第三話 理想と現実

混乱する連中相手に無言で煙を巻いた人がいた。それは友達のキイナだった。やはりキイナは怒らせると怖い。物理的に。


「俺の火魔法、ナメんなよ!」

相手がけほっている間に言いながら火魔法をぶっ放すクラスメイト。名前は――、覚えてなかった。Aくんとしよう。


「みんな、固まって動くな! こりゃ基礎だぜ? バラバラに動くんだ!」

そうサツと言っていたGくんがみんなに呼びかけた。Gくん! ナイス、当たり前豆知識。


「コイツら一体何処から!」

そう言うのも分かる。先生が一瞬で私の魔法陣だけマジックポケットに入れたからだ。意外と便利なんだな。今度、買おうか。


「にしても――、基礎の基の字もない雑な魔法陣。」

ズシッと壁一面に貼られた魔法陣を見て独り言ちた。どれもこれだと発動は儘ならないだろうに。気の毒にも酔い痴れている筆跡。


「私の大嫌いなタイプの人間だ。」

瞬間、私の辺りだけがズシリと―ミシッと音をたてた。


「今の発言⋯⋯、それはどうしてかな?」

声がする方を―いや横を見ると、随分とガランドウな目をした少年がいた。随分立派な夜色の魔法ローブをお持ちで。にしても近いな。


「こんなに基礎のコアすら的外れな場所にある魔法陣は初めてで。寧ろどう褒めれば。それに――子供の遊びじゃない、暴発したら大変な事になるっていうのに! ま、暴発すらしないか。この状態っていう意味ですけど。」

「あははは! そう、だよねぇ! おかしいよねっ! こんな魔法陣!」


腹を抱えて笑う少年。なんだ、分かっているならなんで放置を――。いや、実験体ではないってことじゃあ。


「そうだ、君たちが逮捕許可が降りた魔法学校の子たち?」

「そうだけど、なぜそれを?」

「ふーん、じゃあボクのことも勿論知っているよね?」にやりと笑う少年。

は? 誰だ、コイツ。知っているよね? って聞かれて知ってると思うなよ。大体が知らないんだからな!


「誰⋯⋯。」ドン引きしながら言ってやった。

「えっ? 嘘、知らないの! 一応そこそこ有名なんだけど!」


「どうした? アマラ」

そう乱戦中の先生が此方に気付き話しかけてきた。先生⋯⋯! この変人を何とかしてくれ!


