第42話 可愛い彼女と可愛い猫のベストマッチ
「ほうほう。ここが猫カフェという代物なんですねぇ。私、初めて来ちゃった。いやー、可愛い猫ちゃん多くて…可愛いです」
「言葉が成り立ってないなぁ。可愛すぎて語彙がなくなってしまったか。大好きな猫だもんね、仕方ないね」
「そうそう、しかたn……なんで知ってるの!?」
声のキーを高くして驚き、動揺の色を見せる。
その後に公共の場だと自覚して驚きを収めようとする彼女が可愛らしい事か。
微笑ましいと見つめつつ、このまま帳消しにできないかと企むが、世の中はそう上手く事は運んでくれないらしい。
羞恥を感じていた由美であるものの、何故声を荒げたかを思い出し、声のトーンと声量を小さくして問いかける。
己が好きな物をどうして知っているのか、と。
最後まで隠し通す事ができなかった現実に対して唇を少々尖らせつつ、素直に白状する。
とは言っても、そこに大きな要因はない。
教えてもらった、などもなく。ただ……。
「私のスマホ画面、見たの?」
「満面の笑顔でスマホ見てたから。ちょっと気になっちゃって。黙っててごめんな」
「うむむ…謝られたら許しちゃうじゃん。そういうの、ズルイと思います。ズルたんズルたん」
「じゃあ後で俺の弱い物も見せよっか?それだったらお相子でしょ。その条件じゃダメかな」
「え!?良いのっ!?ではそれでお願いします!」
気分を高揚でもさせているのか、口調までもが上機嫌になっている。
通常のものとは異なり、テンションが向上し、声色も自ずと上がっていた。
先に見ていたのはコチラとは思えない程に気持ちが上ずっている。
その姿に少しチョロいと思ってしまったのだが…内心にいるイマジナリー陸によってその考えは叩き潰されてしまった。
由美がこうチョロいと思わせる姿を見せるのは祐二だけであるという事。
その事実をイマジナリー陸によって投げつけられてしまった祐二に平常心でいろというのはあまりにも無理な話。
徐々に上がっていく話どころではない…劇的に上昇してしまっている感情の波。
それを制御するのはポーカーフェイスを得意としている祐二でも難しい代物であり、赤面していく頬を止める術は存在していなかった。
「えへへぇ、見て見て…この猫ちゃん!すっごい可愛い……祐二くん?何してるの?ほっぺが赤くなってるけど。もしかして風邪だったりする?」
「いや、そういう訳じゃなくて。勝手に照れて悶えてるだけだから。彼女の可愛さに慣れなくて、毎回毎回やってるヤツ」
「うーん?つまりどういう事?私の可愛さと魅力に惚れちゃったって事でオーケーですか、祐二くん。全くもー、困った人ニャンねー。えいっ!」
膝に存在している猫を抱き抱え、やれやれと身振り手振りで表した後、額に猫の手でスタンプを押す。
その行動に驚きと困惑を感じている祐二を置いていき、更に身振り手振りを加える。
それに対して付け足しとして言葉を付け加えるので、悶えは加速してしまうのだ。
猫で遊び過ぎるがあまり、抱き抱えられていた猫は由美の体から飛び出し、ほんのりと苦々しい表情を浮かべるのも。
その体から繰り出される一つ一つの動作……それがどうしようもないくらいに悶えさせる。
恋、愛情、慕う、恋情……その全てに当てはまるようで、その全てに当てはまらないような。
祐二が抱いているのはそのような不確かな代物であり、確固として確立された代物でもあった。
「祐二くん…?」
「あぁ、悪い。見過ぎたな。由美が可愛いなーって見ていただけだから。そう気にしなくて良い題材だぜ?」
その言葉で説明するにはあまりにも熱量がこもり過ぎていた視線。
それに対して言及してもらうと言葉を突き進めようとする由美であるが、喋る気はない。
猫カフェ用に鍛えられた人懐っこい猫を呼び、問おうとしていた由美の言葉を封じる。
言葉で言わずとも、あの視線を説明する気はないと瞳で説明すれば、由美は呆れたようにため息を吐き、近くに来た猫を愛で出す。
互いに好きな猫を撫で、可愛がっている状態ではあったものの、片方は満足に楽しめてはいないようであった。
誤魔化しを押し通している彼氏に色々と思っているらしい。
気づくか気づかないか……その微妙な範囲で頬を膨らましていた。
可愛らしい己の彼女に苦笑いを溢しつつ、今はとりあえず楽しむ事に興を演じる。
***
「祐二くん、なんかボスっぽいね」
「ふふ、何それ。俺が猫を撫でてる姿ってそんなに厳つかった?ちょっとショックかも」
「いやいやいや!そういうつもりじゃないんだよ!余裕のある表情で撫でてるからさ。あと猫達が擦り寄ってる感じが媚びを売っているようで…」
ある程度の時間が経った時に由美が発した言葉へと内心でツッコミを入れつつ、少々変な事を言った由美の頬をつねる。
それによって痛い痛いと口ずさんでいるが、口の機嫌としては大分上昇しているので戯れ合いと認識しているのだろう。
余計な事を言ったお仕置きとしてつねったと言うのに、それで喜んでは本末転倒である。
「そんなに嫌だった?ボスって言われるの」
「嫌っていう訳じゃないよ。ただしっくり来てないだけ」
「ふむふむ、なら後で私がしっくり来るまで猫として媚びさせてもらおう!」
「よし、言質取った。家に帰ったらしてもらうからね」
「えっ、えぇ!?」
驚きによって目を見開かせているが、もう遅い。
男に挑発するような文言を送る方が間違っているのだ。
祐二を"変に挑発するとまずい"……それは知っていたはずだろうに。
「そろそろ良い時間かな。次いこー」
「うぐ、うぐぐぅ……」
猫カフェ出る時の二人の姿は、正に真反対と言える姿であった。
次の更新予定
変人VS変人ラブコメ 鋼音 鉄@高校生兼カクヨムコン参加中 @HAGANENOKOKORONINARITAI
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