19.そして5人の未来は……
拳太が『いじめっ子は誰だゲーム』に強制参加させられてから、十日が経った。
放課後、拳太が退院した優衣と一緒に下校しようと校門を出ると、聞き覚えのある声がした。
「お久しぶりね、拳太くん」
拳太は相手を見て驚いた。
「夏風さん!」
私服姿の夏風がニッコリ笑っていたのだ。
優衣が言った。
「誰? あの人。お兄ちゃんの年上の彼女さんとか?」
「違うよ!」
「ふふふ、いいよ。お邪魔虫の妹は先に帰っておくから」
優衣はそう言うと、トコトコと走りだした。
「違うってば!」
妹を追いかけようかと迷う拳太に、夏風が微笑みながらたずねた。
「元気そうに見えたけど、今のが病気の妹さん?」
「うん。ユグゥラは約束を守ってくれたよ。お医者さんは奇跡だって言っていたけど」
「そっか。よかったわね。それはそうと、ちょっと場所を変えない?」
他の下校中の児童の目や耳を気にせず話したいからと言われ、拳太もうなずいた。
2人は近くの児童公園へ行き、ベンチに座った。
「やっぱり、あれは夢じゃなかったんだね」
あの日、ゲームに勝利した拳太は、小学校の教室で目を冷ました。窓に鉄格子なんてない、サクラ第2小学校5年3組の教室だった。
あのゲームは夢だったのか、それとも現実だったのか。
混乱しながらも叔父の家に帰ると、優衣の病気が治ったという連絡があった。
「夏風さん、どうしてここに?」
「あのゲームが本当にあったことなのかどうか、他のプレイヤーに連絡して確かめてみようと思ってね。拳太くんの学校名は聞いていたからさ。今日は私の中学が開校記念日で休みだし、直接たずねるのが早いかなって」
「そっかぁ。ぼくは最初に学校名言ったもんね」
「いちごちゃんの動画チャンネルも見つけたわよ」
「ホント? ぼくも有名配信者を検索してみたんだけど、なかなか見つからないよ」
「そりゃそうでしょ。私も探すのに苦労したわ。あの子、インフルエンサーなんて言っていたけど、登録者数百人ちょっとじゃない。どこが有名配信者なんだか」
夏風が自分のスマホを操作してから拳太に見せた。どうやらいちごの動画配信チャンネルを表示してくれたらしい。
「あー、たしかに登録者数も再生数も少ないね。あ、謝罪動画上げてるみたい」
「そうね。日付を見るとあのゲームの後にUPしたみたいだけど」
「許してもらえるのかな?」
「知らないわよ。でも、人の噂も七十五日っていうし、みんな小学生の調子にのったアホ発言にいつまでも興味もてないんじゃない?」
そもそも炎上した生配信の発言にしても、せいぜい『口が滑った』程度のことだ。ちゃんと頭を下げればいつまでも燃え広がりはしないだろうと、夏風は言った。
拳太は夏風に聞いた。
「昭博さんの会社のニュースは見た?」
「ええ、もちろん」
公園の遊具を製作する会社が、安全性チェックを怠っていたとしてニュースになっていた。そのニュースに『社員Aさん』として会社の不正を告発している人も登場した。顔が出なかったし声も加工されていたが、昭博の話し方によく似ていた。
「いちごちゃんの炎上と違って、あの会社の話題はなかなか消えないでしょうね」
「昭博さん、がんばったんだね」
「もともと公的機関が調査していたらしいし、あのオッサンがわざわざ内部告発なんてするまでもなくとっくにヤバイ状態だったんじゃない?」
「いちごちゃんと昭博さんのことはわかったけど、夏風さんはその後どうなの?」
「なにが?」
「いじめとか……」
夏風が苦笑した。
「そもそも私がいじめなんて苦にする性格だと思う?」
そうたずねられれば拳太としても困ってしまう。
「もちろんそれなりにはつらいわよ。でも、そんなことに悩むよりもやることがあるしね」
「やることって?」
「高校受験の勉強。公立の高校に進学してバイトでもしながら一流大学を目指すつもりよ。目標があったら、いじめっ子の相手なんてしている暇はないわよ」
「強いね、夏風さんは」
「さあ、どうかしら。ただの強がりかもしれないわよ? それで、拳太くんの方はどうなの? 従兄弟さんや学校でのいじめは相変わらず?」
「もう大丈夫だよ」
そう言ってから、拳太は説明した。
優衣の病気が奇跡の回復をしたあと、拳太は叔父に言った。中学に入学したら自分がバイトするから、従兄弟に中学受験させてほしいと。
「それで?」
「ぼくと従兄弟二人並んで正座させられて叔父さんに叱られちゃったよ。『子どもが余計な心配をするな。そこまで俺が頼りないのか』って。叔母さんも『いざとなったら私も復職できるし、なんならぼくや優衣も私立の中学に入れてあげるわ』って」
「優しい人たちじゃない」
拳太は頷いて続けた。
「それから、従兄弟がぼくに謝ってくれて。クラスメートにもこれ以上ぼくをいじめるなって言ってくれたよ」
「メデタシメデタシってこと?」
「多少のわだかまりはまだあるけどね。少しずつみんなと仲良くなれると思う」
結局、叔父や従兄弟と、もっとちゃんと話し合うだけでよかったのだ。
それから、拳太はあのゲームのあとずっと考えていたことを口にした。
「思うんだけどさ。ヤマトくんはぼくらを殺すつもりなんてなかったんじゃないかな?」
「ユグゥラは本気で殺すつもりだったと思うわよ?」
「ぼくもそう思うよ。でも、ヤマトくんは勝ち残った時になにを願うつもりだったのかなって」
ヤマトが望んだスリリングで命がけのゲームを作りたいという願いは最初から叶っていた。ならば、ヤマトは自分が勝ったらユグゥラに何を願うつもりだったのだろうか。
「自分が勝ち残ったら、優勝の願い事で私たちを殺さないでほしいって言うつもりだったと? さすがにお人好しすぎる推理じゃない?」
夏風があきれたように言った時、上空から声がした。
「全くだぜ、あきれちまうよな!」
拳太と夏風が見上げると、大木の枝にヤマトが座っていた。
「ヤマトくん! いつのまに?」
さっきまで、誰もいなかったはずなのに!
すると、木の裏からユグゥラがヒョコっと顔を出した。
「ワシと足利川ヤマトから、お主ら二人に報告があって来たのじゃ」
猛烈に嫌な予感がした。
「なんだよ、報告って」
ヤマトがニヤリと笑って言った。
「今、俺様はコイツと一緒に新しいゲームを作っている。できあがったら是非とも拳太お兄ちゃんと夏風お姉ちゃんにもプレイヤーとして参加してもらおうと思ってな」
「今度のゲームはすごいぞ。もっともっとスリリングでワクワクする命がけのゲームじゃ。楽しみにしておれ、秋海拳太、玉村夏風!」
言いたいことを言って、ユグゥラが右指を鳴らすと、二人は消えていなくなった。
夏風が拳太に言った。
「これでも、お人好し推理を撤回しない?」
「さすがに撤回するよ! 次のゲームがあるっていうなら、あの二人に絶対にギャフンって言わせてやる!」
拳太はそう言って、二人が消えた上空をにらむのだった。
【命がけの投票サバイバル!『いじめっ子は誰だゲーム』 完】
命がけの投票サバイバル!『いじめっ子は誰だゲーム』 ななくさ ゆう @nanakusa-yuuya
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