第二話 カチコミ

あの後も着々と転入生はその生意気っぷりを披露していった。


例えば――10分休憩。あのやらかしの後、問い詰められた新入生はなんとこう返した。


「いや、だって転入出来た時点で俺が強いのは明らかな事実だからな。もし文句があるんなら先生に言ってくんない?」


私は多分態度について聞いているんだと思ったんだが、新入生はそうは思わなかったらしい。


その後も授業で新入生は高得点を取りまくり


「本当にここ、魔法王になる為の学校? 簡単すぎ。」


と言った。これにいくら顔が良かろうが許せなかった奴らは必死に高得点を取ろうと頑張るも見事惨敗。

そして、今何故かその新入生に話しかけられている。どうしてだろう?

確かに実力で分からせればいいとは言ったけど。期待のみんなの目が痛い。自分の実力でやってくれ。


「あのー、聞いてる? ペア組もう?」


「聞いてる。だけど、どうして私に?」


「え、あんた強いだろ。だからだ。それ以外に理由いる?」


「そ。」


「けど可笑しいな。俺ってかっこいいよな?」


「え。」


「なのに何であんた、嬉しがらないんだ? 最初から。」


まさかの最初から。見てたのか⋯⋯。


「自分でかっこいいって言ってる内はかっこ悪い。」


「へ?」


「真にかっこいい人は他人ひとをそれで黙らす。あなたはずーっと負ける気はないとか言ってたけど魔法王に求められるにはそれだけじゃない。それじゃあ、魔法士にも魔法師にもほど遠い。」


「それぐらい知って――」


「じゃあ何故他人ひとと関わらないような発言ばかりする?」


「それは切磋琢磨し合えたらと思って⋯⋯。」


「言葉は大事。魔法にとっても大事。魔法王を目指す仲間なら言わなきゃ伝わらないことが多いことは分かるはず。私もこんなことを言ってるけど不器用な言葉しか投げかけれない。」


「分かった。ちゃんと伝えるよ。」


「もう伝わってるよ。」


そう、よく使う自作魔法を発動させといた。

一定の数値を測ると起動する魔法を。効果は状況に適したものというちゃんちゃらおかしい魔法だ。これは測ると発動するものだから詠唱なしだ。


「え?」


「なんだ、そうしたいなら早く言ってよ。」

「ほんとそれ。不器用にもほどがあるっつうの。」

「じゃあ、私にどうやったらあんな魔法撃てるのか教えて!」

「ちょっと、それ言うならみんなに――って。秘密にしたい魔法なら無理にとは言わないけど。」

「てゆーかイケメン過ぎ。その顔面分けろや。」


最後の方はなんかおかしかったけど、伝わっただろうか? そう思い同級生に囲まれた彼の方を向くと


「ッ。」


下を俯いていた。え、まずかったんだろうか?


「俺、ごめん。焦って焦って。魔法王にならなきゃって。」


「どうしてそこまで焦った?」


気になり聞いてみると


「家族が――魔法を使った組織に殺されて。俺、こんなんおかしいと思って魔法王になれば変えられるかなって。」


「その組織はどちら様で? なんだったら俺お得意の火魔法が火を吹くよ?」

「いや、それ言うならこんな時こそ特定すべきでしょ。普通にハックして見つけてやんよ。」


普通にハックってなんだ。それにしてもこの手の事件か。昔から――あの二人がいた時代の時からあるな。うちの家に書かれてる。


「そりゃおかしいわ。え、サツは? サツはいなかったの?」

「おい、どこに影響受けてんのか諸バレの単語やめい。そうじゃん、警察は?」


「言った。言ったけど手がかり一つないって。」


「おい、サツー! 嘘だろ、ちゃんとやったのかサツー!」

「秘密組織ってこと? え、現実であるんだ。」


「昔からある。それで見つかったら僥倖。見つからなかったらそのまま闇になんてことは多い。」と言っておいた。


「まじか。てゆーか詳しくね?」

「いや、でも捕まんないなら俺等で捕まえちゃう?」

「分かるけどそれで逆に相手に捕まったらどうするん?」

「え、死ぬ。」

「それはそう。」


こんなにワイワイ授業中にいいのか。

チラッと厳しい先生を見ると何処かに連絡をとっていた。え、まさか――。


「お前ら、許可はとれた。捕まえるぞ、秘密組織!」


先生⋯⋯。え、本当に?


