ばあやは顔を上げ、門番に言った。



「…城の決まりに従います。ですが、暫し お待ち下さりませ。


私は、老い先の短い身。これが今生の別れになるやもしれません。せめて…別れの言葉を…!」



そう言われ、門番は頷いた。



「…いいだろう。」



「ありがとうございます。」



頭を下げた ばあやは、花音に向き直って強く抱き締める。

それから花音にしか聞こえないよう、耳元で囁いた。



「…花音様…申し訳ございません…!お側にいると約束しましたのに…!」



それに対し、花音も小さな声で答える。



「…大丈夫です。上手くやります…!

ばあやさんは、お夏さんの事を お願いします。」



すると ばあやは身体を離し、深々と頭を下げた。



「心得ました。…どうか…お元気で。」



「…ばあやも元気で…!」



花音は お夏になりきり、頭を下げずに返事をした。



「…では、姫君は こちらへ。」



門番に指し示されて、花音は門へ向かう。


門が開き、中に入るように促された。指示に従って中に入ると、すぐに門が閉まる。



「…あっ…!!」



花音が振り返ると、閉められてゆく門の隙間から、深々と頭を下げ続けている ばあやが見えた。


けれど、すぐに門が完全に閉まり、ばあやの姿も見えなくなる。



「………。」



(…私は…これで完全に独りぼっちか…。)



そう思ったら急に不安になって、花音は俯く。

そこへ、水色の着物を着た女中らしき人がやってきた。



「お夏様ですね?どうぞ こちらへ。」



導かれた花音は、黙ってそれに従う。女中らしき人の後ろを歩きながら、様子を窺った。



(私より少し背が低いかな?歳は同じくらいな気がするけど、落ち着いた声だから年上かな?


優しい人なら良いけど…。)



そうこう考えているうちに、屋敷の玄関らしきものが近付いてくる。



(わ~!修学旅行で行った、京都の二条城みたい!


…なんか凄すぎて、本当に夢なんじゃないかって思えてきた。)



思わず立ち尽くして建物を見回す。

派手さは無いが、木造の平屋で、屋根は瓦で覆われていた。



(外から見る感じ、すごく広そう!部屋も たくさんあるんだろうな~!)

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狼の花園〈完〉 @musashiyuminonekomaro

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