ゆらぎ

漣は深海へ帰る

　霊能力が伝染る、と聞いた事があるが、精神疾患を患う者の相手していると引きずられると言うのに似ていると思う。

　母は人生の半分以上の期間精神科に通い、脳腫瘍の治療で脳を焼き、低ナトリウム血症や肺気腫の影響の低酸素で意識レベルが下がる事もある人間だ。

　母が横を向いたまま、目薬を指そうとしているのを見るとのゾッとするし、昼も夜も揺れながら歩いてくるのを見るだけで怖い。

　口を開けば死人がどこに行ったか聞かれ、私の成果は死人の成果に変わる。

　介護施設を異常に嫌がり、病院には受け入れてもらえない。

　母が死ぬのが先か、私が死ぬのが先か。

　正直、私はもう諦めの境地でいる。

　その瞬間まで、この両極を行ったり来たりするしかないのだ。

　この、存在そのものが恐怖の対象でホラーな母と共に。