先輩に酔った勢いで告白されました……え、酔ってなかった!?

音愛トオル

先輩に酔った勢いで告白されました……え、酔ってなかった!?

 私、芽久めぐ、18歳。春から大学1年生。

 やりたいことはあるけれど、肌に合うサークルがなくてどこにも所属していない。だから、こういう「飲み会」は、成人式の時にでもデビューするんだと思っていた。

 なのに、どうしてこうなったのか――


「めぐち。私、めぐちが好きかも」


 私の隣で飲んでいる逢愛あめ先輩が、何のお酒か分からない黄色い液体の入ったコップを頬の横で揺らしながら、そうはにかんできた。


「えへっ、酔った勢いで告白しちった」

「――ええええええ!?」


 私、酔った勢いで先輩に告白されました。



※※※



 初めて逢愛先輩に会ったのは、4月の1回目の講義。

 もっとも授業自体はこれで5つ目で、だいぶ大学の講義形態にも慣れて来たころだ。先生によってプリントをレジュメと読んだり資料と読んだり、パワーポイントだったり紙だったり、「授業」だったり「講義」だったりしたけど。

 そんな私の、ちょっと背伸びしてコンビニで買ったお洒落な抹茶ラテを飲みながら参加した講義の隣の席が、逢愛先輩だったのだ。


「……君、もしかして1年生?」

「は、はぁ」

「急に話しかけてごめんね。なんか、案内抱えて不安そうにしてたから。私、逢愛って言うの。休学とかしてて、2年の今になって1年の授業取ってるんだけど……聞きたいこととかあったら何でも言ってね」

「あ、ありがとうございます」


 逢愛先輩を初めて見た時の印象は、エメラルドだった。

 エメラルド色のインナーカラーが眩しいボブカットが特徴的なヘアスタイルで、ピアスや指輪といった装飾品を着こなしている。白いインナーにグレーの胸元までの丈のクロップドパーカー、デニムのショートパンツ――エメラルドの次に、私の全力のかっこいいが押し寄せて来た。

 先輩や初対面の人、という部分よりもそのかっこよさにどぎまぎして、私は前髪を直しながら俯く。こんなことならもっとおしゃれしてくれば良かったかな。


「あ。急に話しかけてごめんね。嫌だったら私、別の席行こうか?」

「――い、嫌じゃないです!」


 サークルに入らないことに決めていたため、「先輩」なるものとの繋がりを作るのは今しかないと、私は勇気を振り絞り……。


 この日から、私と逢愛あめ先輩との関係が始まった。



 講義が終わり、その日の予定がなくなった私は思い切って先輩をお茶に誘った。


「うん、いいよ。そしたら、私がおすすめのお店知ってるから」


 案内されたのは大学の最寄り駅から2つほど離れた駅で降りた先を少し進んだ、こじんまりとしたカフェだった。客はほとんどおらず、まさに穴場といった雰囲気だ。

 「先輩」と「穴場のカフェ」に行く――なんと素敵な時間だろうか。

 浮足立つ私に席を勧めた逢愛先輩に続き、私も腰を降ろす。


「私ってさ、友達いないんだよね」


 頬杖をついて窓外に視線を投げたままの逢愛先輩がそう独り言ちた。それはあまりに唐突で、私はどう反応すべきかすぐに判断が付かなかった。

 けれど口は反射的に動いていて、


「こんなにかっこいいのにですか?」

「……かっこいい?私が?」

「はい!色々知ってて、お洒落だし、素敵だし!」

「あはは、ありがと。でも、私ってそんなにすごいヤツじゃないよ?1年生の最初の半年、あんまり周りに馴染めなかったし。色々あってそっから半年休学して、それでやっぱり戻ってきて1年の授業取ってる。だからもう同級生とかいないも同然でさ」


 先輩の顔は、話の内容や声のトーンほどに、友達がいないことを残念がっているようには見えなかった。むしろ、なぜか柔らかく微笑んでいて、私はそのちぐはぐさにしばし見惚れる。

