あわせかがみににている

 母の中で、相変わらず私が何人もいるのだが、私本人は認識されなくなってきた。


 母が、夜中部屋に来たかと聞いてくるが私は行っていない。

 昨夜はどこに出かけてきたのか聞かれたが、私は出掛けていない。


 私のワンピースと同じものを着た人が部屋にきたよと母は言うが、それは私だ。同じワンピースを着た他の誰かではない。

 母のお母さんが食事を作ってくれていると言うが、それは私だ。

 掃除しに来てくれるひとに御茶をと言うが、私は私に御茶を出さねばならないのだろうか。

 その他もろもろ、それらは私の手柄であって、母のいうみんなや、死人の手柄ではない。


 一番の問題は、この一切を母は忘れてしまう事だ。

 ほら、違うんだよと訂正する事が出来ない。

 そして何度でも、初めてのように言ってくる。

 さっきは仏壇に向かってブツブツ何か言っていたし、今は脱衣所で、わけの分からない動きを繰り返している。


「よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ」


 何がよいしょなのか、今、発生しているらしい、母にとっての困り事の手助けをしたり、助言したりしたとしても、また同じ事をするのだ。

 早ければ言ってるそばから。


 私の存在は、これからどうなってしまうのだろう。

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