第4話 トライアングル
三人を撃退したあと、僕はソフィアを眠らせた。そして、山田大和の姿に戻って彼女を起こす。
「うーん、あれ、大和君? 『ダークネスシャドウ』さんは?」
「えっ? 知らないよ。僕は知らない人から電話があって、ソフィアさんが、ここで捕えられているって聞いたから駆け付けたんだ」
「そう、なんだ……。せっかく会えたのに……」
彼女は目に見えて落ち込んでいた。なにしろ生き別れの兄、という設定だからな。
「会って……。故郷に連れて帰って……。盛大な結婚式を挙げるつもりだったのに……」
「ん、結婚式? ど、どういうこと。お兄さんじゃないの?」
僕は唐突に彼女から出てきた結婚式という言葉に嫌な気配を感じた。
「兄と妹だからって結婚できないわけじゃないですよね? だから、故郷に連れて帰って、結婚式を挙げて、ずっと一緒になるんです! 私の故郷にいるボス、じゃなくて、先生もそう言ってました」
あー、そのボスとやらは、僕とソフィアが、そもそも兄妹じゃないことを知っているな。結婚してしまえば、僕を縛り付けられると思っているのだろう。殺しに来たわけじゃないと言うことは分かったけど、それより状況が悪化した気がする……。
まあ、今日は大人しく帰ろう。ちゃんと僕も手伝うからさ。
「はい、大和君。ありがとうございます」
僕は彼女を背負って家まで送り届けた。彼女の体温が僕の背中に伝わってきて、僕まで身体が火照ってくるようだ。
「ありがとう、大和君……。ありがとう、兄さん……」
背中でソフィアが何かをつぶやいていたようだ。聞き返してみたけど、彼女は疲れていたのか寝息を立てて眠っていた。
翌日、登校した僕をソフィアは校門で待ち構えていた。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「おはよう、身体の方は大丈夫? あんまり無理しちゃダメだよ」
「はい、問題ありません。人探しの方も、ゆっくり攻略していくつもりです。協力してくれますよね、大和君?」
「ああ、もちろんだよ」
少し言い方に引っかかるところはあったが、昨日のように無理をすることは無さそうなので一安心だ。ほっとしていると、ソフィアが僕の腕に自身の腕を絡ませてくる。
「ちょ、ソフィアさん?」
「昨日のお礼です! 私みたいな美少女と腕を組んで登校なんてご褒美でしょ?」
それはそうなんだけど。周囲から注がれる視線。特に男子の嫉妬のこもった視線が痛い。そのまま腕を組んだまま、教室までやってきた。昨日の今日で急速に進展したように見えた関係は、クラスの女子たちの好奇心を刺激したらしい。とはいえ、昨日のことを公にするのはまずいと思ったのか秘密と言ってはぐらかしていた。そのせいで、余計に妄想が膨らんだわけだけど、事実が公になるよりはマシだろう。
そんなわけで僕とソフィアさんの話題で騒がしくなった教室に担任が入ってくる。朝のホームルームだ。
「今日は、急な話だが転校生が一人来ることになった。仲良くするように!」
「せんせー、男子ですか? 女子ですか?」
「女子だ。中国からの留学生って言ってたな。おい、入っていいぞ」
先生が言い終わると同時に教室の扉が開いた。頭をお団子にしたいかにも中国人という感じの小さい女の子が入ってきた。さすがに服装は制服だが。銀色の瞳を持つ目はかなり大きく、口角が上がっていて、まるで猫のようである。
彼女は教卓の前に立つと、深々とお辞儀をした。
「私、中国から来た
「李はそうだな、山田の後ろが空いているから、そこに座るといい」
先生に促されて、席の合間を縫って僕の後ろの席へと進む。ちょうど僕の隣に来た時、手に抱えていた教科書を落としてしまう。僕が拾って差し出そうとすると、顔を近づけてきた。
「これから、よろしくアルネ。『ダークネスシャドウ』さん」
そう言って、にっこりと微笑んだ彼女は、教科書を受け取って後ろの席に座った。
僕は彼女の言葉の意味がわからず、しばらく茫然としていた。直後、その意味を理解してがばっと立ち上がる。
「おいおい、何やってるんだ? まあいい、お前から自己紹介しろ」
呆れたように言ってくる先生に触発されて、大笑いしているクラスメイト達の中、僕はありきたりな自己紹介をしたのだった。
スパイ☆パニック ~地味系スパイだけど、なぜか美少女スパイに慕われてます?~ ケロ王 @naonaox1126
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