18.いじめっ子の運命
ヤマトを殺そうとするユグゥラに、拳太は言った。
「ちょっと待って」
「なんじゃな?」
「まだヤマトくんに聞いていないことがある」
ヤマトは拳太をジロっとにらんだ。
「なんだよ?」
「ヤマトくんはいじめっ子だっていうけど、どこの誰をどうにいじめたんだよ?」
拳太が聞くと、ヤマトはヤレヤレと手を広げて見せた。
「いまさら聞きたい?」
「ああ」
「俺様がいじめたのは、明夜いちご、お前だよ」
その言葉に、いちごが首をひねった。
「身に覚えがないんだけど?」
「次のゲームでコリコの歌を使うことになってSNSで検索したんだ。そしたらお前の失言にいきどおっているファンのアカウントを見つけてさ。冗談半分で拡散しちまった」
「マジで?」
「ああ。元の発言主はフォロワー数1桁のザコだったから、俺様が拡散しなかったらあれほどには炎上しなかっただろうよ。要するに、ネット上でお前がいじめられるきっかけを作ったのが俺様ってこと」
「なんでそんなことしたのよ?」
「俺様としてはさ。たかだか登録者数一万もいないてザコ小学生動画配信者なんだから、そんなにムキになるなよっていうコメントをつけたんだけどな」
つまり、ヤマトはいちごを炎上させようとしたのではなく、かばったということか。
「でもまあ、俺様のアカウントって10万人以上フォロワーがいるからな。その中にはコリコのファンもいたみたいで、余計お前の動画が炎上しちまった。悪かったな」
ヤマトはニヤっと笑った。
いちごが「あー」と声を上げた。
「そういえば、アタシのことをかばってくれたゲームクリエイターのアカウントがあったわ。アレってヤマトくん?」
「まあな」
「炎上中にかばってくれてうれしかったよ。アタシのことをザコ動画配信者とか言っていたのはムカついたけど」
ヤマトはぷいっと顔を背けた。
夏風が眉を寄せた。
「それって、別にヤマトくんは悪くなくない?」
拳太も同意見だ。というよりもだ。
「ヤマトくん、キミはゲームに参加するためにいじめっ子を自称しただけじゃないの?」
拳太は思う。
(だとしたら、このままヤマトくんをユグゥラに殺させることなんてできない!)
ヤマトは顔を背けたまま言った。
「さあ、どうだろうな?」
拳太は天井付近でニヤニヤ笑うユグゥラをにらみつけた。いや、拳太だけじゃない。夏風もいちごも昭博も、ユグゥラをにらみつけていた。
だが、ユグゥラは知ったことかとばかりに吐き捨てる。
「くだらん話はそこまでじゃ。ゲームは終了。敗北した者には死あるのみじゃ」
ユグゥラは右指を慣らそうとした。
拳太は叫んだ。
「待てよ!」
「ゲームのルールを決めたのは足利川ヤマト自身じゃ」
そのとおりだ。それに、もしもヤマトが勝っていたら、拳太たちが殺されていた。
それを理解してなお、ヤマトを助けたかった。
拳太はヤマトをかばうように、ユグゥラとの間に立ち塞がった。
「無駄なあがきを。そんなことに意味がないとまだ分からんのか?」
分かっている。ユグゥラの力の前にはなんの役にも立たない。
ユグゥラは拳太を見下ろし言った。
「それとも、妹よりも、足利川ヤマトを助けることを優先するか?」
「え?」
「ゲームの勝者の願いを叶える。それもまたこのゲームのルールじゃ。もしも、お主が妹の治癒ではなく足利川ヤマトを助けることを願うならば、ワシも認めざるをえんな」
ユグゥラはそう言うと、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
(こいつ!)
それはまさに究極の選択だった。
ユグゥラは拳太が苦悩する姿を見て楽しんでいるのだろう。
まるで、こうなることをユグゥラが望んでいたかのようだ。
この自称神様はどこまでも性格が悪い。
(どうする? どうする?)
優衣とヤマト、どちらかしか助けられないなら、その選択は決まっている。
大切な妹と、拳太たちをこんなゲームに巻き込んだヤマト。
天秤に乗せるまでもなく、優衣の方が大切だ。
(でも、それでもっ)
拳太はユグゥラに言った。
「ぼくの願いは、『願い事を2つに増やすこと』だって言ったら?」
「そんな古典的な反則技に、ワシがうなずくとでも思うか?」
(まあ、うなずかないだろうな)
拳太も言ってみただけだ。
(考えろ。考えるんだ。ひとつの願い事で優衣とヤマトくん両方を助ける方法を……)
『優衣を助けてくれ』でも『ヤマトくんを助けてくれ』でもダメだ。
その時、拳太は思いついた。
(この願いなら……)
「なら、ぼくの願い事を言うよ」
「ふむ、聞こう」
「ぼくが助けたいと思っている
ユグゥラは苦笑した。
「なるほど、願いはひとつでも、救える命は2人か」
「これならいいだろ?」
「どんな願いでも叶えると言ってしまえば、言葉の使い方次第でどうとでもなると。まったく、足利川ヤマト、お主のゲームは賞品まで欠陥だらけじゃったのう」
ユグゥラはつまらなそうな顔で拳太に言った。
「よかろう。秋海拳太、お主が助けたいと思っているのは、足利川ヤマトと秋海優衣の2人じゃな?」
「ああ、それでいい」
「その願いを叶えてやる。お主の妹の病気は治すし、足利川ヤマトを殺すのもやめじゃ」
一方、ヤマトが不満そうに言う。
「なんのつもりだよ! 俺様を助けていい気になりたいのか?」
「別に。単にキミを殺した罪悪感を一生背負うなんてゴメンだってだけ」
ヤマトが「ちっ」と舌打ちした。
「それに、どういう形であれ妹の病気が治るのは、ヤマトくんがぼくをゲームプレイヤーに選んでくれたおかげだしね。一応、ありがとうって言っておくよ」
ヤマトの顔は屈辱にまみれていた。
一方、ユグゥラは「ふん」と鼻を鳴らした。
「つまらん。ワシからすれば本当につまらん結末になったな」
拳太は最後に1番気になっていたことを、ユグゥラにたずねた。
「結局、お前って何者だよ? この世を創造した神様だなんて思えないけど?」
「それは当然じゃな。ワシは世界を作ったりはしておらん」
「じゃあ神様じゃないじゃん」
「おやおや、知らんのか? 日本には
ユグゥラはそう言うと、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、拳太の意識は闇に落ちた。
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