雲量6 深刻なダメージ

「いらっしゃいませ! 2名さまでよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


「こちらへどうぞ!」


 おしゃれな内装だ。木造の壁と相まって観葉植物がとても映えていて、ここのケーキはとても美味しいだろうと思わせてくれる。


「どれにしようか?」


「どれって……カップル限定メニューだろ?」


「そうだけどそうじゃない! 1品で満足できるわけないでしょ!」

 何を常識みたいに言いやがるんだこいつは。ケーキなんて1つ食べたら十分だろう。


「いくらでも頼めよ。俺は限定メニューだけでいいよ」


「え、それは私1人で食べるよ?」

 おいおい、どんだけ強欲なんだよ。しかし、俺はそれを楽しみにしにきたんだ。そこを譲るのは許せない。


「俺も食べたいんだけど」


「なら、半分こしようか」


「やった」


「はゆってそんな子供っぽいところあるんだ。知らなかったよ」


「それ、馬鹿にしてるだろ」


「してないって。ところで、メニューは決まった?」


「ああ、紅茶と限定メニューで頼む」


「じゃあ頼んじゃうね」


 どうやら、ここのケーキ屋はタッチパネルで注文できるらしい。イメージ画像を見てみると限定メニューの他にもたくさんのメニューがある。ん、このチョコケーキめっちゃ美味しそうだな……。


「悪い、このチョコケーキ追加で頼む」


「おっ、いいね。どんどん頼んじゃおう」


「そういえば、何で俺を誘ったんだ?」


「何でって……」


「中村でも誘えば良かったじゃないか」


「はゆ、ひとつ良いことを教えてあげる」


「な、なんだ?」

 今度こそ本当に嫌な予感がするぞ……。


「冗談でも言って良いこととダメなことがあるってこと」


「すんません、ほんとに」

 

「お待たせしました! こちらご注文のお品です!」


 冗談を言っているうちにケーキが来た。思っていたよりも大きく、フルーツがたくさん乗っている。こうして見てみると、さすが限定メニューというだけある。美味しそうだ。


「ちょー美味しそう! いただきまーす!」


「じゃあ、俺はチョコケーキを。いただきます」


「「美味しい!」」


 これは美味しい……チョコレートの香りが尋常じゃないくらいする上に、甘さもちょうどいい。これは本当に当たりを引いた。今だけは誘ってくれた梨花に感謝しなければ。


「はゆ! これ本当に美味しいよ! 食べてみて!」


「いただきます」

 

 っ……!! 美味しい! 甘酸っぱいタルト生地にフルーツがマッチしている。今度優斗にも紹介してやろう。いや、これは俺がもう一度来るための口実に過ぎないかもしれない。


「本当に美味しいな。チョコケーキも美味しいぞ、ほら」


「いいの? いただきまーす!」


「あ」

 

 それが俺のフォークということを指摘しようとしたが、時すでに遅し。もうそれは梨花の口の中に入っていた。


「ん〜! 美味し〜!」


「なぁ、それ俺のフォーク……」

 

「え」


 沈黙が続く。しかしこれ、所謂間接キスってやつなのでは……?


「待って……今のは忘れよう……?」


「そ、そうだな」


「うう……恥ずかしい……」


 しまった。不覚にもこいつの恥じらいのある顔が可愛いと感じてしまった。

――――――――――――――――――――――


「美味しかったな」


「そ、そうだね!」


「……」


 気まずい……。会話が全く続かない。


「じゃあ、ここらへんで解散にしよう! またね!」


 ほぼ逃げられるように帰っていってしまった。来週からどうなることやら。


「あー、くっそ……。頭から離れねぇ……」


 当の俺も深刻なダメージを負ってしまった。

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雨のち晴れ! @urushi0527

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