「ッ! 先輩! どうして此方に! 夜の魔法師の仕事は?」

「終わって暇だったんだー。来ちゃった。」

「流石は先輩。ですが手伝わないなら邪魔です。」

そう先生が言った。確かに魔法ローブから見てあり得るけど⋯⋯、変人だ。関わらない方が良い。


「辛辣ぅ⋯⋯。にしてもこんな酷い魔法陣が出来たところで魔法は力を貸してくれない。だよね、そこの君?」

明らかに私を見てる。うん、確かに貸しはしないだろうけど――市場で出回る粗悪品と合わせれば使えないこともない。


「でも人を殺すくらいの威力はあるでしょうね。市場のものを合わせれば。」

「なるほどー! その手があったねー! それじゃあ何処かにあるんだろうねー! その市場のものー!」

白々しい物言いとまるで他人事。試しているし本当に遊びにきただけ⋯⋯。


こんな奴が上? と思わせたいのか、自分を上だと信じて疑わないのか、それともそれすらわざと思わせぶりな態度をとって私がそう思うか試している愉快犯といったところ。


ま、相手しなければいい。そんな奴は。私も私で勝手に捜させてもらおう。転入生は――、あとで見に行くか。


「乗ってこないんだねぇ。それで、何処へ行くの?」と少年魔法師が着いてくる。いや、着いて来てもいいけど手伝わないなら帰ってくれ。


ドアを開けて閉めて「ここではない、ここでもない!」と言いながら駆けようが、着いてくる。どれだけ離そうと全力で駆けようが、着いてくる。


なんだコイツの体力。


「すみません、手伝ってくれるんですか?」

「え、別に。」

「じゃあ、邪魔です。」

「えっ!」とショックで固まり着いてこなくなった。よし、今の内に捜さなければ。急がなければ。


「何をそんなに必死になっているのー?」

「はぁー、関係ないでしょう? しつこい男は嫌われますよ。」


「え⋯⋯? 嘘。」

また落ち込み、着いてこなくなった男。そのままそこにいてくれ。私の目的なんて魔法師には関係が――あった。


「でも、一応後輩に着いて行けって言われて――」

後輩、⋯⋯つまり先生か。面倒、私の捜しているのが見られると。いや別に見られてもいいけど、聞かれたくない。


「んで、何をそんな血走った目でウロウロそてるの?」

「夜の魔法師さん、それじゃあ着いて来て――いや、着いてこい。」

「え、命令系?」


私はそんな言葉を無視し駆けた。ここでもない、ここでもないと言いながら先ほど同様。ドアを次々と開けて行く。


ここでも――、な! 古代魔法陣?! うぅ、近寄っていく。身体が勝手に!


「ここでもないんだよねー。」と魔法師が首根っこを掴んでくれた。助かった、あの魔の魔法陣に抗う術を持ち合わせてはいない!




