10 若いお母さん

 若いお母さん


 若いお母さんは小さな娘の前でたまに泣いてしまうことがあった。

「泣かないでください。お母さん」とそんなときは、小さな娘は若いお母さんの頭をよしよししながら言ってくれた。

 そんなとても悲しい気持ちのときでも小さな娘がいてくれるだけで、若いお母さんはすごく元気になることができた。

「どうもありがとう」と赤い目をしながら、若いお母さんは言った。

「はい。どういたしまして」と小さな娘は(お母さんが笑ってくれたから)嬉しそうな顔で笑ってそう言った。


 お昼のお弁当を食べ終わった二人はごちそうさまをして、お片付けをしてから、また長い道の上を手をつないで、ゆっくりと歩く旅を始める。

 小さな娘はどうぶつクッキーの入っている袋を持っている。どうぶつクッキーはまだたくさん残っていて、たまに小さな娘はどうぶつクッキーを袋の中から取り出して(どんなどうぶつが出るのかわくわくしながら)「お母さん。きりんさんです」とか「お母さん。ぞうさんです」とか嬉しそうに言いながらどうぶつクッキーを食べていた。

 しばらく歩くと、ふとずっと変わり映えのしなかった風景に少しの変化があった。

 真っ白な道の先には一匹の小さな白い動物がいた。

 子犬のように見える。

 その白い動物はゆっくりと一匹で二人と同じように真っ白な道の上を歩いていた。

「お母さん。わんちゃんがいます!」と嬉しそうに白い子犬のような動物を見て小さな娘は言った。

「うん。わんちゃんがいるね」と若いお母さんは言った。

「お母さん。わんちゃんがいますよ」ともう一度小さな娘は今度は若いお母さんを見て言った。

 どうやら小さな娘はあの白い子犬のような動物と友達になりたいようだった。

 二人はそのまま白い子犬のような動物がとことこと真っ白な道の上を歩いている後ろ姿を見ながら自分たちもゆっくりと真っ白な道の上を歩いた。(小さな娘はずっと白い子犬のような動物を見ていた)

「お母さん。わたしたちは幸せになれますか?」とふと小さな娘は不安そうな顔をして若いお母さんを見て、そんなことを言った。

 若いお母さんはすこしびっくりした。

 でもすぐにいつもの元気いっぱいな若いお母さんになると、「もちろん。なれるよ。絶対になれる」と若いお母さんは小さな娘の顔をまっすぐに見てそう言うと、自信を持ってにっこりと笑った。

 すると小さな娘は若いお母さんと同じようににっこりと笑って「はい! お母さん」と元気いっぱいな声で言った。

 それから二人はお互いの顔を見て楽しそうに笑った。

 手をつないで歩いてる二人の道の先には、目的地はまだどこにも見えない。(きっととても遠いところにあるのだろう)だけど二人は笑顔だった。とても幸せそうに見えた。

「お母さん。大好き」と小さな娘は若いお母さんに言った。


 泣かないで。お母さん。


 どうぶつクッキー 終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうぶつクッキー 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