第6話

▶第三話

※小説形式での記載。


 さて、説明しよう!


 私が転生した乙女ゲームは、剣と魔法のファンタジーRPGの世界!


 ……でも、魔法は一部の人物しか使えない。


 シナリオの導入は、占い師の予言から始まる。


 簡単にまとめると、こう。


――遠くない未来、世界は「闇の因子」で溢れる。

 そうした世界で人々は、「闇の因子」に囚われ、我を見失ってしまう。


――いわゆる闇落ちですね。わかります――


 そうして世界に「闇の因子」が溢れると、やがては「闇の根源」が目覚め、世界を滅ぼす。


 しかし希望はある。


 すべてを束ねる「神子」とその使者たちが、「闇の根源」を浄化することが出来るからだ――


 ……と、ざっくりとこんな感じ。


 そんなわけで占い師は、光を束ねて闇を払う「白の神子」と呼ばれる少女を異世界から召喚する。


 「白の神子」と共に闇に立ち向かう使者は三人。

 彼らは使者の証として左手の甲にアザを持ち、それぞれの属性の魔法を操ることが出来る。

 「神子」は彼らと想いを通わせることで、使者の力を借り受けることが出来る。


 そうやって「白の神子」と使者たちは協力して、「闇の因子」に囚われた人々や「闇の根源」を浄化する。


 もちろん乙女ゲームのヒロインが、「白の神子」。

 そして、攻略対象は三人の使者。


 そして今は、ゲーム開始前。


 それじゃ私は、何故悪役令嬢なのか?


 ゲーム中で「白の神子」と敵対することになる、闇を司り「闇の根源」を目覚めさせるきっかけとなる「黒の神子」と言う悪役が、ノワール。


 つまり、私なのだー!


 さっき兄さまに見せびらかしたら隠すように言われた、このじーっと見ないと良く見えないアザが「黒の神子」の証。


 シナリオでは中盤で「闇の因子」が活発になり始めてから、占い師によって「黒の神子」の存在が明らかになる。


 実際にも今のところ「黒の神子」の話は、身内でしか出てきてない話題。


 だけど、もし知られでもしたら大変なことになる。

 だから兄さまは、私にアザを隠すようにいつも言っているんだ。


 と言っても、小さい頃は母さまたちには、よくあるごっこ遊びに思われていたみたい。


 それが「白の神子」の予言が出始めた最近になってようやく、「知られたらまずいやつじゃないか?」って思い始めて来た様子。


 さてさて。


 そんな悪役令嬢は、例に漏れず各攻略キャラのルートに入ると、彼らから婚約破棄されたり裏切られたりする。


 その結果、ノワールは「黒の神子」としての力に目覚め、ヒロインたちの前に立ちはだかるのだ!


 ラスボスの一つ前のボスなので、中ボスとして!

 四天王の中でも最強のやつかな!

 四天王なんていないけど。


 ラスボスは、予言にも出てくる「闇の根源」。


「黒の神子」が絶望したり命を落としたり、色んな原因で最終的に「闇の因子」が世界に溢れてしまうと「闇の根源」が目覚める。


 今さらっと言ったけど、このタイミングでノワールが死んだりするからね!


 対する「白の神子」は「闇の根源」の目覚めを阻止、あるいは浄化するのが最終的な使命になる。


 そして攻略対象との恋愛を達成させる! させないルートもある! ガードは出来る!


 そしてそして!

 一番放っておけないのがこれ!!


 ゲーム中だと各攻略キャラのエピローグでさり気なく暴露される程度なんだけど、ノワールが死ぬと!

 双子の片割れが、必ず! 命を落とす!!


 これ重要!

 めっちゃ重要だからね!!


 だってそれって、私が死ぬと兄さまもろともってことだもん!


 迂闊に死ねないよ、死ぬ気はないけど!


 ……と言っても。


 私の破滅フラグについてはさんざん兄さまに語っているけど、実は兄さまが巻き添えになることまでは言ってない。


 だって、よりによって私が死ぬときは兄さまも一緒なんだよ? とか言えるわけないし……。


 双子だし運命共同体だね、とか仲が良いね、とかって言うレベルじゃないよ。

 こんなんじゃ死神だよ、私……。


 でも最終的には、私が私の破滅を回避すれば、兄さまの死も回避できる!

 なので、わざわざ兄さまを不安にさせることもない。


 だから、私がやることは決まっている。


 攻略キャラルートでの破滅を回避すること。

 黒の神子としての力を覚醒させないこと。


 そして、決して死んではいけない、こと。


 大丈夫、キュリテは私が死なせないからね!



