第2話 宣戦布告



 ————体育館【第一階層】自由広間



 俺は東京ドーム一個分くらいの広さに変貌した体育館に来た。


 自宅に帰ることが不可能な状況の中、皆が休息や寝泊まりをする場所として利用している。テントを張って滞在する人や、寝袋を敷いて雑に横になる人、スポーツを楽しむ人、カードゲームを楽しむ人など、様々な形で余暇を過ごしている。


 天災人や魔獣の襲撃に遭遇する可能性もあるが、基本的には安全地帯と考えてもらっていいだろう。上級魔術師である生徒会書記による結界術が機能しているからだ。


 そんな自由広場に滞在していた、友人の森田もりた哲也てつやが声をかけてきた。


「タクト、今日もアイツらにボコられたんだってな」

「調理室に食料貰いに行こうと思ったら、出くわしちゃったんだよね」

「そりゃ災難だったな」

「笑い事じゃないぜ全く……」


 俺の親友で中学時代から交流のあるてっちゃんだ。明るい性格でクラスのムードメーカー的な存在の彼は、ダンジョン攻略を積極的に行う一人である。


 元々空手を習っていたこともあり、物理攻撃で殴り倒すのが得意なナックル使いだ。その反面、他の装備を扱うことが一切できないデメリットも併せ持っている。


「ヤンキーとか魔獣をギャフンと言わせてやりたいから、今度殴り方教えてくれよ」

「教えてやってもいいけど、ここではあまり意味を成さないだろ」


 ダンジョンでは鍛錬を行ったとしても経験値を得られる訳ではないので、敵を倒すことに注力した方がいい。マネーと同じく、強敵であればある程高い経験値が得られる。


「そういえば、タクトのギルドカード見たことないけど、今どんな感じなんだ?」

「発行当初とあまり変わってないかな。本気で活動しようと思ったの結構最近なもんで」



【名前】≪天馬タクト≫

【適正】≪近接攻撃系統≫

【レベル】≪12≫

【所持金】≪15000M≫

【装備】≪木の剣≫<斬撃力50↑>

【スキル】≪スラッシュ≫

【斬撃力】≪74≫【破砕力】≪24≫【射撃力】≪0≫

【投擲力】≪0≫【魔法力】≪0≫【支援力】≪0≫

【窃盗力】≪0≫【観察力】≪0≫【防御力】≪0≫



 俺の場合は近接攻撃に適性があるから、レベルアップによる能力上昇は、【斬撃力】と【破砕力】の能力上昇に限定される。装備をセットする事で対象のステータスが大きく伸びているが、近接攻撃タイプの武器しかセットできない。


「タクトの場合は斬撃力と破砕力だけ気にしてればいいだろ」

「どうひっくり返っても魔法は撃てないからな」


 バランスよくパーティーを組むことができればいいんだが……てっちゃん以外に仲の良い友達がいないから厳しいな。だって入学早々にダンジョン化してるから、新しい友達とか出来なかったんだ。言い訳じゃないぞ!


「タクトとは適性が被ってるから、苦手なタイプの敵が来るとどうにもならないよな!」

「違いねぇ」


 二人で他愛もない話をしていると、校内に放送が流れ始めた。放送の鐘が鳴らされると同時に、賑やかな雰囲気の体育館が一気に静まり返る。



 ◇



『ピンポンパーンポーン』

『軟弱な生徒の諸君ご機嫌よう。アタシはヤンギャルの一条いちじょう優里亜ゆりあ


 第三階層に位置する放送室からの通信だ。

 現在放送室は天災人が制圧しているため、放送が流された時点で奴らだとすぐに分かる。

 

『安全地帯に引きこもるお前達に朗報ですわよ。一年C組所属の女子生徒を……監禁しちゃいましたぁぁぁ!! キャハハハハハッ……あぁマジおもろい。明日の午後三時までに放送室まで来なさいな。時間までにだぁれも来なかったら……身ぐるみ剥いで……大変なことになっちゃうから♪』


 放送が途切れた。

 体育館内がざわついている。


 指定の時刻までに誰かが助けに行かなければ、どんな目に遭わされるか分かったもんじゃない。


「同学年の生徒が捕まってるんだ。見捨てる訳にはいかない」

「同感だ。俺はタクトに着いてくぜ!」


 相手は天災人の幹部の一人である可能性が高い。万全の準備を整えてから挑む必要があるだろう。今回は強力な助っ人のてっちゃんが近くに居てくれるから心強い。


(仲間に頼りっきりじゃダメだよな。新しい装備を購入して戦力強化を図ろう)


「今日中に新しい装備を買おうと思うんだけど、剣と拳どっちが俺に向いてると思う?」

「うーん、タクトの性格的に剣の方が向いてる気がするけど」


 剣は近接武器ではあるが一定の距離を保つことができる。一方で拳は直接相手に破砕ダメージを与える超近接武器に該当する。言ってしまえば素手で直接殴り合う感覚に近いだろう。


「ちょっと弱い魔獣倒したくらいだとわからないよな」


 どちらが俺に向いているのか判断しかねるから、15000Mで買える最高火力の武器を買うのが無難だな。ギルドに良さそうな武器が入荷してるといいんだが……。


「やっぱり他に戦う意思のある生徒はいないのか」

「こればっかりは仕方ねーよ」

「今回はてっちゃんと二人で突っ込むっきゃないね」

「そんじゃ、職員室に行こうぜ相棒!」

「おうっ!!」


 唐突に宣戦布告を受けた避難組の生徒達。

 俺は明日の決戦に備えるべく、改めて気合いを入れるのだった。


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2024年11月1日 07:21

迷宮高校で雑魚と蔑まれた俺、特殊礼装メリケンサック【極】で無双を始める〜望んでないのに美少女達にモテ始めてる件〜 @0wc2k

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