スヤスヤ教創世記

@samesasame

スヤスヤ教創世記

まずはじめに布団があった。敷布団と掛け布団とである。

 二つの布団の中には光も闇もなく、ただ安寧のみを布団が包んでいた。

 布団の中の安寧は敷布団と掛け布団との温度差により次第に澱と清みとに分かたれた。澱は大地に、清みは空と水になり、水は大地に降り注ぎ海となった。

 陸は敷布団からの力を得て、隆起し山と草木とが作られた。

 空は掛け布団からの力を得て、太陽と月と星とが作られた。

 陸と海と空は布団の中でやはり安寧を保っていた。

 やがて時がたち、陸からは猫が生まれた。その次に人が生まれ、次第にありとあらゆる獣が生まれた。この者らはまどろみの中にあり眠ったままで、起きることを知らずにいた。

 獣の中には空を渡る術を持つものもあったが、まどろみの中においてそれを用いず、海には泳ぐ術をもつものがあったが、やはり水底で深くまどろむのみであった。

 眠りの中で人は夢を見るようになった。夢遊のなかで人は立ち、歩くことを憶えた。夢にうなされた人は掛け布団を剝いでしまった。すると勤労をはじめとし、生活が恐ろしい冷気を纏って布団の中に流れ込んできた。

 冷気は人々と、それからありとあらゆる生き物を深い眠りから覚ましてしまった。

 開け放たれた布団からは心地よい暖気が漏れ出し、布団の中の世界を布団の外の世界に広げた。しかし、布団の外の世界に安寧はなく、わずかばかりの安寧は散り散りになってしまった。

 目を覚ました獣共は布団の中から這い出ては生活を始めた。獣は野山を駆けては草木や他の獣を食み、鳥は飛び、魚は泳ぎを始めた。

 人々は日々の糧のために勤労を始めた。それは大きな喜びであったが、またそれは大きな疲労を伴った。

 生活を始めたありとあらゆる生き物は、生活の疲労に耐えられず日に一度は眠りの中に落ちていった。

 はじめに生まれた猫は他の生き物よりも布団の中の安寧に慣れていたので、より長く深く眠るようになった。

 布団の外の世界ではいかに眠れども夜の冷気と布団に包まれぬことによる恐怖が体を冷たくさせた。

 人は他の生き物よりも考える頭と、作ることに長けた体をもっていた。人はかつての安寧を懐かしみ、掛け布団と敷布団とを模した。

 するとそこには散り散りになった安寧が再び集まりだした。人は掛け布団と敷布団の中に体を滑り込ませると、たちまちの内に深い眠りの中に落ちていった。その眠りは安寧を取り戻したのだ。

 8時間がたち、人が目を覚ますと頭と体には活力が満ち、大いなる原初の布団の外での生活を豊かなものにした。

 それ以来人は自ら作った布団の中で眠るようになり、それを知った猫は人と暮らすものが多くなった。

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