2-3 龍鬼逢ひて【side 寳來】
霧で覆われた空を飛び、工房らしき建物の屋根に足をつける。
ひさしからぶら下がって「
「……何? お兄ちゃん……」
「まだ
そう尋ねると、
「……ごめん、なさい。本当、ごめん、なさい」
と、頭を下げた。
「……言い方が悪かった」
「う、ううん。お兄……
眞姫瓏は《
性格的な意味ではなく、種族が《鬼》に属する。
全ての存在を
その位が高いほど、強いと
けれども、眞姫瓏は、そうとは思えないほどに、笑顔が
あやかしの中でもずば抜けて強い存在。それでいて、まとうのは光でも誇りでもなく、
「……珠姫。怪しまれたら最期だ」
「うん……」
「何かあったら、知らない振りをして。無知を装った方が、上手く回る」
自分たちはあくまでも旅人だ、この村に少し興味があって訪れただけだ、と。決して知られぬように。知られたら、今回の任務が失敗になるだけでなく、さらに
下手すれば、俺の
簡単には死なないあやかしにとって、
「……
「そんなわけない」
「……万之百に、ちゃんとした助言をもらわないと、何もできない無能だから。……
「強いからに決まっている。珠姫ほど強い《
それしかないの、と、眞姫瓏はそう言って口を閉ざした。今にも涙がこぼれそうなほどに表情が
俺でさえ唇を噛んでいると、霧に覆われた向こうから「珠姫ちゃん、ちょっと来て!」という
「……トメさん」
「珠姫、呼ばれてるよ。行きな」
「で、でも、話……」
「夜になったら、蛇の姿で向かうから」
行きな、と。目線で訴えると、眞姫瓏は体を縮こませて、霧の彼方へ姿を消した。
✿❀❖*✿❀❖*✿❀❖*
月の
何も気にせず官吏が通り過ぎたのを確認し、工房の屋根へ下りた。
「……珠姫」
障子が開けられ、普段と違い髪を下ろした姿の眞姫瓏が、姿を見せた。
「……ねえ、妖魔は、どんな姿だと思う? どんな妖力を持っていると思う? 俺は、少ししか見当がつかなかった」
問いかけると、眞姫瓏は、ううんと喉をうならせて、何度も口を開いたり閉じたりしてから答えた。
「どうだろう……でも、この霧が、怪しい」
「霧?」
うん、と。本当なら星が瞬いてるであろう夜空には、残念ながら霧がかかっており、数歩先も見えそうにはない。
「この霧を吸うと、胸が、重くなるの。私が……湿気に弱いだけなのかも、しれないけれど、……深めの呼吸を、何度も繰り返さないと、息が、詰まりそう」
「……そうかい」
「……でも、妖魔が、どんな風に、襲うのか、見当、つか、ない、……かな」
「それは俺も。精神干渉かなと思ったけど……なるほど、霧ね……」
霧は、この村にいれば誰もが吸う。それが原因なら、確かに襲いやすい。視界も奪えるなら、なおさらのこと。
「いや、全然分かんないよね」
「……うん。全然、分からない。予想が、つかない。……単純な妖魔じゃ、ないんだろうな」
眞姫瓏に、今のところ集まっている情報で考察されることを書いてもらった。
知能はかなり高い。周到に確実に襲えるほどには。
そして、
あとは。
「……残虐に殺す」
依頼文を読めば分かる。送り主の泊まっていた隣の部屋、つまり俺が泊まっている部屋からは、ざくざく、という音が聞こえてきたのだ。そして、そこには、
和鋏で肉を切られた、と考察できる。
「……万之百、本当に大丈夫なの……? 和鋏で肉を切られたりしない……?」
「その前に気づくし、切られても《
俺は《龍》──位でいえば上から二番目の種族だ。妖魔ごときに惨殺されるほどひ弱ではない。……残念ながら、
「……そっか」
「うん。なるほど、霧ねぇ……術かける?」
「……うん」
一瞬だけ人の姿になり、眞姫瓏の額から鼻先をなぞり、気を込める。
妖力の理屈というのは、半妖である自分も分からない。本当、一体どういうことなんだろう。なんで瞬時に
「……おやすみ。気を抜かぬよう」
「うん。おやすみ」
蛇の姿に戻り、屋根瓦に巻きつくと、障子は閉じられた。
【1000PV突破感謝】〈天華星翔奮戦記〉〜双子の少年は妖魔を倒して、仲間と共に成長する〜 月兎アリス/月兎愛麗絲@後宮奇芸師 @gj55gjmd
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