第41話 気晴らしはデートに限る

「順次、何か進展はあったか?青空知恵が過去に起こした問題行動とか」


『んなもん言われましてもねぇ……あんまありゃあせんよ。というか、全くだ。あの子、エェ話はありますけども、悪う話は全くねえよ。他からの評判も最高に近いもんになってるし。悪い評判でも広めたいのか?』


「いや…そうじゃないんだが……」


順次の報告を聞いている横では祐二も調べ物をしているが、その内容も同じもの。

悪い評判など貶めようと悪意を持って広められるモノもあるだろうが……意図的に情報を潰されたかと勘繰ってしまう程に。


企業の娘なので、使われても不思議ではない。

不思議ではないが……意図的に情報を消された時のような不自然さはない。

まるで国が元々なかったかのように振る舞っているようだ。


普通に考えれば何もないだけと言えるだろうが……それにしては些か妙だ。

祐二の父親の黎斗は儲かる話には積極的に食らいついていく。

しかし、知恵の親の会社には離れていった。


どこか腐る話でもあったのだろう。


「ん?順次、12年前に社員が轢かれたらしいな」


『そうだな。俺達の見込みだと、会社間のいざこざだろうな。全く、可哀相もここまで来ると飛び出てくんな。人を何とでも思ってないから犠牲にできるんだろうな』


「そうか…手詰まりだなー!」


『何に悩んでいるかは知らんが、分からない時は気晴らしに行ってみるのも良いと思うぞ。後で個人として調べておいてやるからよ』


悩んでいる祐二に対し、順次は助言をもらす。

分からない事柄に分からないまま首を突っ込んだとしても、それは絶対に分からないままの代物へとなってくる。


ゆえに……少しでも良いから、その場を有利にするヒントを持ってきてから言葉にするべきだったと語っているのだ。


「ふふ……分かったよ。順次、お前の言っている意味がな。ちゃんと気晴らししてから動いてみるわ。そうしたら運命も少しは傾いてくれるかもしれんしな」


『ああ、ゆっくり楽しむと良い。学生時代の青春は学生の時でしかできないから青い春なのだ。思い存分楽しむべきだ』


「うるっせ」


***


深夜での会話をした翌日……祐二の目の前には愛らしい格好をした女性が一人。


普段の可愛らしい姿とは一つ変わり、大人らしい妖美さを見せる女性となっている。

言葉は出していないものの、一つ一つの動作が心臓に大打撃を与えかける。


全てを愛らしいと思ってしまっているが故、どうする事もできないモノだ。


参ったと口で笑いを作れば、あちら側は満足げに笑うのだから……もう勝てないなと実感してしまう。


「どうですかー!似合ってるでしょ!祐二くんがグッ!と来るのを選んじゃったんだよ。どう?カッコ可愛いかな?」


「あぁ、そうだな。カッコ可愛いよ。カッコ可愛い過ぎて…俺の心臓がオーバーヒートしちゃうかもね」


「あんまり臭すぎるセリフ吐いちゃうと、女の子に嫌われちゃうかもだよ?ほら、キザな男って嫌いな人は嫌いでしょ?」


「これとキザは違くね?」


気取った言葉でもないだろう…その心から呆れたような視線で見つめるものの、由美はどこ吹く風であった。

もらった言葉を右から左に受け流し、視線すらも受け流す事を可能としているのが現状だ。


呆れどころか、感心すらも湧いてきてしまった。

恐ろしき…由美のスルースキル。


「ふふん、そうでしょうそうでしょう。褒めてもらえて光栄だよ。ではでは!目的の場所にレッツラゴーしようか。楽しみだねえ、祐二くん。君とのデートは本当に楽しいからさ」


上機嫌に喉を鳴らしつつ、自然な仕草で下ろしていた祐二の手を恋人繋ぎで掴んでくる。

柔らかい仕草とあまりに柔軟な手捌きに隣を見つめれば、悪戯っ子のように笑顔となる。


そのような顔を見せれば、隣にいる恋人がどうなるかなんて知っているだろうに。

悶えて、嘆いて、その笑顔に何度目か分からない程に惚れて。


その男は、桃色を抱き、桃色に輝いてしまうのだ。


ズルイなんて今日何回言ったかも分からない言葉を内心で吐きつつ、繋いでいる手の力を密かに強める。

自分の彼女の愛らしさに下唇を噛み、揺れ動く感情を制御しようとする。


そして……吐く。自分の感情云々が沢山詰まった言葉を吐き出すのだ。


「さっきさ、グッ!とくる服装って言ったじゃんか。あれ、違うから。あれだけがグッ!と来てるんじゃなくて、ずっと来てるの間違いだよ」


「そういうところが臭いって言ってるんだけどなぁ。まぁ、それが祐二くんだもんね。本当、しょうがないなー。本当、ありがとう」


多少の羞恥はありつつも、それが自分の言うべき事だと認識して正確に言葉へと移す。

周囲からしたら恥ずかしいような、気取ったセリフなのは間違いないだろう。


しかし、由美にとっては別種類の代物であった。


思っていては伝わらない。言葉にしても伝わらない時がある。

そのような状況の中、と言葉を発しようとする姿勢の重要性を知っているから。


何度も選んで、何度も迷って、何度も恋に落ちた……その相手だと再認識し、顔にはとびっきりの笑顔が浮かんでいく。


「最高だよ。これからも、お願いね?」

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