第7話 利用と侵略

「利用……ですか?」

「利用だ。詳しくは世界について話そう」


 世界は大きく分けて2つの種類がある。

 1つはヴァイラスが入ることが出来る世界だ。この世界を「汚染区域」と呼んでいる。

 そしてもう1つはヴァイラスが入ることが出来ない世界。これを「浄化区域」と呼んでいる。


「ガーディアンズはこの2つの種類のどちらにでも赴き、アクションを起こして通常の歴史とは違うものにする。これは第2のアースショックを防ぐためだ。その上でこの2つの違いを見てみるといい。同じ世界でも2つの違いがあると思わないか?」

「まさか……。汚染区域なのにガーディアンズが行っていない世界があるんですか!?」

「その通りだ。ヴァイラスも世界を変える立派な理由の1つだ。一切手を加えてない世界もある」


 クロウの言葉を聞いた途端、シュウトは声を荒らげた。

 

「何故ですか!?。ヴァイラスのせいでその世界の文明だって滅んでいるのかもしれないんですよ!?」

「言っただろ?。ヴァイラスも理由の1つだって」


 アラヤが真面目な顔で話した。それに続くようにクロウも話す。


「ガーディアンズの最終目標は現実世界に帰ることだ。そして第2のアースショックを防ぐことは、我々の生存していくための方法の1つだ。我々が手を加えなくても変わっていくなら、はっきり言って放置しても問題は無い」

「でも!」

「シュウト、俺達は正義の味方とか、ましてや救世主でもない。侵略者だ」


 アラヤの言葉にシュウトは黙ることしかできなかった。


「アラヤの言う通りだ。ガーディアンズは自分達が住みやすいように周りの環境を変える。この変えるというのはヴァイラスを駆逐するだけではない。各世界の住人と時には交流し、時には殺害や拉致だって行う。ガーディアンズへの引き込みなども行っている」

「ま、個別部隊がやるのは交流とヴァイラスの駆逐だけだけどな」


 クロウの言葉にアラヤは追加の言葉を入れる。シュウトは俯き、口を開くことが出来なかった。そして黙っていたマコがため息と共に口を開いた。


「はぁ……確かに私達はそんな仕事をしてるのは事実だけどそんなにハッキリと使えなくてもいいじゃないの。まだ子供なのよ?」

「子供だとしても彼は立派な個別部隊の隊員なんだ。事実を教えて納得させなければいけない」

「だからって!」

「分かりました!納得します!……」


 マコとクロウの口論に割って入るようにシュウトが叫んだ。

 

「シュウト君……」

「僕だってアースショックがまた起こるのは嫌なんです……それを防ぐ為に必要なことなのでしょう?」

「そうだ。……少し長めの休憩をしよう。シュウト、これは本部の地図だ。立ち入り禁止区域じゃなければ自由に出入りして構わない。30分ほど経ったら戻ってきてくれ」


 クロウが紙の地図を渡し、椅子に深く座った。シュウトはそれを受け取るとルームを出て行った。


「はぁ…。嫌な役回りはできるだけしたくないな……。けど現実を分かってほしいのは事実だし……」

「お疲れ様だなクロウ。けどちょっと厳しすぎやしないか?」

「そうよ。そこまで徹底的に教えなくてもいいんじゃない?」

「本当は俺もそうだと思うよ……。けど彼に、救えるものと、救えぬものがあることをできるだけ早めに教えたかったんだ。あいつに辛い思いをさせたくはない……」

「全く……過保護な奴だな」


 その頃、シュウトは何も喋らず、下を向いてトボトボと廊下を歩いていた。地図は貰っていたが一切見ておらず、彼自身何処を歩いているのかよく分からなかった。

 彼が気がついた頃には階段の踊り場に出ていた。これより上には階段はなく、1つの扉しか無かった。どうやらここは屋上の入口のようだ。


「屋上か……入れるかな……」


 ドアノブを回すと扉が開いた。屋上は開けており、所々にベンチが設置されている。ここは休憩所としても使えるようだ。落下防止用の金網に手をかけ、顔を上げると、コロニー1全体を見渡すことが出来た。


 彼が何も考えずぼうっと景色を見ていると後ろから声がかかった。


「おや?先客かい?」


 シュウトがびっくりして後ろを振り向くと、そこにはケント司令官が立っていた。シュウトのびっくりした顔を見たケントは苦笑いをして、頬をかいた。


「びっくりさせてしまったね。すまない。君は……休憩かな?」

「え、えぇ……少し休憩を……。ケント司令も休憩ですか?」

「ん?僕かい?。僕はサボりさ。仕事もひと段落したから、息抜きね」

「そう……ですか……」


 シュウトは少し落ち着きを取り戻し、ベンチへと座った。


「隣、いいかな?」

「えぇ……どうぞ……」

「ありがとう」


 ケントはニコリと笑うと、シュウトの隣に座った。その後は、しばらく2人は黙ったままだったが、ケントが口を開いた。


「いい景色だろう?。僕はここが気に入っててね。風も気持ちよくて、人もあまり来ないから気分転換にはもってこいなんだ」

「そうですか……確かにここは気持ちいいですね……」

「その割にはあまり表情は明るくないね。何か悩み事かい?。それとも、クロウ君達に何か嫌なことでもされたかな?」

「い、いえ!そんなことは!」

「冗談だよ。とはいえ悩みはありそうだね。少し話してみないかい?」


 シュウトは少し俯いた後、先程の出来事を話した。


「成程ね……侵略者か。アラヤ君も面白い例えをするね。言い得て妙だ」

「アラヤさんの意見にケント司令は賛成ですか?」

「うん、そうだね。僕も同意見だ。僕達がやっているのは決して正義ではないよ。結果として正義になっているだけだ」

「そう……ですか」

「けどね」


 ケントは空を見上げ、ゆっくりと笑った。


「その世界の救世主じゃなくてもガーディアンズにとっては、アースショックの危機を防いだ救世主さ。誰かの悪はまた誰かにとっての正義なんだよ」

「正義……ですか」

「正義の反対は悪ではなく、また違う正義だ。これからの任務から帰ってきたとき、たまにここに来てこの景色を見てみるといい。君のおかげでここにいる人々は救われたと思うだろうね」

