二:昼夜は永遠に
2-1 結界と劇薬【side 霊弥】
時が止まるのも、天地がひっくり返るのも、同じくらいに有り得ない。
早朝から布団を畳み、
……白蛇? やけに
「おはよう、流石は不眠症」
「……はよ、
「別に。普通に思っただけだけど」
正体は白蛇でなく銀龍で、ついでに寳來だった。
「どうして、そんな姿に?」
「まだ
天命に背く。
その瞬間に、自分の頭と胴体が離れる。あとは
「俺がいなくなったら、
「──待て」
思わず俺は、寳來の言葉をさえぎった。
「……跡継ぎが消えるって、どういうことだ? 寳來の他には、いないのか?」
「いないよ」
あっさりと答えられ、首を傾げる。そして、眉間にシワを寄せた。
どうして?
「俺、姉が三人と、妹が一人しかいないわけ。陛下は母上──即ち女帝だから、女が即位してはならない理由はないけど、
突然言葉を濁した寳來の表情(龍)は、どこか気まずそうだった。何かあるのか、そんな眼差しを向けると。
「……いや、説明が
「……そうか」
その三人の姉は、皇位継承権を拒否して、許されたのか気になるが、それよりも気になって仕方ないことがある。
先ほど、妹の話はされなかった。
寳來の妹は、双子の妹の、
では、眞姫瓏には、なぜ皇位継承権が回らなかったのだろうか。
口を閉ざしていると、濃霧の中から「あー! いたー!」という、非常に聞き慣れた声が聞こえてきた。
「……
「いや、あのさ、みんな霧に巻き込まれて見えなくなってたから、
「聞いてない。言わなくてよろしい」
「ひどくない!?」
あくびを噛み殺し、早弥の背後に目をやると、薄紅色の髪の少女と、深紫色の髪の少年が立っていた。
眞姫瓏と
「……
「ん。
「からかうのいいんで、話を始めましょう」
絹のように
✿❀❖*✿❀❖*✿❀❖*
「……俺は、妖魔の行使した術が、何となく分かった」
思わず目を見開いた。
妖魔の行使した術が、何となくでも、分かった……?
それだけの情報でも、十分に価値がある。流石は隊長であり、皇子
「それは何、寳來くん!?」
「精神干渉だよ。最も近いのは《
そう、寳來が告げた瞬間に、早弥の視線が俺へと変わる。それどころか、
確かに《幻操能力》だが……。
「……ねえ、どういうこと!?」
「知らんがな! 俺も今知った、精神干渉だと。それに、遠距離では意味がないはず。同室や隣の部屋ならまだしも、階や建物が変わればもう効かないはずだ。……そうじゃないのか、寳來!?」
恐ろしい形相で俺の胸ぐらを掴みにかかった弟を押し返しながら、寳來を見る。口角を上げて、
「霊弥の実力じゃ、その程度だろうね」
「ほら言った!」
「あぁ〜もう、うるさいっ! 本気なわけないじゃん!」
だったら胸ぐらも掴まないんだよ。
「それより、僕さ、ちょっとだけ違和感を感じたんだよね!!」
突然声を大にして、んなことを言う早弥に、俺はため息をつく。
「僕が泊まったところ、四人家族の家で、家にいる男の子と女の子は、見た目年齢だけ僕より歳下なんだよね。で、でだよ!? その子、急に『都会の人って、妖魔を見たことある?』って聞いてきて……」
「「「「え?」」」」
……確かに、違和感だ。
突然、旅人に、そんな質問をするわけがない。普通はしない。俺たちが
「……一体、何が?」
「どんなに考えても、それが全っ然分からないの!! 純粋そうなあどけな〜い男の子の口から放たれたとは、思えなくて!!」
……まあ、そうだ。早弥の言葉には納得するしかない。
「日常的に放っているショタがここにいますけどね」
「真菰くんは別の意味で可愛いから大丈夫じゃない?」
「……っ!?」
さらっと爆弾を投下するなあ、俺の弟……。
これだから、学校の女子がよく
そして、よく考えると理屈が意味不明。
「無知は罪……」
「寳來くん何の話!? 戻すよ!? とにかく、何か……何か怪しいわけ!!」
分かったの、それだけかよ……と、ため息をつく。どうしてだろうか、うちの弟は、そこまでは分かっても、そこからが分からない。
だから数学の問題が解けないのだな、と一人納得した。
それにしても、何であいつは偏差値が高いんだ。
「とにかく! この村が怪しいのは確実!」
「それは最初から分かってるよ。妖魔に脳みそをやられたら一巻の終わりだから、脳内に結界張っといて」
「「無理」」
いつも通り早弥と重なった言葉。寳來は腕を組み、うつむいた。
「……じゃあ、代わりに、
そんな便利な薬があるのか──と思わず口角を上げた瞬間に、ただし、という言葉が続けられた。
「副作用に、全身の肉を剥がされるような激痛が──」
「「本当に飲ませる気?」」
全身の肉を剥がされるような激痛が……?
……想像するだけで痛々しいし、実際はそれより痛いのだろう……。
「……分かった。真菰、二人分の脳内結界、できる?」
「あー、はい……遠距離で。ついでに、人間二人だと、ものすごく
その後、俺たちに脳内結界を張った真菰は、寳來の元で寝かせられ、回復薬を投与されたそうである。
そして、その夜は、俺しか悪夢を見なかった。
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