれは…」
「随分と形は違うが間違いなく時間遡行装置の一種だ…それにしても……使用者はどこへ……?」
「ん?いないから使ってないんじゃ?」
「使用された形跡がある…ここのメーターを見てほしい,2072年12月24日…つまりこの時間遡行装置の持ち主が遡った時代を表している…だが使用したのなら体は……いや……まさか…」
「ん?時間遡行装置って過去に行く為の物じゃなかったっけ?」
「沖牙はそこまで知らなかったな,当然時間遡行装置は過去の時代へと行く装置だ,開発当初は使用者の肉体そのものを過去の時代へと送るシステムだったが安全性の問題から使用者の肉体を過去へ複製,意識のみをその肉体へ送る仕組みとなったんだ」
「へぇ…けどここにはその使用者の体はない…って事は…」
「……どうやらこの時間遡行装置は肉体そのものを過去へと送る仕組みの様でな…」
「……つまり使用者は政府の人間…か?」
「この家の持ち主は政府のデータベースには登録がありません…なので自分で作り出したかデータが流出したとしか…」
「だとしても犯人がいないんじゃ阻止する事も捕まえる事も出来やしない,どうする?」
「……回収は他の連中に任せるとして…博士,飛んだ時代は2072年…つまりその時代に我々が飛べばいいのでは?」
「問題は目的が何か…だ,犯人の狙いが分からなくては過去へ遡っても見つける事も出来ない……あやつの力を借りるのが賢明だろう」
「……誰ですか?」
「古い友人じゃよ,今の時代に紙媒体に拘る変わり者,国立中央大図書館の八雲じゃよ」
東京都/国立中央大図書館
先程今の日本に本物と呼べる自然は5%しか残っていないという話はしたと思う
今の時代情報は全て電子媒体へと切り替わり紙で作られた媒体,本なども時代と共に数多くが失われていった
金や宝石に並ぶ程の高級品となった時代でそれらを収集する事に熱を注いだ女性
それが国立中央大図書館のオーナー,八雲という女性だ
普段であれば立ち入りも禁じられており,国立とは名ばかりで八雲の私物の様な建物だ
世界のあらゆる本が集まる場所としても名高い
そんな彼女と博士が知り合いなのだという
「本なんて産まれて初めて見るなー」
「そもそも電子媒体で読める物をわざわざ本で読もうなんざ思う奴のが稀だ」
「何十年か前までは普通に売られてたらしいですね」
今回はしっかりと許可も降りている為上からどやされる事はないだろう
中へ入るとそこはまるで別世界の様な光景だった
古くさい…というよりもビンテージだろうか?
まるでここだけ何十年も昔の様なレトロな雰囲気を感じる
見渡す限り本棚で溢れかえっており本棚の中には一部の隙間もなく本で埋め尽くされている
「なんかカビ臭」
「暗ぇなぁ…ゴミ屋敷か?」
「……二人とも失礼ですね…」
「…で?誰に会いに来たんだっけ?」
「あれだろ,えーと…あれだあれ,野獣?」
「八雲だけど?……一先ずようこそ大図書館へ」
広々とした大図書館
その中央に鎮座する高台から彼女は姿を現した
片手には本を一冊抱えており,見るからに知的な印象を感じる
「おーカッコつけちゃって,なんか昔あんな感じで降りてくる番組やってなかった?」
「あーあのアーティストとか出てるやつだろ」
「そそ!あれじゃん!BGM流す?ひゃっひゃっひゃっ!」
「………………」
「…すみませんね…二人とも頭のネジが外れてまして…」
「ちんこでっけーしか取り柄のない奴が何言ってんの?」
「ちょっと!!!」
「……博士の頼みだからって招き入れたけど間違いだったかな…あとそこのお前,本は貸し出ししてないけど?」
「ありゃ,バレたか」
「沖牙ぁ…盗みはすんなって言ったよなぁ!?」
「一生借りるだけですー!」
「久しぶりじゃの八雲,お主の力借りに来たぞ」
「電話でも声が変わってたから別の体になったのは分かってたけど女性の体とはね…まぁいいわ……ここに来たって事は完成したんだ」
「約束は守ると言ったろう?」
「……でー,こいつが何やってくれるんだ?」
「…あまり自室には入れたくないんだけど…まぁいいや,着いてきて」
八雲に着いて行きとある部屋へと案内される
多くの本があるのは変わらないが大図書館よりも明るい
応接室の様な部屋だ
「…じゃあ手伝うには手伝うんだけどー…妙な事しないって誓ってくれない?」
「妙な事なんかしてないけどなー」
「さっき本を盗もうとしたのに?」
