第一幕/第二話-3 オークションとアカウント登録
「なんとなくお分かり頂けましたか?
武器や防具を揃えてモンスター狩りをする、ただそれだけですが注意事項がいくつかございます。
我々ブラックマーケットはオークション会場です。
なので常に欲しい商品が残っているとは限りません」
「それはそうだな」
女性の説明にマサトが頷く。
「今ある武器などは初回サービスの品であり、転送先ではカタログの内容は全てオークションの品に書き換わります。
つまり、より性能がいい品は全てオークションで落札する必要があります。
もちろん現地で買うことも出来ますし、現地の品のほうが性能のいいアイテムということもあります」
黒いスーツ女性がタブレットを操作しながら武器や防具などの品をスクリーンに映し出す。
スクロールされる品々をマサトは真剣な表情で追う。
「最低限は現地でも揃えられるわけね。性能はさておき、モンスターを倒せるかは別問題か。オークションの品の方がいいのは理解した」
へぇー面白そーじゃん、と小さく
「はい、その通りです。楽々チート無双なんてのはありません。
欲しければ落札しなさい、会員の方々があちらで生きていく為に我々はより良い品をオークションに出品し続けます。
ああ、こちらに戻るためのアイテムもございますのでご安心下さい」
クスリと女性は笑う。
安心できねぇよ、むしろ帰還アイテムがある時点で向こうの世界がヤバいってことだろ?人よりモンスターが多いってことはないだろうが……
マサトがブツブツと呟きながら思考の海に沈む。
「なあ、その異世界ってとはどんな所なんだ?」
「詳しくはお答え出来ませんが、生活水準は中世ってところですかね」
「ほう、トウマとチヅルは向こうにいるのか?俺の親友なんだが」
「個人情報なのでお答えできかねますが、会員の方々は同じ世界に転送されますのでもしかしたら会えるかもしれませんね」
クスクスと笑いながら答える女性に多少の不安を抱きながらマサトは質問し、女性がニッコリと微笑む。
「はいはい、そういうやつね。
トウマは会員になっているはずだし同じ世界なら会えんだろ」
トウマはチヅルを探してブラックマーケットの会員になった筈だ。
それは確かな事だし、あらゆるものが手に入るオークションだ。
個人情報だってあるはずなんだ。
ポイントもどれくらいかかるか分からないしあるとも限らないが。
「マサト様、お時間はありますし初回サービスのポイントをお使いになられてはいかがですか?
流石に丸腰で異世界に放り出すほど我々も鬼ではありませんよ。初回サービスの中には無料のものもありますし」
一通り説明し終えたかのように女性はグッーと背中を伸ばす。
肩も凝っているようで肩を揉む仕草をする。
「ああ、そうさせてもらう。
無料のものか、期待は出来ないだろうが見てみるか」
まずは武器からだろう。装備を整えないことには何も始まらないだろう。
スマホの画面に並ぶ武器を見ていく。
案の定、木の棒や耐久値の減った木の棍棒やらろくなものがない。
このままだと防具も期待は出来ないだろう。
「ろくなもんがねえな、まぁ無料だからしかねぇのかもしれねぇけどよ」
そこらのゲームだってもっとマシだろうと愚痴をこぼす。
「まぁ無料ですからね、それが現実ですよ」
黒いスーツの女性も少し飽きてきたのか手元のタブレットをいじながら生返事で答える。
「ポイントの方も見てみるか」
無料よりは期待できるだろうとマサトはポイントの武器の欄を見てみることにした。
時間があるといえ、長くここに居ることも出来ないだろう。
最低ポイントが100なだけあって無料のよりは多少マシに思える。
まぁ、そのレベルだ。
「ん?この武器の名前の隣の⭐︎はなんだ?レアリティみたいなもんか?」
無料とポイントの木の棒には⭐︎のマークはないが、次の鉄の剣には⭐︎が一つ付いている。
「はい、その通りです。⭐︎が多ければ多いほどレアリティが上がり性能がよくなります。分かりやすいでしょう?」
ゲームみたいに分かりやすい直感的に理解できるにはありがたい。
2000ポイントが多いのか少ないにかは分からないが、初期装備ならそんなものなんだろう。
何はともあれ、自分の戦闘スタイルを決めないことには始まらない。
ゲームなら刀や刀剣類を使う万能タイプを選ぶところだが、実際闘うとなると話が変わってくる。
「ああ、そういえば転送先の世界での生死とかどうなっているんだ?」
一番肝心なことを聞いていないことを思い出して女性に問う。
「まだその説明が済んでおりませんでしたね、申し訳ありません。
これから行かれる世界での死は、現実の死でもあります。
我がブラックマーケットにご入会いただいた時点で世間からは切り離されております。マサト様という人間は最初からいない、という状態です。
まぁ、稀に不具合も起きますがたいした問題ではございません」
女性が淡々と話す言葉にマサトはここに辿り着くまでに感じていたい違和感の正体が分かった。
人々の記憶から消えていくあの言いようのない不安感の正体はこれだったのだ。
ゲームとは違う、死という言葉が一気に現実感を帯び喉元と心臓に刃を向けられた気さえした。
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