 そんなだから2人して、私たちの傍でじっと立っている人影に気が付かなかった。


「おい、客だろアンタ。かっこつけてないで何か頼んだら?あ、君のことじゃないからね」

「おお、奥寺おくでら。いらっしゃいませ」

「それはアタシのセリフだっつーのに。ほいで、アンタはいつものにするとして――君は?」

「あっ、えと、メニュー……あ、抹茶ラテ。私、これで」

「はいよ。まあゆっくりしてって」


 先輩はその店員さん――奥寺さんと言ったか――を優しいまなざしで見送った後、耳にかかったエメラルドの髪を払って、にかっ、と破顔した。嬉しいことでもあったかのように。


「あいつは奥寺。私が休学してる間に知り合ってさ。年齢は同じなんだけど、ここで働いてて。気が合うヤツなんだ」

「……ご友人、ですか?」

「ん?あー、ごめんごめん。さっきのね、そうそう。奥寺とは友達だけど、ほら、大学にはさ。いないってこと。言葉って難しいね」


 エプロン姿の奥寺さんは、まさしくカフェの店員さんという雰囲気だった。先輩に対して棘のある口調のように聞こえたが、その表情から温かさが滲み出ている気がした。

 そんな雰囲気の人。


「それで、抹茶ラテ。好きなの?」

「あっ、もしかして――見られてました?」

「うん、めっちゃ見てた。だってすごい幸せそうに飲むから可愛くて」

「うっ……私、全然可愛くなんか」


 この瞬間、私は逢愛先輩がかっこいいのは外見だけではないと知る。


「そんなことないよ。素敵だよ、君は。他の誰がなんと言おうと私が保証する。だってこんなにも――綺麗な目をしてる」

「め、めですか……!?あ、えと。は、初めて、言われました……」


 かっ、と熱くなる頬を冷ます方法はこの場に存在せず、私はワンピースの裾を引っ張り引っ張りしながら、片手で顔をあおいだ。頬どころか耳、指先まで赤くなっている自信がある。

 正直その後何を話したのかあまり覚えていない。逢愛先輩のその言葉が私にとってあまりに大切過ぎて、他が霞んでしまったのかもしれない。

 内容はおぼろげながら、単なる事実として、その後私たちは連絡先を交換し、駅で別れた後初めてメッセージを送りあった。その時、「あめ」先輩の名前の字が「雨」ではなく、「逢愛」だと知り、どきりとした。

 素敵な名前だ、と思って。


『芽久ってそう書くんだ。素敵な名前だね』

「先輩!?こんなにコミュ力あるのに友達いないは嘘でしょ……!」

『先輩も素敵です』

「――あれ?名前がって言ってない、これって」

『ふふ、ありがとう』

「……ま、まあ大丈夫かな」


 私は高校時代から愛用しているリュックを背負いなおし、跳ねる足取りを自覚しながら、帰路についた。



――そして、試験期間が明けた今。



「えへっ、酔った勢いで告白しちった」

「――ええええええ!?」


 2人だけの飲み会で、私は先輩に告白されてしまったのだった。



※※※



 酔った、のは私もで、いやもちろん未成年の飲酒はしていない。飲み会の空気感に酔ったのでもなくて。

 逢愛先輩の、告白に酔ってしまった――だって。


(私もなんですけど……!?)


 色々お世話を焼いてくれる先輩。ところどころ抜けていて、大学の教室や学食のシステムは私が手ほどきしたくらい。それでいて単位のこととか講義のこととか何でも教えてくれるし、いろんなお店を知っていて大人っぽい。

 そんな不思議な雰囲気が私は大好きだった。

 それから、思ったことをまっすぐに相手に伝えるその性格。芯が強いようで、意外と繊細なところとか。

 たったまだ3か月程度しか関わっていないのに、私は既に先輩のことが大好きだった。逢愛先輩の意向で、敬語や先輩呼びはこのままでいいそうだけど、私たちの関係は「友達」なのだという。


(――って、言ったの先輩でしょ!?酔った勢いとはいえ告白してくるなんてっ)


