第一幕/第三話-1 ハンティングとオークション
白い扉の先は、目が
ただ白い空間が広がるだけの部屋にマサトは一人で立っている。
「マサト様、いらっしゃいませ。中央の青い
突然聞こえていた女性の声に一瞬、ビクッと肩が上がった。
マサトは言われた通り、中央に浮かび上がった青白く光る円の所まで歩いていく。
「ここでいいのか?」
「はい、問題ありません」
マサトの問いに女性が答える。
青白く光る円の中に立つマサト。いよいよ転送されるのが容易に想像出来る。
「それでは、転送作業に入らせていただきます。
幾つか諸注意がありますので、よくお聞きください」
女性の落ち着いた声にマサトは耳を傾ける。
「まず、スタート地点が必ずしも安全とは限りません。我々で場所の指定も出来ませんのでご注意ください。次に現地に着きましたら、何があっても72時間以内に必ずチュートリアルミッションを完了させて下さい。なにがあってもです。最後に入会金としてマサト様の魂の一部を預からせて頂きます」
一部、強調するように言う女性の言葉にマサトは妙な引っ掛かりを覚えた。
「その魂の一部を預かるとはどういうことだ?」
これから転送される場所が安全か否かはあらかじめ予想が出来ていたし、覚悟もしていた。チュートリアルミッションの時間制限に妙な違和感のようなものを感じるが理解は出来た。
入会金についてもあるだろうということは予想していたが、魂の一部とは想定の範囲外だ。
「ご説明致します。我がブラックマーケットの入会金は会員様の魂の一部となっております。これは会員様と我々にとって、とても重要ことになります」
ブラックマーケットに自分の魂の一部を預けることの意味は、まだ理解出来ない。
気になることは次々に湧いてくる。
最初に感じていた緊張や不安感は次第に薄れていって、冷静さを取り戻しつつある。
「重要ねぇ……で、用途は?」
マサトが聞き返す。
自分の魂を預けるぐらいだ、何かしらの用途があるだろう。
数秒の沈黙の後、女性は答えた。
「……お答え出来かねます。用途に関しましては、あちらに行った際にご自身でお確かめください」
「はいはい、そういう感じね」
魂の一部を預けること自体、普通とは言えない。色々と推察することは可能だ。
俺自身がここに居る事さえ、普通ならありえない事なのだから、自分の魂の一部を対価に何かを得ることなどここでは普通のことなのかもしれない。
「それでは、転送作業に入らせていただきます」
「ああ、準備も覚悟も済んでいる。いつでもいいぜ」
だだっ広い真っ白な部屋の真ん中で青白く光る
恐怖や不安を打ち消すように深く深呼吸する。
高揚しているのか、自然と口角が上がる。
どんな犠牲を払おうとどんな結末になろうとも、俺はアイツらのことを探し出す。
灰色で退屈な日常なんてもういらないんだ。
「ハンティングオークションライフ・オンラインへようこそ。
そこでは手に入らない物は何一つないと言われております。
それでは良き、オークションライフを」
白い光がマサトを包み込み、強い光に顔を一瞬しかめる。
足元から体が消えていくのが見える。
ようやくだ、アイツらの手掛かりがきっとあるはずなんだ。
「……どんな困難があろうとも、俺は諦めたりしない」
マサトは誰にも聞こえないほど小さい声で呟いた。
か細く消えそうなほどの声だが、そこには強い意思が感じられる。
覚悟を決めた強い瞳は、頭上から聞こえる声の女性に向けられていた。
「我々は、貴方様のご帰還を心待ちにしております。最高の“ハンティング”と“オークション”を我々に見せてくださいませ」
淡い光を放つ
ふぅーっと息を吐く黒いスーツの女性。
女性が耳につけていたマイク付きのイヤホンを外し、グゥーっと背伸びをする。
ギシギシと鳴る椅子に少し不満そうな顔をする。
会議室程の広さの部屋には数台のパソコンと色鮮やかに映るスクリーン。
彼女の役割は会員を転送させることと、あちらに行った会員たちの監視だ。
基本的に関与はしないが、オーナー直々に招待状を送った会員は最重要人物として、手厚くサポートしなければならない。
「これで3人目ですか、オーナー直々の招待者の方は。
あの人が何を考えているのかは、分かりませんが、私は私の仕事をするだけですね」
スーツの襟を正し、椅子に座り直しイヤホンを耳にセットする。
「×××様、いらっしゃいませ。中央の青い
先程送った会員が一体どんな結末を迎えるのか、それは誰にも分からない。
いい結末になればいいな、と思いながら彼女はまた1人あちらの世界に会員を送る。
「楽しませてくださいね」
マイクに声が入らないようにミュートにし、ポツリと呟き、ミュートを解除し、彼女は再び自分の仕事に戻る。
ハンティングオークションライフ・オンライン 天ノ川 アリス @miranda725
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