「分かりました…。少し考えを改めてみます」

「うん、少し元気が出たみたいだね」

「はい、ありがとうございました」

「うんうん、気にしなくていいよ」


 会話の後、シュウトはベンチから立ち上がり、景色を眺めていた。その背中を見たケントは過去の記憶を思い出す。


 ―俺たちでこの人々を、この世界を守っていくんだ。それ以外で道はないだろう?―


「シュウマ……」

「ん?何か言いました?」

「いや、なんでもないよ。独り言さ。……さて、僕はもう戻ろうかな」


 ケントの言葉にシュウトも休憩時間を思い出し、慌てて立ち上がった。

  

「僕も戻らないと……そろそろ休憩時間も終わるし……」

「送っていくよ。実は道に迷っていたりするんだろう?」

「……司令はなんでも知ってるんですね……。僕が悩んでいることも分かってたし……なんだか少し怖いです」

「長年の勘さ。怖がらせてごめんね?」


 2人は屋上を出て、ルームに続く廊下を歩いていた。歩いている最中、ケントはシュウトに話しかけた。


「そういえば、君は何故ここに入ったんだい?。速く入ったとはいえ、訓練生だったからガーディアンズに入隊することは決めていたんだろう?」

「祖父と両親が何をしていたのか知るためです。僕が物心着く前にいなくなってしまったんです。あの人達は何故いなくなったのか。それが知りたいんです」


 シュウトの答えに、ケントは目を丸くした。その表情は「意外だった」ではなく、「予想通りだった」という目をしていた。


「君の祖父はよく知っているよ。あいつは僕の親友だったからね」

「司令の親友だったんですか?」

「うん。シュウマだろ?。君の姿はあいつによく似ているよ」


 懐かしそうにケントは語っていた。シュウトは祖父のことを知っているなら両親のことも知っている筈だと思い、更に質問を続けた。

 

「じゃあ僕の両親のことは知っているんですか?」

「勿論知っているよ。だが、今何処に居るのかは分からないんだ……僕も探してはいるんだけど、2人の足取りすら掴めずにいる。不甲斐なくてごめんね……」

「そうですか……」


 ケントの弱々しい呟きに、シュウトはこの言葉しか返せなかった。


「あの……後で祖父のことを教えて欲しいんです」

「勿論だよ。時間があったら沢山話してあげるよ!」



 そう話しているうちにルームへ戻ってきた。ドアを開けようか躊躇っているシュウトをチラりと見たケントは何も言わずにノックをしたあと、ドアを開けた。


「おーおかえりーってケント司令!?」

「どっ……どうしました?。何か御用で?」


 背もたれにもたれかかり、手を振っていたアラヤは目を丸くしていた。クロウも同じように目を丸くして、ケントに要件を聞いた。2人の表情を見たケントは苦笑いをした。


「道に迷っていたシュウト君を偶然見つけてね。送りに来たんだ」

「ご迷惑をお掛けしました……。今度からしっかり地図を見ます……」


 シュウトは弱々しく謝罪をした。それを見たクロウは少しため息をついて、目頭を抑えた。


「ありがとうございます……。何か飲み物でもどうですか……」

「いや、大丈夫。サボり……じゃなくて休憩も終わったから僕も戻らなくちゃだからね」

「分かりました……お疲れ様です……」

「うん、またね。…あ、そうだ。シュウト君、シュウマ……じゃなくて君の祖父のことが聞きたかったら、いつでも僕のところに来ていいからね。勿論、暇なときだけだよ?。任務中に来たらダメだからね?」

「分かりました。ありがとうございます」

「うん、今度こそまたね」


 そう言って、ケントはルームを出ていった。まだ少し俯いているシュウトにマコは、少し呆れたように声をかけた。


「シュウト君、しっかり地図は確認しようね……。よく分からなかったら自分の知ってる場所で休むのよ?」

「はい……肝に銘じておきます……」

「ま、ちょっとした冒険だと思えば面白いもんだろ」


 

 アラヤはケラケラ笑っていた。シュウトはクロウの元へ行き、頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました。自分自身の考えも改めてみます」

「俺も少し厳しかった。だがいきなり変えろとは言わない、少しずつでもいいから自分なりに答えを改めてほしい。すまなかった」

「頭を上げてください!。元は僕が悪かったんですよ!」

「いや、出来るだけ急ぎ足でという考えが先に出てしまった。本来ならもっとゆっくりでもよかった筈だ」

「いえいえ!」


 クロウも頭を下げるが、シュウトは急いで頭を上げるように促すが、クロウはそれでも頭を下げ続けていた。どうやら2人の蟠りは溶けたようだ。2人のやり取りを見てマコが溜息をつきながら呟いた。


「男ってやっぱり単純なのね」

「単純なのがいいのさ」


 アラヤはその呟きに、にししと笑い返した。

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