「魔法王になるなら、身近に困っている人がいるのに手を貸せなくてどうする!」


そう先生が言う。やっぱりこの先生、厳しい熱血系だ。


「せ、せんせ⋯⋯。みんな。」


彼は泣いていた。うん、先生の言う通りだ。


「カフ。ハッキング頼めるか?」

「はい、先生。よゆー。」

「慎重にな。」


「アマラ。今の内に一定の数値ギリギリまで測っておいてくれ。それと転移使わせてくれないか?」


数値ギリギリ。まぁ、そうなるか。


「了解です。準備しておきます。」


さてと、そうなると家まで取りに戻らなきゃいけなくなる。けどそれは面倒だ。だから測ってもしかしたら手元に来るかもしれない。


深く欲すれば。


巻尺であらゆるところを測り始めた。

壁の高さ――あ、届かない。

床。うん、これなら測れる。えーと、と。転移陣を思い浮かべながら20mきっちり出す。相変わらず長い。

けど、学校が馬鹿でかいのが功を奏した。


20mまで測り完了。何が出るかな。転移陣がいい。滅茶苦茶。


ポンッ。よっっし、転移陣ゲット。


紙に描かれた方の転移陣が手元に出てきた。お、重い。


その辺にあったところに置くのも破けそう。よし、先生に聞こう。


「先生!」


「なんだ?」


「これ、転移陣です。破けそうなので何処か置いておける場所ってありますか?」


「私が預かろう。帰って来る時まで。」


先生がそう言うと、マジックポケットに入れた。え、先生持ってるんだ。私持ってない。


「これで多分、安心だろう。」


「ありがとうございます。じゃあ急いで測ります。」


「あぁ、ギリギリ⋯⋯までな。」


「はい。」


巻尺をまた今度はぴったりじゃなく19.99m出す。そして測った。


よっし、計測完了。


ふとみんなを見るとあちこちでドタバタしていたはずが大方終わり練習に移っていた。


「みんな、準備は出来たかー!」


そういくさに行きそうなほどの形相で先生が声を上げた。


「「「おー!/やってやんよ!/おらー!」」」


それぞれが声を上げて何を言っているか分からない状態にも関わらず聞こえる声もあった。


「ほ、本当にいいんですか? 先生」


そう聞くは転入生――いやもうクラスの一員のアポロン・ハビヒト。


「勿論だ。これくらい出来なくては学校が泣く。」


「せ、先生⋯⋯! みんな!」


「だが、確実に捕まえれるわけではない。ハビヒト。これから会うのは君の家族を殺した連中だ。大丈夫かと聞くのは野暮かもしれない。けど私は心配だ。君が大丈夫か。」


先生⋯⋯。


「それでも行きます! 俺!」


「あぁ。行こうか。」


うん、転移陣の思い浮かべ完了。


「場所は分かったか? カフ」


「勿論! 場所はジィムニャ国サラブピカ地域エッカゼナヤ区五丁目四十五番地です。」


す、凄い。けどあそこか。嫌な予感がする。それに――そこが合っているとは限らない。ま、行ってみよう。


「よし、転移頼むアマラ。」


先生が紙を渡してきた。受け取り


「了。」


紙を開いていく。今回は人数が多いため陣を速攻で付け加える、イメージで。


陣広げ、同じく。


頭のイメージは崩さない。測りはこの間やったから省く。あとは座標調整。


今の座標は最果ての北、ネクラスになってしまっている。


手にポケットから取り出したグローブをカチッと嵌める。


紙の前に正座。座標書き換え、スタート。


場所はジィムニャ国サラブピカ地域エッカゼナヤ区五丁目四十五番地。イメージと組み込んだ地図を照合。

根本をジィムニャ国の黄色玉へ変更。五番ダイヤルは九番ダイヤルへ。三番ダイヤルは七番ダイヤルへ。四番ダイヤルは一番ダイヤルへ。零番ダイヤルは六番ダイヤルと八番ダイヤルを。二番ダイヤルは動かない。


座標書き換え完了。実現可能。


「行けます!」


「よし、全員紙の上に座れ! 汚すなよ!」


「「「はい!/ラジャ!/ういー。」」」


全員が殴り込みに行く覚悟だ。凄まじい気迫すら感じる。


私も⋯⋯、いやなんでもない。イメージ、崩さないようにしないと。


全員が座った。私も座る。


「魔法指揮。」


今回は書き換えたのでこれが必要だ。


「実現。」


魔法は道具じゃない。これだけの人数、知らない人も多い。実現してくれるだろうか? 私自身も行きたいのだ。ある理由の為に。


「りょ。」


光った。行ける。


まばゆいほどの光が襲い、思わず目を閉じる。


よ、良かった。着いたジィムニャ国の言っていた位置に。


「だ、誰だ! お前ら!」

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