 何事もなかったかのように会計を済ませ、駅まで送ってくれた先輩の背中に私は心の中でそう叫んだ。酔った勢い、とか言ってるくせに(顔も赤いし多分本当)、支払いとかエスコートはちゃっかりこなしてるのがかっこい――ずるい。

 今日だって、「試験のお疲れ様会しよう」と誘ってくれたのは先輩からだった。


――私も、ちょっとくらい先輩を動揺させたい。


「じゃあね、めぐち。また日曜日」


 日曜日遊ぶ約束をしている。


「はい。逢愛先輩また――」


 私はひらひらと手を振って背を向けた先輩に向かって、いじわるのつもりで言った。本当は今日初めて聞いて心の整理がついてないけど、


「先輩が私のこと大好きなこと、知ってましたよ」

「――えっうそ」


 私は先輩が振り返る前に改札へと駆けだしたのだった。

 逢愛先輩は、どんな顔をしているだろうか?


「……えへへ」


 考えるだけで弾むこの胸の痛みが、この上なく嬉しかった。



※※※



 夏前には連絡先を交換する仲になっていた奥寺さんにヘルプのメッセージを送った私は、奥寺さんの休憩時間にお店に来るように言われた。言われた通りお店に着くと、「や、芽久。先週ぶり」とお店の外で奥寺さんは待っていてくれた。

 エプロンを外した姿は久しぶりに見るが、ラフなシャツにジーンズという恰好で、緩く縛った小ぶりなポニーテールと相まってかなり大人びている。逢愛先輩とはまた異なる意味で、年齢が近いとは到底思えなかった。


「こんにちは。休憩時間にすみません」

「ううん、平気。どうせ1人で食べるだけだし。アタシは芽久とお昼食べられて嬉しいよ」

「うっ、逢愛先輩といい、破壊力が……」

「何か言った?」

「な、なんでもないです!」


 奥寺さんに先導され、私はカフェから1分くらいの距離にあるファミリーレストランへにやってきた。お昼時だが空いていて、すぐに席を案内された。

 私は例のリュックを椅子にあえてゆっくり、ゆっくりと置きながらどう切り出したものかと考えていた。奥寺さんには「相談がある」としか伝えていなかったから。


 逢愛先輩に告白されました、酔った勢いで、と。

 逢愛先輩をよく知る奥寺さんに相談したくて、でも言葉が見つからなくて。そんな私を見ていた奥寺さんは、藪から棒にこう聞いてきた。


「……逢愛のことでしょ?」

「え、どうして分かるんですか!?」

「やっぱり。昨日アンタたち、試験お疲れ様会やってたんでしょ。実はアタシも誘われててね。飲み会するから来ないかって」

「そうだったんですかっ!?」

「うん。用事があって行けなかったんだけど――もしかして、そこで逢愛に何か言われた?」


 奥寺さんと私の頼んだメニューが運ばれてくる。奥寺さんはカルボナーラ。私は熱々のドリア。これならすぐに口に運べなくても気まずくないかな、と思って選んだ。

 私は今でも鮮明に頭に響く「好きかも」という言葉に赤面しないようにテーブルの下でぎゅっ、と拳を握って、何とか耐えながら口を開いた。


「実は――」


 数分後、私は衝撃の事実を知る。


「……なるほどね。2つ、すぐに私から言えることがあるけど、言ってもいい?」

「……はい。お願いします」

「分かった。まず一つね、

「……え?」


 だ、だって、なんか、お洒落なお酒を飲んでいたよ、先輩は。


「それ多分オレンジジュースとかじゃない?頼むところ見てなかった?」

「――なんか初めての飲み会で緊張しちゃって。見てなかったです」

「そっか。アイツ、芽久の前ではかっこつけたがるからなぁ」


 お酒を飲む姿が様になっていて見惚れていたのに、と思った私だったが、よく考えたら学年が1つ違い。詳しくは聞いていないが、浪人や休学ほか、事情が様々考えられるからとっくに成人しているものだと思ったけれど。

