第37話 彼女の水着を見たいのが男子高校生……何か文句はあるかね

「いやー、このメンツで集まるのも何回目か。随分と仲良くなっちゃってよー!俺が仲を作ったから、少し嬉しい気持ちになってくるな」

「嘘はよくないよ、陸。僕達が関わり出したのは雨宮が声をかけてきたからでしょ。本人の努力を否定するのはよくないと思いますよ。ほら、雨宮だって…」

「チュー……ん?どうした?」


男友達で出かけていたのだが、暑いという事でファミレスへと入っていった四人衆。


その中で、氷によってキンキンに冷えている烏龍茶をストローで啜っている祐二は何の話か全く分かっていなかった。


周囲の三人は、話よりも烏龍茶を選ぶ姿に呆れを飛ばしてくる。


しかし、当人から言わせれば、あんな猛暑を歩いたのだ……冷たい飲み物にガッツいてしまうのは仕方あるまい。


そう心の中で言い訳を何重に重ねたとしても、現実にて三人から受ける視線の質は何一つ変わる事はなかった。


「俺の渾身のボケもかわされた事だし、次の話題に切り替えるとしますかね」


「どこがだ。割と面白くなかったぞ」


「君は黙りなさい、冴。あと、話題を変えると言っただろ。全く、話の分からない坊やには困っちゃうわ」


「いてこますぞ」


「何一丁前に大阪弁使ってんだよ。お前の出身は埼玉の海だろうがよ」


「…・埼玉に海ある訳ないだろ。全部陸だぞあっこ」


いつも通りのボケとツッコミが繰り返され、時間はどうでも良い事に磨耗されていく。


今回冴と陸が織りなすボケとツッコミに対し、結構長いなと思いつつ烏龍茶を飲んでいれば……陸が本来の話題への軌道変換をしてきた。


「さて……諸君、今から数週間で夏休みだが、予定はできてるか?できてるよなっ!青春の男子高校生だ。彼女の一つや二つや三つや四つ……そんな彼女とデートするのは当たり前の話だ!」


「やめてぇ!そんな変なテンションで僕と冴を刺さないでくれ!いないんだ、彼女いないんだよ!」


「あ、最近告られて彼女できたぞ。俺はな」


「ふざけんな冴!君まで…君まで僕を裏切ると言うのか!」


「裏切った覚えはない。お前が努力をしてこなかっただけだ」


「ムカつく!冴が言っている事本当だけどムカつく!」


全員からの集中放火により、彼女いない勢の銀は思いっきりダメージを受けていた。


クラスメイトの女子には好意的に見ている者もいるのだから、少しの努力でも恋人ができるだろう…と思ってしまうのは無粋なのか。


「本題戻そうぜ。お前ら夏休み彼女ちゃん達となにすんの。俺は海行ってー、プール行ってー、夏祭り行ってー、親に挨拶しに行くぜー」


「俺も夏祭りや海に行きたいが……先に色々と親睦を更に深めるところから始めた方が良いだろう。友人関係とは言え、知らぬ事はいっぱいあるからな」


「俺が予定してんのは夏祭りだけかなー。海とかプールに行く予定はない」


「へー、勿体ないな祐二。冴はともかく、お前と金城さんの仲は深まり極まっちゃってるんだから、一緒に行きたいと言っても何もモンク言われんの確定でしょうが。当然の話として、金城さんの見た目が好きなんだろ?」


飲み物が入ったコップを揺らしつつ喋る陸の言葉は、的確に心を刺してきていた。


恋人一年目でそれは少し危ういかもしれない……その判断からの答えだったのだが、容易に裏返ってしまいそうだ。


男として、恋人として…添い遂げたいと思っている人生最大級の恋情と愛情を向けている相手が着ている水着姿など見たいに決まっている。


性格と見た目、両方好きになったのだ。

健全な恋によって成されたカップルであるのなら、いつもと違う姿になっている恋人の姿を見たくない訳がない。


人の欲求を刺激するような発言に狡いと感じてしまうが、その思考を覆い隠す熱が次に来てしまった。


たった一つの言葉……それにより、想像力が掻き立てられてしまったのだ。


どのような水着を着てもバッチリ着こなす由美。

自分の水着を見たいのか、と煽ってくる由美。


そんな恋人が…いくつもいくつも己の脳内で再生されてしまった。


「バカ!アホ!水着姿を想像しちゃっただろうがろよ!」


「この程度で想像できるお前が凄いって事教えてやった方が良いか?」


「いやいや……そいつぁ全く違うって話ですぜおやっさん。これとそれ、それとあれ……全く違う類の話っていう訳ですよ」


「あれはあれだし、それはそれだし、これはこれなんだよ。全く同じ話してる。お前だけ別次元に飛んでいるだけでは?」


「そんな……俺が変態的妄想力を持っているような言い方をしなくても」


「事実でしょ。祐二くん、私に関しての妄想は精度が高々ちゃんだもんねー。そういうところも大好きだよ」


息子の突然の告白を受け入れるような慈愛に満ちた母のような面と……悪戯っ子のような揶揄いを含んだ面。


まるで正反対の質を持ち合わせた状態で言葉を発する人には心当たりがあった。


その人物がここにいる筈がないと心の中で若干否定をしつつも、声がした方向に振り向く。


「やっほ」


そこには、祐二と同じく友人達と出かけていたはずの由美が立っていた。


「あの……なんで立ってるんすかね。由美さんやい」


「さぁ、どうしてだろうね」


突然の遭遇により、後々の買い物によって揶揄われるのを祐二は知らない。

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