第39話 昼休憩の色々
「祐二くぅぅん……聞いたぜ?お前、ランニングしている最中にアホやらかして風邪引いたらしいな。金城さんが看病してくれたらしいけどさぁ…注意しろよ?何が原因で寝込む事になるのか分からんのだからさ。金城さんにあんま心配かけんなよ」
「…分かってる」
苦笑いを浮かべつつ、咎めるように言葉を送られる。
やらかし、風邪を引いてしまった本人だ。
何かを言える立場では断じてない。
__あんなマジメな陸初めて見たな…
なんて言える立場では断じてないのだ。
「彼女がいて良かったね。じゃないと相当しんどかったでしょ。僕は彼女がいないからさー!そういう時はしんどいなー!」
「祐二、気にするな。これは銀銀バカが勝手に嫉妬してるだけだ。彼女に看病してもらうなんて理想のシチュエーションだからな。憧れたのを先越されて憤慨してるだけだよ」
「ほぇー。てかさ、それだったら俺の方が先越してんじゃね?中学の時に理亜に看病してもらったし」
「りっ、陸……君もか、君もなのかよ。陸ぅ!」
まるで親の仇を見てるような瞳でこちらを映す銀の視線の先が増えた。
裕二だけでは飽き足らず、過去に看病されたと証言をしている理解にまで向けている。
「そこまで増やしたいなら頑張ったら?」
「チガウ、違うんだよ雨宮!それとこれは大間違いさ。分かるだろう?なぁ!」
どうやら言ってはならない禁句認定だったらしい。
目を獣のようにギラギラと光らせ、言葉は弁解をしているにしては気持ち悪い。
自分は何もしないが、自分の魅力を分かって欲しい女々しさを見ているかもしれない。
性格や人は良いのに残念である。
顔の良さがあり、他の人よりも恋のスタートラインに立つスピードが速いであるがゆえ、余計にそう思ってしまった。
「なぁ、今度女性紹介してあげようか?俺の知り合い(の娘)に彼氏募集中っていう高校生がいるからさ」
「いや、彼氏募集中ってのはギャルそうでやだ」
「なぁ、陸…天竺。こいつシめて良いか?」
「「良いぞ」」
「じゃあ許可もらったという訳で……じゃけんじゃねぇぞこの野郎!」
小柄な銀の頭を掴み、思いっきりの握力で握る。
頭蓋骨壊す勢いで握っている。
銀がどれだけ悲鳴あげようが知ったこっちゃない話である。
その人の人間性を見ておらず、その人の貌すらも知らない。
そんな人がどうして悪く言えようか。
知らず知らずのうちではあるものの、祐二の逆鱗に触れてしまったのだ。
「ほら……こんくらいにしといてやるよ。これに懲りたら知らない人を偏見で喋らない事だな」
「うぐ…はーい」
「ふふ……本当仲良いねえ」
思ったよりも強烈過ぎるお仕置きに二人は苦笑いを抱えていれば、背後から足音が聞こえてくる。
最近こういうパターン多すぎではなかろうか、と思ってしまうのは何故なのか。
十中八九誰かさんが忍び寄って歩いてくるからに他ならない。
「何の要かな、由美。君もさっきまで話していたと思うけど。何かあった?」
「大当たり。色々あり過ぎてこっちは疲れてるよ。それで、話を本題へと映すよ。祐二くん、幼馴染っていなかった。それか自称幼馴染だと呼称する人」
「悪いが、幼馴染ってのはいすぎて分からんぞ。あの時社交性バッチリ時代だったからな」
「そっか。じゃあ異様に勝負したがる女性の人はいなかった?」
「ふふ……俺トイレに行ってくるわ!」
幼馴染か幼馴染を自称する人、そして異様に勝負をしたがる人……その要素、心当たりしかなかった。
親によって感情を押しつぶされそうになっていた時期でもあった幼少期…その時点で心の中で関わり合いたくない人だと認識した人物。
推測だが、由美が言っている人物はその人だろう。
その人なら色々と疲れるだろうと納得をしつつ、全力で逃げる為に走っていく。
父親に縛られない今、あの者と関わる必要はないに等しい。
個人なら、絶対に関わり合いたくないのだ。
由美には悪いが、今は逃げに徹させてもらおう。
「ストーップ!STOP YOU!PULL OVER!」
「誰が馬じゃい!」
わざわざ英語で喋る意味はあるのか、と隣にいる理亜はツッコむが、背後からの彼女の声に止まってしまったので、意味はあったのだろう。
「それじゃ、色々と聞かせてもらうよ。あの人とどういう関係なのかを」
「幼馴染以外ないんだが?」
「でも意味深な発言してたよ?」
「あんにゃろー!!そういう思わせな発言すんなって何回も言ってんだろうが……!」
「おいおい、その言い方はないんじゃないかな?なあ、少年」
今話題として出されているその人に文句をツラツラの並べていれば、声がした。
会いたくなかった、思い出したくなかったその人である。
声を聞くだけ過去の日々が強制的に叩き起こされ、思いっきり顔を顰めた。
「そんなに顰めないでくれ。私は少年の事好きだからさ、ちょっと残念。慰めてくれよ」
「お前が勝手に期待して裏切られて、それに対しての残念だろ。そりゃ可哀想って悶えるような問題だったらそうしたかもだけどな、今回に限っては物事を言えるような立ち位置してないだろ」
呆れたように頭を掻き、突き放す言葉をストレートに放つ。
そんな言葉にも挫ける姿は見せず、それどころか更に元気になっているようだ。
「ははっ!ははは!全くその通りだ、少年。一本取られたよ。少年と僕、中々の名コンビじゃないか!」
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