 私が18歳だから、19歳の逢愛先輩というのも存在するのだ。


「それで2つ目だけど……大丈夫そう?」

「は、はい。ばっちこいです」

「なんかめっちゃ目が泳いでて心配だけど――まあいいか。じゃあ、言うね」

「お願いします」


 そして告げられたのは、逢愛先輩が未成年だったという以上に衝撃的な内容だった。


「逢愛、多分本気で芽久の事好きなんだと思う。酔った事にすれば、芽久の反応を見てにも出来るし。それがどうあれ、ね」

「あ……」


 私は思い出した。逢愛先輩が強い人のようでいて、その実、とても繊細な人だということを。

 いつもなら思ったことをはっきりと言う先輩でも、その「告白」は、とても勇気のいることだったのだ。では、あの赤かった顔は――


「芽久は、逢愛のことどう思ってるの?」

「私ですか?私は……そうですね」


 どう言おうか迷った私だったが、脳裏に浮かぶあの時の逢愛先輩が、心の底から愛おしかったから、胸を張って告げた。


「私は先輩のこと、超好きです!」

「――!ふふ、そっか。それが聞けてアタシは安心だよ」

「奥寺さん、ありがとうございます。色々教えてくれて。決心、つきました――ううん。多分相談っていうか、私、背中を押してほしかったのかな」


 カルボナーラをすくいながら目を細めた奥寺さんは、空中で止めたフォークをまじまじと見つめて、何かを呟いていた気がしたが、


「逢愛が好きになったのが芽久で、本当に良かったよ」


 逢愛先輩で頭が忙しくてドリアの味すら分からなかった私の耳には、届かなかった。



※※※



 講義棟の間に挟まれてひっそりと佇むこのベンチに座っている人を私は見たことがない。まして、1限という朝も早いこの時間に。

 私は逢愛先輩と一緒に出ている1限の講義が突然休講になったのを良いことに、先輩をここに連れ出していた。木々が影を作ってくれるこの場所が、秘密の東屋みたいで私はお気に入りだった。


「どうしたのめぐち?こんなところに連れてきて」

「まあまあ、座ってください、逢愛先輩」

「え、うん。座るけど……めぐちは座らないの?」

「私は――いいんです」


 小首を傾げた逢愛先輩は、「こんな所があったんだ……」と物珍しそうにきょろきょろしている。初めて会ってからしばらく、大人っぽい先輩のかっこよさにときめいていた。

 しかし、19歳と聞くと、見知らぬ場所を目をキラキラさせて観察している姿にあどけなさを覚えてしまって、私はふいにどきりとした。いけない、やっとかっこいい先輩の隣に居てどきどきし過ぎてしまうのが、ましになってきたのに。


――よりもよって今、またどきどきしてくるなんて。


「それで、ええと……そろそろ話してくれると助かるんだけど」

「ああっ、えっと、そうですよね」


 何度も家で練習してきた通りだ。

 シミュレーション通りに行くことはないだろけれど、どう切り出すかは考えて来た。


「……先輩、私に言ったこと覚えてますか?」

「え、えっと……それって、いつのこと?」

「飲み会の時です」

「――あー、と……」


 そんな寂しそうな顔しないで下さいよ、先輩。


「ごめん、酔っていたからかな。忘れちゃった」


 ちょっと指震えてるじゃないですか。


「そうですか」


 私の淡泊な返事に何を思ったのか、そっと顔を伏せて「うん」と小さく返した先輩。少し心が痛んだけれど、私の心はもう決まっているから。

 さんざん考えた。どう伝えるのが一番いいかって。

 素直に「好きです」と言うべきか、「私もです」と言ってしまうか、「未成年だったんですね」とからかってみるか。

 だがどれもピンと来なかった。

 そこでふと、思い出したのだ。


『アイツ、芽久の前ではかっこつけたがるからなぁ』


 それは奥寺さんの言葉だ。思えば出会った時から私の中の逢愛先輩のイメージはかっこいいばかりで、その中に見つけた可愛らしさや繊細さに惹かれていった、という順番だった。

