総務省公文管理局時間犯罪対策班:A-Zent【エージェント】

狼谷 恋

【Beginning of History】PartⅠ

【Prologue】


今存在する世界は情報の集合体の様なものである


我々人間が存在する以前からこの地球という星は生を持ち


その地球で幾つもの種が繁栄と絶滅を繰り返してきた


そして今この地球を支配しているのは人間という種という事になっている


厳密には微生物が支配しているとも言われているのだが知的生命体という意味では人間が最もこの地球で成功を収めている種族と呼べるだろう


しかしそれは今となっては過去の記憶となりつつあり,この先もそうであるのかは誰にも分からない


西暦2102年


アインシュタインの再来と異名を持つ日本政府の時貞博士が率いる時空研究チームが時空に関するとある公式を発見する


その公式とは今まで長い年月を掛けても人類が到達する事が出来なかった時空そのものを解明する為の非常に重要な公式であり,研究チームは未だ人類が足を踏み入れた事のない領域へと歩みを進めたのだった


時空


それは過去であり現在でありそして未来でもある


時空とはそれらを全て一つに纏めたものでありそこには過去,未来という概念は存在しない


ただ我々人類が生きているのが現在というポイントなだけであって過去や未来の人間からすれば過去や未来がその人にとっての現在という事になる


時貞博士はこれらの公式を解明すれば人類が成し得なかった絵空事を現実のものとする事が出来ると考え多額の資金を日本政府から得て研究を進めた


それから10年の歳月が経った西暦2112年


時貞博士は時間遡行装置,通称タイムカプセルと呼ばれるものの開発させた


過去を現在とする装置


分かりやすい言い方をするのであればこの装置を使用すれば過去の時代へと遡る事が可能となる


日本政府はこの装置の完成を大いに喜び賞賛した


しかし異変はこの時起こったのだった


同時期に過去に起こった事件や有名な出来事に関する情報の99%が消失


それに伴い人々の記憶にも変化が起こったのだ


例えば過去に起こった有名なアメリカでのテロ事件である9.11事件


人々はその事件が起こった事は認識しているものの,何故その様な事が起こったのか,どうやってその事件は解決したのか,そしてはっきりとどういう物だったのかを答えられなかった


集団記憶喪失…という単純な話ではない


日本,中国,アメリカ…いや…それだけではない


確認可能な全ての国の人間に同様の事象が起こっていた


日本政府は原因を突き止めるべく尽力したが核心を得られるものは見つからずに頭を抱えた


その間にも時貞博士は公式を解き進め新たなる結論へと辿り着いた


これまで誰も作り上げる事が出来なかった時間遡行装置を現実のものとしてしまった事により過去への干渉が可能となってしまった事


すなわち過去を変える事が可能となってしまったという事実


その手段が確立してしまった時点で過去というものが不確定なものへと姿を変え,現在,そして未来もその不確定な過去に基づいた不確定な物へと変貌してしまった


現在の状況は不確定な過去による不確定な現在という,曖昧な時空をあてもなく彷徨っているという状態でありその状態が長期に渡り続くと時空そのものに壊滅的な影響を及ぼし…時空そのものが崩壊する恐れすらあり得る


この事実から日本政府は時間遡行装置を永久凍結,計画の全データの抹消を決めたのだが時貞博士はこれに反論


その理由として消えたデータは99%であり,残りの1%のファイルに記載されていた事が要因だ


2068年


テロリスト大量虐殺事件


とある一般市民によってテロ組織の1つが壊滅させられたという事件でありいくらテロリストと言えど殺人は重罪であり犯人は終身刑を言い渡されて現在も服役している


だがその犯人,早瀬川 新はおかしな事を繰り返し訴えかけていたという


それは未来からやって来て悪質なテロを阻止したとの事だ


精神的に異常を抱えているのかと思われたが,現在こうして時間遡行装置が完成し過去への干渉が可能となった事を考えるとあり得ない話ではない


今一度話を聞いてみてから結論を出して貰いたいと博士の強い要望によって面会が認められた


「…早瀬川さん,君の事について聞かせてくれないかね?」


「……………」


「……話すつもりはないかね?」


「…すげぇ…あんたが作り出したんだろ?時間遡行装置」


「……では君は本当に未来から?」


「そうだ」


「教えてくれないかね?君の未来の出来事を」


「…博士,あんたの作った時間遡行装置は大した発明だ,それこそ喉から手を欲しがる奴が大勢いたし俺もその内の一人だ,俺だけじゃない…その為にあんた達はあの組織を作ったんだろ?」


「…あの組織とは?」


「おっと……どうやらまだ作られてないみたいだな……話は終わりだ,じゃあな博士」


にわかに信じ難い事だが時間遡行装置のデータは何者かに盗まれ,それを元にして作られては未来では様々な人間が使用してこうして過去へと遡っているらしい


そしてそれをどうやって察知するかも分からない


例え今時間遡行装置を永久凍結させたとしてもこうして未来から過去へと遡ってきた人間がいる以上は失敗している事は容易に考えられる


それよりも問題なのはこうして過去に起こるであろう事件がこうして改変されてしまう事


過去を改変されてしまえば不確定な過去は確定された過去になり,それに基づいて現在は大きく形を変えてしまうだろう


アニメや映画の様に,ある時存在すらも急に消えてしまい誰の記憶にも残らない…そんな事が現実となってしまった


日本政府はこれら過去を改変する行為を時間犯罪と呼称


そして時間犯罪を取り締まる組織


総務省公文管理局時間犯罪対策班


通称:A-Zent【エージェント】が設立された

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