第2話 コンタクト
「おはようございます。大和君」
翌日の朝。教室に入った僕にソフィアが挨拶をしてきた。ぼっちキャラである僕に話題の美少女が挨拶をしてきたという事実。それはクラスを騒然とさせるのに十分であった。
「おはようございます、大和君?」
「あ、ああ、おはよう。ソフィアさん」
もう一度、首を傾げながらソフィアが挨拶をしてくる。それで我に返った僕は慌てて挨拶を返した。
「うふふ、どうしたんですか? 大和君」
花が咲いたような笑顔で僕の顔を覗き込むソフィア。しかし、その目に映っているのは僕じゃなくて、彼女の兄である『ダークネスシャドウ』だ。まあ、どっちも僕なんだけど。
「い、いや。何でもないよ。今日もソフィアさんは元気だね……」
「うふふ、分かります? これも大和君のおかげなんですよ」
そのやり取りだけで、教室内はさらに騒がしくなる。視線にも怒りや憎しみといった感情が混じっているのが分かった。
「あの、ソフィアさん。放課後は旧校舎裏にお願いします」
「わかりました! 楽しみにしていますね!」
僕が放課後の待ち合わせ場所を小声で告げると、なぜか彼女は大声で返事をしてきた。そのおかげで、その日一日、鋭い視線に耐えながら過ごす羽目になったのだった。今までぼっちだったせいか、因縁付けてくるような人がいないことだけが、不幸中の幸いだろう。
「さて、向かうか。あれ? ソフィアさんは?」
放課後になって、僕が旧校舎裏へと向かおうとする。すでに彼女はいなかった。慌てて旧校舎裏に向かったが、すでに不機嫌そうな表情のソフィアが仁王立ちしていた。
「まったく、何をやっているんですか? 遅すぎですよ!」
「いやいや、急いできた。めっちゃ急いできたよ!」
「ふぅ、まあ良いでしょう。それでは今日の方針はどうしますか?」
いまだに僕が遅れたこと――三分ほどだが――に怒っているソフィアの当たりが強い。だけど僕に方針を聞くと言うことは、調整がしやすいということでもある。
「とりあえずは、街で聞き込みをしてみよう。手がかりが『あだ名』だけじゃ厳しいからね」
「うーん、それもそうですね……」
「そうそう、過去に会ったことがある人が見つかれば、他の情報も分かって見つかる確率も上がるだろう?」
「あ、そうですね! それではさっそく向かいましょう!」
僕たちは、さっそく街へと繰り出し、道行く人たちに『ダークネスシャドウ』に付いて聞いて回っていく。もっとも一般人が裏社会のコードネームなど知っているはずがないのだから。
「いませんね。『ダークネスシャドウ』さん」
「……そうだね」
ろくに進展もないまま、時間は二十二時を回っていた。これでも一応は学生の身、そろそろ帰らねばならないだろう。聞き込みするたびに『ダークネスシャドウ』という自分の黒歴史を耳で聞くことになり、僕の精神力は限界ギリギリになっていた。
「まあ、時間も時間だし。今日はこの辺で切り上げよう。なに、まだ始めたばかりだからね」
頃合いということで、僕は今日は終わりにしようと提案する。少し不満そうではあったが、時間が遅いという認識はあるのだろう。しぶしぶといった様子だがうなずいた。
「分かりました……。明日も宜しくお願いしますね」
「うん、それじゃあ、また明日」
そういって僕たちはそれぞれの家へと帰っていく。彼女に送っていこうかと提案したが、「もう一人前ですから」と言って断られてしまった。多少の不安もあったが、彼女の言葉を信じて、僕も家に帰る。
「うああ、疲れた……」
命には代えられぬとはいえ、彼女に付き添って黒歴史を掘り返したのである。それによって与えられたストレスは半端なかった。それ以上に厄介なのが、聞き込みの最中に、『ダークネスシャドウ』という名前をバカにする人間もたことだ。怒り狂う彼女を抑えてから、落ち着かせるまでの苦労は言葉には言い表せないほどの疲労を与えてくる。
「今週いっぱいは、地道に聞き込みをして、来週から、どうするかだな」
使える時間が放課後だけということもあり、今週いっぱいは聞き込みだけで時間稼ぎができるだろう。問題は来週からだが、流石に自分一人では厳しいだろう。最悪の場合は身代わりを立ててもらうしかないかもしれない。
だが、身代わりと言っても無条件で危険にさらすわけにはいかないので、今週中に彼女の本当の目的を探る必要があるだろう。
「あーあー、とりあえず、風呂にでも入って明日に備えるか……」
そんなことを言っていると、机の上に置いておいたスマートフォンが鳴った。
「ん? 弥美からか……。なんだろう、こんな時間に」
通話ボタンを押して受話器を耳に当てると、緊張した声が受話器の向こうから聞こえてきた。
「
白幇、とは中国の秘密結社の一つだ。殺し以外なら何でも行う組織である。特に諜報に特化していて、僕たちの対抗組織でもある。
「珍しいね。アイツらが尻尾を出すなんて」
「どうやら、アンタに繋がる何かを確保したらしいわ」
僕が茶化すように言うと、それを咎めるような口ぶりで言われた。『ダークネスシャドウ』は、そのふざけた名前とは裏腹に、この業界ではかなり名前が知られていて頻繁に狙われる。それもあって、素性を知られないように細心の注意を払っているのだけど……。
「何か、って何だよ」
「分からないわ、通信を傍受しただけだからね。どうやら、ヤツらの上の連中も来るらしいわ」
「なるほど、分かった。すぐに向かうよ」
上の連中も動いた、ということは、有効だと判断されたのだろう。プロテクトスーツを着込んで現地へと向かった。
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