 それがもし、のだとしたら。

 正直、ちょっと嬉しすぎて家に帰った後枕を抱きしめて足をバタバタさせて、埃パレードを開くのと同時にお母さんにうるさいと怒られたけど。


――だったら私も、逢愛先輩の前大好きな人の前ではかっこつけさせてください。


「――先輩」

「え、ちょ、ちょっとめぐち!?」


 私はベンチに腰掛ける先輩の前に一歩踏み出して、所在なさげに宙を漂っていた手を、両手で優しく包み込んだ。びくん、と跳ねる指先からゆっくり、ゆっくり。

 捕まえた手を私は自分の胸元まで運んで、それから、出来る限りの優雅さを意識して、そっと微笑んだ。


「私、先輩のこと大好きです。もしよかったら、恋人になってください」

「あ……」


 去勢を張ってぷるぷる震える脚が、どうかバレていませんように……。

 私は緊張と恥ずかしさで逸らしたい目をなんとか、逢愛先輩から逸らさずに返事を待っていた。しかし待てども言葉は返って来ず、恐らくまだ1分も経過していないだろうけれど私にはその間が永遠に思えた。

 失敗だったかな、と冷や汗が背中を伝った、まさにその瞬間。


「――芽久!」

「え、あっ、あめせんぱいっ?」


 気が付くと私は、逢愛先輩の腕の中に居た。

 身長差で私のおでこが先輩の肩に当たる。表情が、顔が見たいのに――全身が熱くて、それどころじゃない、かも、だけど。

 決して離すまいと、搔き抱くような気持ちの発露なのに、腕の力はあまりにも優しくて、ああ、先輩だなって思った。


「ごめん、私嘘ついてた。ほんとは全部覚えてて、未成年だからあれお酒でもないし」

「……はい」

「芽久は私のこと、かっこいいって言ってくれて。私はそれが、嬉しくてさ。こんな私でも素敵だって言ってくれる人がいて」

「……そうですね」

「でも、芽久はほんとに可愛いから、きっと恋人もいるだろうし、私なんかの気持ち――届かないって、思ってた」


 ぎゅ、と力が入った腕に、私はそっと指先で触れた。

 すると更に強く抱きしめられて、ああ、好きだなって思った。


「ねえ、本当?ドッキリとかじゃない?」

「私、真面目なので先輩みたいに嘘つきませんし」

「……じゃあ、現実?夢じゃない?」

「それは――確かめて、みますか?」

「――っ」


 肩に腕を回したまま、先輩は私から離れた。目と目が合って、世界から音が消えて。

 私と逢愛先輩だけになって、それで――


 2人の熱が、交差した。


「……どうですか?まだ夢だと思いますか?」

「……ん。夢、かも」

「ふふ。しょうがないですね、先輩は――じゃあ」

「――うん」


 再び交わって、離れて、笑い合って。


「あーあ。せっかくめぐちの前ではかっこいい先輩でいようと思ったのに。もう全然かっこよくないよ」

「そんなことないですよ。私はどんな先輩でも大好きですから……でも、そうですね。私の前では、じゃあ、かっこつけてて下さい」

「――もう。分かったよ。じゃあ、私から言おうか……これからよろしくね、彼女ちゃん」

「はい。お願いしますね……彼女先輩」


 私は思う。

 この人の隣に居ることが出来て、ああ、幸せだな、と。



※※※



 冬。

 お互いお酒が飲めるようになっても先輩は相変わらずオレンジジュースだった。


「めぐち。お待たせ。遅れてごめん」

「先輩。ううん、平気。全然待ってないよ」


 自然に差し出された手を、そっと握る。絡んだ指の温度が心地よくなって、久しい。

 空が剥がれて、白い欠片を落としているかのような粒が大ぶりな雪の日。


「それじゃあ、行こうか」

「うん。楽しみですね」


 私の隣を歩く人はもう、なんかしなくたって最高にかっこいし可愛いし、素敵だ。私は逢愛先輩との時間が永遠に続きますようにと、聖なる夜に願ったのだった。

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