「右手が勝手にさー」
「……こいつは放っておいて…博士,協力者って言ってたけど具体的にはどんな協力者だ?」
「それは私が自分で説明するよ,見ての通りここには世界中の本が揃ってる,世界一の大図書館と自負していて…」
「どっかにコーラない?」
「酒しか持ってねぇよ」
「二人とも話を聞かないと…」
「網笠聞いといて」
「先輩ちんこがでかいくらいしか取り柄ないんだからこういう時頑張らないとだめじゃないですかぁ!ひゃっひゃっひゃっ!」
「怒りますよ!?」
「………結論だけ言うわ…私が持ってる本の一冊,ここには昔まではあらゆる歴史が書かれていたんだけど…」
そう言いながら八雲は持っている本を開く
何もない
全てのページが白紙で何一つ書かれていなかった
「何これ高級メモ帳?」
「白紙の本……これが何か役にたつのか?」
「この本は不思議なものでね…博士何年?」
「2072年12月24日,その時代に何があったのかを知りたい」
「2072年…12月…24日」
八雲が白紙のページへ文字を書き込む
すると不思議な事にそのページへと書かれた文字が徐々に消えていった
そして少し経つと別の文字が浮かび上がったのだ
「…ジェームズ・マリアンヌ…来日…」
「…誰だそいつ」
「えっと…確か女優の方では…」
「それよりも何これ?マジック?」
「言ったでしょ,この本にはあらゆる歴史が書かれてた,けど恐らく人々の記憶や記録が消えたタイミングでこの本に書かれていた歴史も全てが失われた…そう思ってた,けどこうして年月を書き込むとどんな歴史があったのかを教えてくれる…理屈は分からないけどさ」
「仕組みはどうであれこれで犯人の目的は分かったな」
「ふーん…んじゃここは用済みかー」
「帰るか」
「………ほんと何なのこいつら…」
「すまないね,これでも一応緊急事態なので…協力感謝します,またお時間ある時に改めて」
「おーいでかちんー!帰るぞー!」
「だからやめてください!!」
年代,そしてその時代に何があったのかは判明した
となればあとは犯人を確保するだけだ
礼儀も何もなく大図書館から去っていく隊員達
「…博士,約束は守ってもらったので協力はするけど…もう1つの方も頼むよ?」
「分かっておるよ,ではまた」
A-Zent拠点ビル/時間遡行装置
犯人は瀬戸内 始
2072年12月24日へと時間遡行を行った
目的は不明
だがこの日には大物女優のジェームズ・マリアンヌが来日している
データによればジェームズ・マリアンヌは既に他界
だが死因は不明となっている事から恐らく犯人の目的は来日しているジェームズ・マリアンヌだと仮定
今回の時間犯罪の対応する隊員は網笠,沖牙の二名
過去へと遡った犯人の確保が任務である
「それにしても本当に過去に行くんだなぁわっしら」
「…頼むから余計な事はしないで任務に集中して欲しいけど…」
「ひゃっひゃっひゃ,しっかり任務は全うするよ」
「…胡散臭いなぁ…」
時間遡行装置の中へと入り待機する二人
初めての体験だ,二人とも緊張は…別にしてはいないが
未だ過去に遡ったのは犯人と終身刑を言い渡されている早瀬川の二人のみ
過去へ遡るとはどういう事なのか
それらの体験をした者はA-Zentの中にはいない
前例のない時間犯罪への対処という重大な出来事が始まろうとしている
歴史が失われてから最初に起こる重大な歴史の1ページ目が時間遡行装置の試験稼働とは皮肉なものだ
「…ではそろそろ装置を作動させる,最初にも言ったがルールはしっかりと守ってくれたまえ」
今回の時間遡行で定められたルール
過去の人間を殺してはいけない
例え目の前で誰かが殺されそうになっていたとしてもそれを助けて未来が変わってしまう恐れがある為防いではいけない
情報を漏らしてはいけない
これらが最初に定められたルールだ
そして犯人を必ず確保する事
だが犯人は既に肉体そのものを過去へと送り込んでいる
その為確保と聞こえの良い言葉ではあるが実際には抹殺である
「……検討を祈る」
装置が作動する
二人は時間遡行装置の中で意識を失った
今の体には意識はもうない
過去へと転送されている
それを見送る二人は目を合わせてただ祈るばかりだった
「…頼んだぞ,網笠,沖牙」
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