「それで? 俺に女装させて、お前が良く言う破滅を回避したいって?」

「そうなの! 例えば私の婚約者でかつ攻略対象の一人、ガイアスルートだと、こう!」

「いや、散々聞かされたし知ってるんだけど……」


 兄さまには英才教育を施し済みである、まる。

 そんな兄さまのツッコミはさておき、私は説明を続けた。


「婚約者と白の神子の仲が良くなったことが許せなくて、悪役令嬢ノワールは嫉妬に狂って黒の神子としての力に目覚めるの! その力を使って白の神子たちを襲おうとするんだけど、逆に退治されたノワールは生涯幽閉されることになるんだけど、孤独に耐えきれなくなってじっ……破滅するんだよ」


 破滅の直前までは息継ぎしないで説明したよ、どうだっ!

 噛まずに言えた!


 前に同じ説明をしたときに「自殺する」って言ったら、すごい剣幕で怒られたのを思い出して言い直した。


 今は微妙に睨まれてるのでちょっとアウトだけど、まだ怒られてないからセーフセーフ。


 ちなみに今言ったルートだと、ノワールが自殺することによって黒の根源が目覚めてしまう。


「ノワールはお前だろう、なんでそんなに他人事のようにイキイキと……。そもそもお前、婚約者に見向きもしてないじゃないか」

「それも破滅回避計画の内だよ! どう? すごいでしょう?」


 それなりに育っている私の胸を張ってみせる。

 兄さまは綺麗な顔に微妙な表情を浮かべていた。


「そもそも将来ガイアスルートに行くことがあるとしても、あまりの放置プレイに時折あいつが哀れになるくらいなんだが……。まあ構うと調子に乗るから、これぐらいが良いのかもしれないが……」


 浮気するような相手に憐れみを感じる必要なんてありませんー!

 実際のガイアスは、まだ浮気してないけど。


 だって白の神子ちゃんはまだ召喚されていないし。


「そんな状況で、お前が嫉妬に狂うとか考えられないんだが……」

「油断は禁物!」

「俺はそれを、お前のアザに対して言いたい」

「ぐっ」


 ぐうの音も出ない。出たけど。


「それなら、嫉妬のしようがないガイアスルート以外なら、問題ないだろう?」

「それもダメなの! どのルートも最終的にノワールは白の神子と敵対するの」

「なんでだよ、黒の神子だから? 面倒くさいやつだな、ノワールってやつは」

「私のことだけど、私じゃないから私に文句言わないでよ!」

「本当にそう思う。いつも聞いてる限りじゃポンコツなお前と性格が違うだろう? 完全に別人の話してるな、これは」

「ポンコツ言わない! とにかく!」


 ごほん。と一つ咳払い。


「白の神子と私が関わるとロクなことにならなさそうだから、兄さまと私とで入れ替わってフラグを回避しよう! と言うのがこの『キュリテ兄さま美少女化計画』、略して!!!」


 商品を紹介するような感じで、さっき下げさせられたウィッグと衣装を手に取って見せる私。


「ぱんぱかぱーん!! 『キュリテ姉さま計画』の趣旨でございます!!」

「ね、え……さま?」


 ふふふーん。

 一度兄さまを女装させてみたかったんだよねー!

 それで「姉さまー!」って言って沢山甘えたかったんだー!!


 女の子の格好した兄さま、もとい姉さまは絶対にきれいでしょう!

 これは間違いありません! ふふふー!


 呟いたまま目を見開いて呆然としていた兄さまが我に返った。


「ちょっと待て。なんだその計画名。目的と手段が逆になってないか!?」

「そんなことないものー! 一石二鳥なんだもーん。趣味と実益を兼ねるんだもーん!」

「ノワールはどうしてこんなに欲望に忠実に育ってしまったんだろう。悪役令嬢、黒の神子の宿命? いやそんなバカな」


 ぶつぶつと呟く兄さまの胸元にぐいぐい衣装とウィッグを押し付けると、嫌そうな表情で押し返された。


 でもそんな表情もなんか可愛い! いいよね!

 この顔が女装すると思うとたまりませんね!

 可愛くて、ぎゅーって抱きしめたくなるよね!


「こういうときだけ以心伝心って思うんだよ」

「え?」


 おっと。どうやら興奮が顔に出ていた様子。


 疲れた様子で兄さまは溜め息をついていた。

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双子兄さまの悪役令嬢女装? 大丈夫、破滅回避の主戦力だよ! ~深層反転の真偽編集者《バイナリィヱディタ》~(コミック原作大賞応募用) 江東乃かりん(旧:江東のかりん) @koutounokarin

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