ここか! と開けたドアに二人の子供がいた。ここだった⋯⋯。


「ふーん、偉いね。子供たちを助けたかったとは。」見つけて保護していると魔法師がそう言った。


「偉いも何もないでしょう。魔法師なんでしたら手伝いやがれ下さい!」

「う゛。」

直ぐに手伝ってくれた。これで制圧完了。


「な、お前らなんだ!」そう言って部屋のドアが開いた。こんなにドアがあって広い。これは――グルでもいるか。


「あ、新入りです。一番偉い人って何処ですか?」

「あぁ、なんだ。新入りか――って騙されるわけないだろ!」と怒るふと髭おじさん。いや、そこまで乗ったなら教えてくれればいいのに。


「それじゃあ、ボクにも――教えてはくれないのかな?」

「え⋯⋯。魔法師様? 夢か? これ」

「つねりましょうか?」と言いながらつねった。


「痛い! どこに言いながらつねる奴がいるんだ!」

「割りといますよ。」

「ロクでもない世!」どの口が言うんだろ。


「それで痛い目合いたくなければさっさと吐けと、魔法師様が言っています。」

「いや、言ってないけど? 魔法師様」

えぇい、さっさと話してくれれば良いのに。じれったい人だ。


「こんなくだらない魔の字もないことに馬鹿げた投資をしているのは誰です!」

「それは――私だよ。」

聞こえた瞬間、片足回し蹴りをかました。


「痛っ!」そう言って頬を抑える人物は意外にも見知った人だった。いや、見たことある人だった。


ニュースで見たな、この人。変態なのではと物議を醸していた人だ。


「変態おじさんだ。」

「誰が!」

「じゃあ、この少年少女は?」

そう言って実験体にされていた二人を見る。骨みたく細い身体つき。注射痕、古代魔法陣、歪な魔法陣ですらないものたち。


「一体、何をしようとしていたんですか?」


「う゛、いや私は完成させる!」

研究と称した実験に何の意味があるんだろう。何で――そんなことが出来るんだろう。人の意思なんて丸無視のものを。


「ここに来るまで、色々なものを見ました。全て、あなたが投資し、あそこの人たちもあなたが雇ったのでしょう?」

「まぁ、そうだよ。私には野望があってね。」


「どんな?」

「且つて水と同じくらい大事なエネルギーの実験があったんだ。私も彼のような偉大な意志に憧れてね。」


「へぇ、それで人体実験を?」

内心イラついてたからか睨んで言った。


「あぁ、そうさ。彼は失敗したが、私なら絶対失敗しない!」


私からしたらいつだって人は自分勝手で身勝手で。でもその身勝手さに救われることだってあって⋯⋯。はぁー、だから言いたくないけど言う。


「実験がなぜ禁忌なのか分かりますか?」

「そんなことは今は――」

ダンッ。地面を思いっきり足で蹴った。


「聞け!」


それと同時に魔法で少年少女が見える景色だけを変えた。言わなくては、また悲劇が起きる。




昔、そう言って人体に実験をした者がいた。それはあなたが言った実験者のことだ。

でも実験された側からしたら突然誘拐され、牢屋に閉じ込められ正義の為だのなんだの語られようが――、吐き気しかしなかった。


毎日のように実験が行われた身体は管と繋がり、地面には飲水、立つ気力すらない、一部魔石と化した身体、注射痕なんて生ぬるい。


魔法に耐えられず、心臓は魔石と同化し身体から露出。骨も少し露出。余命は奪われ、その当時6と告げられた。他にも身体の機能が正常に動かない部分、関節もある。


そのまま、何日も何日も冷たい牢屋で過ごした。家族が捜しているはずだ、と自分に希望を持たせながら何日も、何日も冷たい牢屋で待った。動けないし、逃げ切れないから待つしかなかった。


もう何日過ごしたことだろう。時間感覚が消えた頃。


遠くから少しだけ争う声が聞こえる。耳がキンキンいう。耳が寒い。だんだん近づいてくるその声に咄嗟に身を縮めた。


心臓を庇うような姿勢をとった。意味もないというのに。


ドアが錆びついた音を立てて開いた。光が眩しく感じようやく「いつもの人じゃない」と気付いた彼女は震えが止まらなかった。立てなかった。怖くて。人が怖くて。


びくびくしながらも救助された彼女は人に慣らされてから親の元へと無事に返された。救助の人が良い人だったのは今でも覚えている。


でも、この痩せ細って歩けない状態では魔法の研究の為に各地を周ることは出来ない。


そして今まで行っていた遠くにも近くにすらも行けず趣味の時間も奪われた彼女は――、ある本を読み決意を固めた。


そこからの彼女は早かった。魔法でどうにか関節を治せないかと模索した。その努力の甲斐と元々魔法大好きだったのも相まって関節はポキポキ動いた。余命は試みるも失敗。


流石に失われた命を戻せはしないようだ。魔法で奪われたというのに。


それで街に行き魔法具を買いに行った彼女は、実験の内容を知っていた奴らに嫌われた。所謂、お前が犠牲になっていれば! という輩だ。


実験の内容は彼女たちに管を繋ぎ、エネルギー代わりとするものだった。だから心臓を魔石と同化させられ、命が削れていった。


――つまりこの実験は人の命をエネルギー代わりとするものだったらしい。何人も犠牲になったのを彼女は忘れない。


あと一歩遅ければ人の形すら保たず何かになっていたらしいというのに、どうしてこうもそんな目線を向けられなきゃいけないんだと思いもしたけど、そう思ってしまえば魔法王は務まらない。


私はフザケ合えるような笑顔に出来る魔法王を目指すのだから。


彼女もまた魔法王に憧れを向ける一生徒だから。




部屋にいるみんな、呆気に取られた表情をしている。けど、夜の魔法師はだんまりだ。そりゃそうか⋯⋯。

「そんな余命なんて話し、どこにも! それに私なら絶対に失敗しな――」

「その彼女の名をアマラといった。」そう言って上着を脱いだ。


「ッ。」顔を恐怖に染め、尻もちをつく変態男。


「まだ分からないのか⋯! これが――あなたが喉から手が出るほど欲しがったモンだッ!」

全身にみっちり刻まれた魔法陣、少し露出した骨、丸見えの魔石と同化した心臓、黒くなった目を男の目前に近づき見せた。

これが私だ⋯⋯。寒いな、牢屋みたい。


今後、二度と起きてほしくない。けど⋯⋯、歴史は繰り返されるだろう。


「魔法は、うっかり、知らなかったでは済まされないほど、やってしまえば取り返しがつかなくなる。理想で物事は上手くいかない。それを忘れるな。」と言い放った。


それに――、今は余命3年。それまでに魔法王に絶対になる。

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魔法とは測るものである。 芒硝 繊(日明かし人) @Rsknii7_myouya

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