第15話 翌日の朝

 目を開けると、心の元気な挨拶が聞こえる。


「彩羽君、おはようございます」


 他人の家に待ち伏せして、家族の反対を押し切って宿泊した女がいる。幻だと思いたかったけど、完全なる現実であることを思い知らされた。


「心さん、おはよう・・・・・・」


 お風呂場にあったはずの洗濯かごは、窓の前に移動している。


「彩羽さん、洗濯をしてくれたんだね・・・・・・」


「はい。泊めてもらっているのですから、これくらいは当然のようにやりますよ」


「あ、ありがとう・・・・・・」


 ちゃらんぽらんな性格とは裏腹に、極めて高い水準の女子力を有する。養分の配分は明らかに偏っている。


「洗濯物を干したとき、変色しているものが多かったよ。強くはすすめないけど、あたらしいものを・・・・・・」


「うるさいな。人のプライバシーに介入するな・・・・・・」


「す、すみません・・・・・・」


 心の顔を見ていると、悪いことをした気分になった。


 頭を下げようと思ったタイミングで、心の電話の着信音が鳴った。


「おかあさんみたいだから、ちょっとだけ出てくるね」


 おかあさんに心配されているのに、悲しさを漂わせている。二人の間は修復不能レベルにこじれているのかもしれない。


「心、いい加減に帰ってきなさい。さもなくば、捜索願をだすことになるからね」


 捜索願を出されれば、自宅を突き止められるのは時間の問題。女子高生誘拐犯として、両手に手錠をかけられる。


「わかったよ。これから帰るから・・・・・・」


 外には洗ったばかりの洗濯ものが干されている。太陽のまともにあたっていない状況では、乾いているとはいいがたい。濡れたままの服を持ち帰ることになりそうだ。


 電話を切ったあと、心は帰り支度を始める。


「わかった。別れは惜しいけど、家に戻らせていただきます」


「心さん、服はどうするの?」


「濡れたままの服は持ち帰れないよ。きっちりと乾いたら、家の中に取り込んでおいてね」


「宿泊した証拠を無碍無碍と残すのは・・・・・・」


「お・・・い・・・て・・・・くれないの?」


 心の情に訴える作戦に、心は大いにぐらつく。好きな女性の希望を叶えるために、そのままにしてあげたい。


「ダメ、ダメなものはダメ・・・・・・」


「わかった。持って帰る・・・・・・」

 

 そのままにしておけば、好きな人の匂いをいつでもかげるのに。変態脳を持つ男は、そのように考えてしまっていた。

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2024年12月24日 10:00

告白を笑顔で振った女が、母から渡された合鍵を使い、無断で家に入ってきます のんびり @a0dogy69

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