2-2 何も知らない【side 早弥】
二日目の午前中。
途中で道草をしたり
「
「……今、ボクのこと、ちゃん付けし──!?」
「
やや、いやかなり棒読みだったけれども、夏目の可愛さに免じて、大目に見ましょう。怪しまれることでもない。
「あら、そうなの? 男の子なのね」
「はい! しかもね、人語が分かるんでしょ?」
「いや元々ボク人だし……」
そうだった。僕とほぼ同い年の男の子だった。忘れてた。
「そうなのね、もふもふで、お目々もくりくりで、可愛いわねー」
「……人間時代のボクを見たら、
「どゆこと?」
「え……この世のものかと疑うような
それはないと思うなぁ……と何気なく返すと、夏目が急に、むすっと顔をしかめて、
「……気づいた方がいいよ」
「え?」
「多分だけどさ、過去に何度も爆弾を落としすぎて、あの
あの狐……って、
……の情が、僕に、傾いている……って、どういうこと?
首を傾げると、夏目は小ちゃな手で、小ちゃな顔を覆った。
「これだから無自覚は……」
「早弥くん? 行くわよー」
ずいぶん向こうから佐和子さんの声が聞こえたので「あっ、はい!」と僕は、駆け足で坂道を下った。
✿❀❖*✿❀❖*✿❀❖*
向こうには、
足許には、雑草のところどころ生えた石畳。
目の前には、苔が生え、文字が風化した、いかにも古そうで、触れるのもためらわれるような
「……ここのこと、ですか?」
佐和子さんはこくりと
「村の神様を
「村の……神様?」
うん、そうだよ、と佐和子さんは話を続ける。
「昔、村には、徒党を組みて農作物を荒らす悪しき若者があれ、さる家の小さき子が、
「……?」
古文……?
馴染みのあまりない言葉の連続に首を傾げると、佐和子さんは、ふふっと顔を
さながら、
「この村に伝わっている古い話さ。まあ、わたしたち──あやかしにとっては、大して長い時間でもないけれども、言葉づかいが今とは変わってしまっている。まとめると──」
昔、村には、徒党を組んで農作物を荒らす悪しき若者がいた。
とある家の小さい子は、飢えてしまった。
そこに霧がかかって、悪者は前が見えぬうちに、雷に撃たれてしまった。
以降、農作物を荒らされることはなくなった。
悪者に雷を落としてくださった神様を、ここに祀っている。
この村に住んでいる方にとって、霧や祠が、何を意味するか。
肌が、髪が、霧を吸って湿っていく。
もう一度、
ところどころに苔が生えていて、文字が風化してほとんど読めなくなっており、触れるのもためらわれるような、そんな祠。
話を聞けば、ものは違って聞こえるのだ──。
「……神様への信仰心は厚いさ。この神様がいなけりゃ、そう遠くない先祖が飢え死にして、自分たちなんか、存在していなかったかもしれないんだから」
「そう、……ですね」
石畳に片膝をつけて
風が葉を揺らす音がして。それが続いて。
膝の湿り気も、気になりはしなかった。
すぐ近くで咲いていた野花を何本か
「早弥くんは、信心深い子だね」
「……そんなことないです。神社でも、鳥居でのお
「早弥くんは、自分が思っている以上に、素敵な子だよ」
「……僕の、何を知ってるんですか」
そう
僕が、素敵な子だったら。
こんなに、申し訳ないとは思わないはず。
「わたしは君の何も知らないよ。ただ、お人好し。でも、それがすごい。褒められても、君は
「……それが、なんですか」
佐和子さんは、霧の切れ間の
「……みんなに、頼られる子になれるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます