第一幕/第二話-4 オークションとアカウント登録

「転送先での死は現実の死でもあるわけか」


「ええ、その通りでございます。蘇生アイテム等もございますが、それなりに高額商品となっております。

あちらで分からないことがあれば転送後に【お問い合わせ】と【ヘルプ】のタブが追加されますのでお気軽にお問い合わせください」


ニッコリと笑い愛想良く話す黒いスーツの女性に最初は好印象を抱いていたマサトだったが、次第に目元隠すアイマスクも不気味に思えてきた。


「まるでデスゲームみたいだな」


よくある漫画やアニメにような非現実的な出来事。

まさか自分が当事者になるなんて思いもしないだろう。

だけど、トウマとチヅルに会うためななら俺はなんだって出来る。


それがどんなに過酷で困難であろうとも、アイツらのいない日常なんて退屈で色褪せた灰色の世界だ。


俺は自分の意思でここに来たし、何も出来ないままただ死ぬなんてことはしたくない。


「デスゲーム……そうですね。私と致しましてもマサト様には頑張ってもらわないと困りますし。担当者としての評価にも繋がりますし、オーナーにも怒られてしまいますから」


アイマスクで視線は分からないが、雰囲気で何となく目が泳いで小刻みに体が震えているように見える。


「オーナー?さっき会ったマッチョなやつか」


先程話した蝶の仮面の男を思い出しあの重厚な扉を開いた瞬間を思い出していた。


何を犠牲にしても成し遂げる。死が身近にある場所行こうとやることは変わらない。退屈で色褪せた灰色の現実を彩りある、退屈だけど平和で平凡で馬鹿騒ぎできていたあの頃を取り戻せるなら俺は何だってする。

その為なら、デスゲームだろうが何だろうが乗り越えてやる。


「まぁ、こんなもんだろう」


スマホの画面と睨めっこを続け、ある程度のキャラメイク出来た。

弓使いの遠距離スタイルも考えたが使い慣れない武器よりは初心者でも扱いやすい鉄の片手剣にナイフ、鉄製の盾にいくつかのスキルを買うことが出来た。


2000ポイントは意外に少なく思えた。

何よりスキルが高い。

安いやつはまともに使えるとは思えるものがない。

ピックアップスキルで異世界言語と無限アイテムボックスと剣術(極)と暗殺術(極)があり、どれも1000ポイントで現状はどれか一つしか選ぶことが出来なった。


悩みはしたが、無限アイテムボックスを買うことにした。

異世界言語は言葉が向こうで通じない可能性もあるが、どうにかなるだろう。

剣術と暗殺術に関しても習得方法が分からないわけではない。


この中なら無限アイテムボックスになるのは必然と言えるだろう。

理想としては創造系のスキルだが、ゲームでもお馴染みのスキルだしあって困ることはない。

むしろ現状では理想的なスキルと言えるだろう。

レベルアップシステムがあるか分からないが、体は鍛えればいいし、武術系スキルも習うことは出来る。言語に関しても同様に時間はかかるかもしれないが習得することは可能だ。


「装備等は決まりました?拝見致しますね。

ふむふむ、なかなか良いスキルを買うことが出来たようですね。

これは期待できますよ」


黒いスーツの女性が手元のタブレットをスクロールして頷きながらマサトの方をチラリと見て、満足そうにうんうん、と首を上下に振る。

耳元に手を当て、黒いイヤホンのようなようなものをトントンと2回軽くタップする。


「こちら黒峰くろみねです。はいはい、そうですね、はい、ええ、こちらの準備は済んでおります。はい、承知いたしました」


ふぅーと息を吐き、黒峰と名乗った黒いスーツの女性が先程とは打って変わり、妙な緊張感が周囲を包み込む。

表情無くなり目元のアイマスクが不気味に思えてくる。


「では、マサト様。ご準備はお済みでしょうか?なにかご質問等はありませんか?」


「ああ、問題ない」


「承知致しました。ではこの先の扉へとお進み下さい。なにかご不明な点がございましたらお問い合わせより、私、黒峰までお問い合わせ下さい」


「分かった」


真っ暗な部屋の遠くの方に白く淡く光る白い扉が見える。

マサトはゆっくりと椅子から立ち上がり、期待と不安と緊張した面持ちで一歩一歩、扉へと向かって歩いていく。


いよいよ、トウマとチヅルを探す手がかりが見つかるのだ。

どんな世界だろうと生き延びて、二人を見つけてみせる。


ビビるな、手も足も震えるな

自分の心臓の鼓動さえ煩わしい

ドクンドクンと脈打つ心臓

全身から汗が吹き出すような不快感

握った拳に力が入る

深く深呼吸して気合いを入れる


目の前に現れた白い扉をゆっくりと押し中へと歩を進める。


「ようこそ、終わらない絶望と裏切りの世界

“ハンティングオークションライフ・オンライン”へ。

我々はいつまでも貴方様のお帰りを心待ちにしております」


白い扉の向こうへと消えていくマサトに黒峰は深く一礼してそう告げた。

一度でも足を踏み入れたらその先に何が待っているのか。

それは誰にも分からず、それを知る者などこの世に存在するのだろうか。

絶望と裏切り、快楽と愉悦、真実と嘘……




この世のありとあらゆるものが手に入る禁断のオークションの幕が上がります。

さあさあ、どなた様もお席に座りごゆるりとご歓談くださいませ。

“ハンティング”と“オークション”の始まりです。

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