第40話 気にいる事ができない人間

「あの……盛り上がっているところ悪いんだけどけど、君の自己紹介をしてもらえると助かるんだけどな。僕達、完璧初対面だから名前すらも分からないんだ。ちなみに、僕の名前は銀。広瀬銀っていうんだ。よろしくね」


「私は青空知恵。祐二…少年とは一年違いで幼馴染をしている。少年の友人なら、遠慮なく喋ってくれても構わないよ」


わざとらしく笑顔を作り、微笑みかけている知恵に対して舌打ちを晒し、周囲に険悪な姿勢を見せている祐二。


そのような姿にも嫌悪の姿勢は見せず、あくまでも仲の良い幼馴染を演じようとする知恵。


幼少期に仲良くしていた幼馴染……そう同じ分類に位置付けられているにしては、あまりに違い過ぎていた。


説明されずとも、どちらか片方が仮面を持って接していたと分かる正反対具合だ。


そのどちらかの仮面問題すら……互いが互いの幼馴染に対して行っている対応で丸わかりなのだが。


「んで、お前何の用だよ。俺的には、お前なんかと私用で関わり合いたくないんだが。それ相応の理由はあるんだろうな?」


「あぁ、あるさ。当たり前だろ。なあ、少年。私を舐めないでいただきたい。幼馴染だ、ある程度の理由は持って関わらせてもらう。そう、君と勝負をするという形がそうなのさ!」


言葉を出す度、テンション上がっていく知恵と相反し、祐二のテンションはどんどんと下がっていく。


本人にとっては重要な理由なのだろうが、それを押し付けられている人にとっては重要な理由に足りえない。


ゆえに……そのような情報すらも知らず、ペラペラペラと延々にいらない言葉を喋り続けている目の前の幼馴染には苛立ちが募っていた。


「悪いが、今の俺にお前と勝負する気はない。さっさと帰ってくれや」


「なぜだい?私は少年との戦いを楽しみに待っていたんだよ?」


「だからッ!俺がそれをする気がないって言ったんだろうがよ!お前のようなカスと戦ってもつまんないだけだろ。もう少し自分の事を磨いてから出直せよ、塵芥ちゃん」


どこかにオブラートを含ませる事はない。

言葉の節々…いや全てに嫌悪と険悪という悪感情が含まれており、知恵に対してどう思っているか、その心が見えてくる。


そのあまりのボロクソ加減に後ろで見ていた者達は大分引いた。

もちろん恋人の舌の酷さを目にした由美も追加である。


「あぁ、分かった。ならどれで勝負をする!?私は誰でも良いぞー!」


「帰れこのアホスケ!」


***


「カス、カス、カス、カス、カス……」


「祐二くん、一体どれだけの嫌悪を持っているのさ…。幼馴染に対してそれを持つのはやばいよー?」


あの後、昼休憩に続投して勝負を挑んできた知恵のせいで、その日の昼休憩は最悪の日に一歩近付いてしまった。


なぜ勝負したくないというのに執拗に勝負を迫るというのか。

全くもって意味がわからない…。


そのような愚痴を延々と漏らしている阿保に対して、由美は痛烈な言葉を寄せてくる。


体は拗ねたと言わんばかりに唇を尖らせようとしていたものの、出された言葉はあまりに強過ぎた。


「言い返せれないなら、あまり喋んない事だよ?まあ、祐二くんがどう思うとか、知ったこっちゃない。けどさ、あまり公共の場で負の感情を吐露しない事はオススメするよ。それだけで良いイメージが崩れ去っちゃう、なんて事もある訳だからさ」


最近になって忘れかけていたポーカーフェイスの心得を叩き出され、更に気分は沈んでいく。

過去に社会で生きていく為に身につけた絶対技能を忘れてしまっていた自分に対し、大馬鹿だと毒を吐きながら。


そんな様子の祐二にすら由美は苦笑いを吐きながら頭を撫でてくれる。

受け入れようと試行錯誤してくれる由美の懐は広過ぎではなかろうか…と疑問に思いつつ、その撫でを受け入れる。


「祐二くん、それで何だけどさ……なんであそこまで嫌悪を抱いているの?確かに関わりたくないとは思うけど……そこまで表に出す相手かな。祐二くんならもう少し柔らかい断り方もできていたと思うけど」


由美から飛んできた言葉にその通りだと頷く心と……本当にどうしてあそこまで嫌悪を出したのか、と自分でも疑問視する心が存在していた。


幼少期の頃から友人としては関わり合いたくない人であると認識はしていたが、そこまで強烈な嫌悪は存在していなかったはず。


今のような、思い出す事すらも億劫な関係ではなかったのは鮮明に思い出せる。


つまり……という事。


「祐二くん?何か思い当たる節はあったの?あそこまで当然のように毒を吐いた理由、とか」


「完全に分かってる訳じゃないんだ。ただ、俺の思い出せない中で……俺にとって、俺と知恵の仲を隔てようとするナニカがあったんだ」


根拠はなく、証拠もない……しかし、反応はそんな推測に強く反応している。

思い出せない範囲の中、過去の事を記憶にして写そうと奔走していると思ってしまう。


何かを理由づけるそれっぽい代物は見つからないが、それでも諦めたらいけないという覚悟は何個も見つかってくる。


「気になるの?祐二くんとあの先輩の仲」


「あぁ……思い出せない過去の中、一体俺と知恵に何かがあった。それがどうしても、な」


「そっか……良いよ。なら付き合ってあげる。思い出せない過去の解明を一緒に、ね?」

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