第38話 突然の風邪と看病する人
「ねぇ、祐二くん。君実はバカでしょ?私の脳の中には確定アホバカクソ野郎にしか映ってないんだけど弁解とかある?」
「けほっ、げほっ……そこまで言われる筋合いはないと思います。俺が一体何をしたって言うんですか」
「ごめん…それ本気で言ってるの?ランニング中に雨降ってきたけど大丈夫だろって甘く見て続行し、帰って速攻風呂に入らなかった人が祐二くんだよね?何今更自分は悪くないですって被害者ぶってんの?」
呆れたような、それでいてどん底まで追い詰めるような……そんな氷のように凍て付かせた視線が胸奥に深く刺さっていく。
雨の中ランニングを続行したのも自分であるし、風呂に入らなかったのも自分である。
そんな自分自身の選択を後悔してしまった。
過去に遡り、フルボッコにしたい程に。
彼女に対してこんなに心配させ、こんなに怒らせてしまった。
彼氏として……この上ない恥ずかしい事実に他ならない。
自分のしでかした事の重点に気づき、感情が訴えるまま体で悶えようとするものの、その行為は風によって揺れ動く枝を手で掴むように……そう比喩できる程度には容易に止まってしまった。
「落ち着きなさい。祐二くん、君が自分に対して思う事は色々あるでしょう。というか私だってこれ以上言いたい程に溜まってるし。でもね……今この時ぐらいは安静にしようね?風邪で体調悪い時にも暴れたら治らないって」
呆れを維持しつつも、どうしようもない人を見てくる由美。
あんなバカをやらかした後でも、風邪の時は起こらず、思考が健常の時に怒ろうとしている。
人としての進化を進めるようなスタイル……それに対し、自然と言葉は出ていた。
「お母さん……」
「私はお母さんじゃないけど?勝手に母親にしないでくれるかな……いや、しょうがないか。君の環境が環境だ。仕方ないのもある…。もう、今回だけなんだからね?」
しょうがないと言い、再度額を撫でる。
その度に申し訳なさを感じてはいたが、それを気にしない程に上から眠気が襲ってきた。
彼女に看病されているのに眠るなんて申し訳が立たない、と言わんばかりに意地を立てるが、それは由美の一言によって潰される。
「眠たいんだったら寝てくれても良いよ?そっちの方が絶対に良いしね。寝てなきゃ、治るものも治らなくなっちゃうから。彼氏としての意地とか、そういうのは治ってから吠えてね。今言っても何の効力もないからさ」
「う、ん…わかっ、た」
眠気を訴える体を何とか動かし、少しの言葉を喋る。
その少しで、祐二の体は完全に眠りの中へ堕ちていってしまった。
***
深海のような深い眠りをし、意識は数時間も目覚める事はなかった。
あまり昼寝をする性格ではないのが祐二だったので、外で待っている人は驚いている。
そんな深い深い静寂も、破られる日はいつか来るというもの…。
「ん、んー」
「おはよう、祐二くん。よく眠れた?」
「んぇ?……おはよう。うん、よく眠れた。ありがとね」
「よく眠れたなら良かったんだけど……どうして私にありがとうって?」
「だって……由美がいてくれたから良く眠れた」
「なっ!このっ!そういうのよくないって!」
自分ではよく分からない代物ではあるものの、由美からしてみれば相当悪い発言であったらしい。
少しの文句を吐いた後、後ろへと振り返ってしまった。
その態度に少々のショックを抱えていれば、また更に振り返る。
今度はどうしたのだ、と疑問を心の中で抱えていれば、今度は謝罪が飛んできた。
「ごめん……ちょっと恥ずかしかっただけなの。照れちゃっただけ。それなのにそっぽ向いちゃってごめん。今の祐二くんは分かってないに決まってるのに…本当にごめん」
「うん…なんかちょっと煽りが混ざってる気がするのは置いといた方が良い?」
「うわー、完全に目が覚めてる。……うんうん、置いといた方が良いよ。ほら、目覚めた事だし熱測ってご飯食べる事!お粥今から作るから待っててねー!」
嵐のようなテンションで周囲を荒らした挙句、当の本人は作りにキッチンへと帰ってしまった。
それに呆れのため息を吐きつつ、言われた通り体温計で熱を測る。
大分グッスリと眠っていた事で良くなっていたらしい……38℃代であった熱が下がり、37℃代に落ち着いていた。
一人では冷感シートもうまく貼らなかったであろうし、スポーツドリンクを注ぎに行く体力もなかった。
ハッキリ言って……己一人ならば、熱を冷ますのは更なる時間がかかっていただろう。
一日や二日単位で治りそうなのは由美のおかげかもしれない。
「お粥できたよー。あんまり味の濃くない塩がゆだけど許してね。祐二くんの健康の為に作ったからさ」
「ん。ありがとう。随分美味しそうにできたな。昔の由美とは人違いだ。あの頃は……うん。最近になって料理できるようになってくれて嬉しいよ。これ、俺はもう必要ないかな?」
「ダメ!私は祐二くんのご飯が好きなの!祐二くんが作ってる姿が好き。だから、健康になってまた作ってね」
「分かったよ」
言葉で頷きを示しつつ、作ってもらった粥を口の中に含ませる。
それに対し、美味しいと言葉を呟いた
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