第3話
ぼくは誰かを捜していた。
自分の部屋に来てくれるのであったら、誰でもよかったので、相手を探していたのである。
しかし、誰もいなかった。
それなりに同僚と仲良くやっているが、ぼくの家に来たくないらしい。一匹の猫のせいで、ぼくは孤独になっていた。会社なんて信じることができないのかもしれない。プライベートと仕事を分けているのだろう。いつもであったなら、受け入れることもできる。しかし、困っているのだから、助けてほしかった。
ぼくは猫が苦手なのである。
本当の話をするべきかもしれない。しかし、それができなかった。プライドがあったのである。きっと、入社して一年目の社員であったのなら、断ることはできなかっただろう。なのに、ぼくはためらっていた。黒猫がいるから、ぼくの家に来てくれと言ったら、先輩として尊敬はされないだろう。そんなことを考えながら、一日の仕事を終えることになっていた。収穫はなかった。今日も、ぼくは猫と二人の生活になるらしい。いや、そうはならない。きっと、いくつかの方法があるだろう。例えば、自分の家へ帰らなかったら、黒猫と会うこともないだろう。しかし、猫に餌をやらなくてはならない。餌をあげてから、家を出るべきかもしれない。ただ、それも腹が立っていた。
猫は嫌いだけど、ぼくは逃げたくはなかった。
それなら、他の方法である。むしろ、最後の手段であると言うべきかもしれない。デリヘル嬢を呼ぶことである。これなら、ぼくにもできるだろう。ただ、不安にもなっていた。そんなことをしたこともない。しかし、頼れるとしたら、他人でしかないのだろう。それに、相手が女性だったら、猫のことを頼むことができるはずだ。黒猫と戦うのなら、女性の方が良いに決まっている。もちろん、馬鹿げているのかもしれない。しかし、これ以外の方法がなかったのである。
そう思うと、ぼくは電話をすることにした。
男性の声が聞こえてくる。名前を告げると、どういったご用件でしょうか、と言っていた。女性を捜しているんですと、ぼくは告げることにした。それは恥ずかしいことであった。彼女に告白をするより、胸がドキドキしていた。うなじが痒くなり、手が震えていた。しばらく、女性が来るのを待つことにした。やっと、すべてが解決できると思っていた。
その時、妻が家に戻ってきた。
ふと、電話のことを思い出す。ぼくはどうしたらいいのだろうかと思っていた。すると、ぼくの部屋では黒猫がにやにやと笑っていた。もしかしたら、追い出されるのは黒猫ではなくぼくだろうか…。
タンスの中で黒猫は笑う 黒猫の旅人 @kaku_maki
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