三題噺『カボチャ、ドア、漫画肉』
高原リク
『カボチャ、ドア、漫画肉』
今日はハロウィン。
19時、カボチャをくり抜き、お化けカボチャにして玄関の門の上に置いた。
この地域の子供会では、ハロウィンの日に子供が地域の家を周り、お菓子をねだって回る。
お化けカボチャを門の上に置いている家が回ってもいい家の目印になっている。
今年は少し大きめのカボチャが手に入ったのでカボチャの頭を少しくり抜き、中に蝋燭を入れられるようにしてある。
カボチャの中で揺らめく蝋燭の炎が怪しく周囲を照らしている。
20時、子供たちが何人かのグループを作って回ってくる。
ドアを2,3度ノックされ、その音を合図にドアを開ける。
訪れた子供たちはそれぞれ幽霊だとか、狼男だとか、吸血鬼とか色々コスプレをしている。
トリックオアトリートの言葉に合わせて子供たちが持っている大きな籠にお菓子を入れていく。
今回は何組来るかわからないから多めにお菓子を用意してある、このペースなら大丈夫そう。
私がこの地域に越してきた来た時、引率の父兄に聴いたことがあった。
どうして子供たち全員を固めて回らないのか、と。
当時の父兄曰く、全員が固まって回らないのは何かあったときに逃げやすいかららしい。
情報は一緒に回ってる父兄が共有していて、何かあったらそことは反対に逃げるようにしているとのこと。
確かに全員固まっていると逃げるのも難しい?のか……。
21時、子供たちの大半は集会所で集まってもらったお菓子を分け合っている時間。
私はカボチャの蝋燭に息を吹きかけ火を消す。
周りの電柱についている街灯がうっすらと周囲を照らし、静かで穏やかな冬目前の夜を、消え入りそうな弓なりの月が優しく見守っていた。
22時、玄関のドアを誰かが激しく叩く。
2度、3度。それ以上は数えるのをやめた。
キッチンで夕食の皿洗いをしているのを中断し、エプロンで簡単に手をぬぐいながら玄関へ向かう。
ドアスコープから向こう側を覗くと、黒いローブに身を包んだ一人の子供が立っていた。
まだ回ってない子がいたのかな……。
でも、なんで父兄が付いてないんだろう……。
不思議に思いつつお菓子を取りにキッチンへ戻り、冷蔵庫に入れていたお菓子の余りを一袋つかみ玄関へ向かう。
ドアスコープを再び覗いてまだ子供が扉の前に居るのを確認する。
「今開けますから少し離れてくださいね。」
そういってドアから子供が離れたのを確認してドアを開ける。
ドアを開けると、そこには赤い髪をした女の子が一人で立っていた。
「トリックオアトリート。」
消え入りそうなほど小さな声でそう言う女の子に私は笑顔でお菓子を渡した。
今日配っているのは私の庭で取れる木苺をたくさん使ったカップケーキだ。
気合を入れて作りすぎてしまったので結構な量が余っていた。消費に困りそうだったので少し多めに渡す。
「よかったら、お友達と一緒に食べてね」
そういってフードの上からその子の頭を撫でる。
その手に少し違和感を感じた。明らかに頭に二つ突起があるのだ。
少女は慌てて私の手を払いのける。
その時少女のフードがずれて顔があらわになる。
赤い髪に赤い瞳、二本のツノが玄関の蛍光灯を浴びてキラリと光る。
首元には瞳と同じ色のトルマリンらしき宝石のネックレスも見えた。
慌てて少女はフードをかぶりなおし、夜の闇に紛れるように走り去っていく。
私は暴れる心臓を抑えながら玄関にへたり込む。
「今の子って……」
私はあの子を知っている。
小さいころの遠い記憶が私の脳内にフラッシュバックする。
今住んでいるこの家は私の祖父が建てた家だった。
小さいころ両親に連れられて何回も遊びに来た。
多分その時に一緒に遊んだ子……。
赤い髪、赤い瞳。お母さんの形見だって言っていた赤いトルマリンのネックレス。
ずっとずっと忘れていた。
でもその頃の彼女にはツノなんて生えていなかった。
そして、あの子の姿はあの頃と変わらないままだった。
分からないことがいっぱいある。
一昨年祖父が他界して、私がこの家を継ぐことになった。
祖父母との思い出もあるこの家を売却したり、更地にして建て替えるのも私も両親も避けたがっていた。
完全在宅ワークでどこでも仕事ができる。
そんな私しかこの家を守ることは出来そうになかった。
あれから2年……。
今になってどうして姿を見せたのだろう……。
あの子も私のことを覚えている……と思う。多分。
祖父も、祖母もどこまであの子のことを知っていたんだろう……。
考えてもしょうがない……。
明日のお昼に作ろうとしていた漫画肉の仕込みをしながら、あの子がまた来てもいいように空いた時間で日持ちするお菓子を作っていく。
今度はお茶でもしながら話せたらいいな……。
三題噺『カボチャ、ドア、漫画肉』 高原リク @asknao19940815
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