部屋に訪れる(後編)

私はそれから約1週間後、

再びあの部屋に訪れた。

相も変わらず三好豊子は変わらず

容姿と表情で。

しばらく部屋の中に居させてくれと

私は懇願した。

潔く彼女はそれを承諾した。

何よりもその正体を知るのが、

ここに来た成果である。

何も得られずに去るわけにはいかない。

そうして再び、この部屋へと足を運んだ。

私がゆっくりと部屋の奥へ入っていくと、

引っ張られるかのように彼女も足を進める。

私はなるべく、以前のことは考えずに来た。

無造作な咳払いを放ち、

私はそこで正座を始めた。

何が起きるのか、起こるのか。

果たして何も起こらずに私は家に帰るのか。

しばらくすると三好豊子が目の前に現れた。

距離にしては2メートルほど離れた場所で、

何も言わずにこちらを見ている。

どうかされたんですか、と私は尋ねる。

それでも彼女はじっとこちらを見ている。

じっと、じっと目を見開くように。


だんっ、と大きい者が落ちた音がした。

左奥の押入れか?怪しい。

しかしながら私は

どうすることもできずに座ったまま。

助けてくれ、誰か誰か。と声を漏らす。


かたかたかた、と引き戸がゆっくりと開く。

私は金縛りにでもあっているのだろうか、

ゆっくりと引き戸が開いていく。

その暗闇がだんだんと姿を表す。

私は空いた口が塞がらなかった。

白目を剥いた血だらけの女性が

四つん這いになって姿を現した。

口元は真っ赤に染まり、

片方の腕は反対向きになっている。

声もなくただただ一歩ずつこちらに来ている。

それはそれはおぼつかない足取りで、

まるでブリキの人形のような、

時々ふらついてまたふらついて。

なんにせよ私はとても危険な場所にいる。

一歩間違えたら、

いや一歩間違えなくても危険な状態だ。

徐々に一歩、一歩と。

私の近くへと、動けぬまま。

その奇怪な女の右手は私の左肩に触れた。

私はうわあと大きな声を出した。

震えるその冷たい手は妙で恐ろしかった。

目の前にいる三好も妙だ。

表情どころか自身の口から大量の

長い髪の毛を吐いている。

それはそれは長く流れるように。

先ほどの奇怪な手のおかげで私は自由に動くことができたのか、

自然に身体が後ろへ倒れ込んでいた。

頭を抱えながらその場を立ち去ろうとする。

私は立ち上がり、玄関に向かった。

それでも止まらない長い髪の毛、長く長く、

ずっと止まることなく吐き出される。

音が止んだのか、三好は吐き終えたようだ。

苦しかったのかとても咳き込んでいる。

気がついたことが一つ、あの女がいない。

やっと正気に戻ったのか三好はこちらを見る。

今までに見せたことのない表情だった。

やっとの思いで打ち明けるのか、

三好は安堵の表情を見せた。

これが、呪いですと。

本人は白状した。

管理人であるにも関わらずその昔、三好は一人息子と夫とこの部屋に住んでいたらしい。

そこで事件が起きる。夫が浮気をして、

豊子がいない時間にこの部屋で

行為をしたりしていた。

逆鱗に触れた豊子はその場で

二人を包丁で惨殺した。

そこで帰ってきた一人息子も、

目撃者だと思い不慮の事故で刺してしまった。

豊子は懺悔だと勝手に思い、死んだ女の長い髪の毛をハサミ等で切ってそれを思い切り口に入れた。食べたと言ったほうがいいのだろうか。

ただひたすら次は次へと。

息子と夫は出てすぐの庭に埋め、相手の女はそのまま今日に至るまで押し入れに放置をしていた。

大量の防腐剤と消臭剤が

押し入れの中にあった。

その自白をしたかったという。

それから事件は大々的になり、

沢山のマスコミが騒ぎ立てた。

私はこのことを記事に書いて

良かったのかと悩む瞬間がある。

奇妙なこともまだある。

あとは、そう、

あの部屋の隅にあった両目を

くり抜かれた日本人形とか。

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霊障に佇む角部屋 雛形 絢尊 @kensonhina

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