第4話 新世界へ

 ジェネラルを倒した私たちは住民の避難場所へと向かった。私が戻ったのに気付いたシャルルが私の方に振り向いて、驚いた表情をする。


「お嬢様……。顔が」

「あれは、クロード子爵令嬢じゃないか?」

「もしかして、彼女が断罪者ジャッジメントなのか?」

「隣はルイス王子? それじゃあ、彼が門番ゲートキーパーだったのか?」


 ギリギリの戦いで気付いていなかったけど、私のドレスも仮面もボロボロになっていて素性を隠せなくなっていた。人の口に戸は立てられない。知られてしまった以上、王国に知られるのは時間の問題だった。


「みなさん。僕たちは王都の人たちのために戦っています。ですが、より多くの人たちを助けるために、素性を隠していました。お願いですから、このことは公にしないでください」


 ルイスは避難していた人たちにお願いしていた。しかし、知られてしまった以上、お願いしたところで無駄であることは、私自身が一番よく知っていた。


 彼の演説に住民が気を取られている隙に、私は静かに避難所から立ち去った。



 ――翌日、私は子爵邸の前にいた。


「本当に行かれるのですか? お嬢様」

「もちろんよ。私が断罪者ジャッジメントだと知られた以上、王国にはいられないわ。転生者だと気付かれるのも時間の問題よ」


 シャルルに尋ねられたけど、私の心は変わらない。彼女は私の決意を聞いて、静かにうなずいた。


「分かりました。では参りましょうか。すでに旦那様には許可をいただいております」

「えっ、付いてきてくれるの? シャルル」

「もちろんです。専属侍女ですから」


 私が驚いて尋ねると、しっかりとした面持ちでうなずく。


「ありがとう、シャルル」

「では、行きま――」

「待ちたまえ!」


 私たちが王国を出るために出発しようとしたところで気障ったらしい声が聞こえてきた。私は振り向くことなく、その声に答える。なぜなら、その声の主が誰かわかっているからだ。


「何しにきたの?」

「王国を出るんだろう? 僕も連れて行ってくれないかな」

「仕事はどうするのよ!」


 あまりにも無責任な物言いに、私は思わず振り向いて怒鳴ってしまった。しかし、彼は困ったような笑みを浮かべて肩をすくめる。


「ははは、僕はお役御免だそうだ。門番ゲートキーパーは正体不明。正体を知られた僕じゃ意味がないってさ」


 呆れたような口調で言う彼の意見に私も同意する。転生者を悪として排除する風潮だけじゃなく、実体のない最強をうたう王国のあり方には疑問しかない。結果として私とルイスという現時点での王国最強戦力を手放すことになったのだから。


「わかったわ。でも、王国の外は全て帝国領。周り全て敵みたいなものよ。大丈夫なの?」

「ははは、まあ何とかなるだろうよ。いっそのこと国を作って帝国と戦争でもするか?」

「まさか! そんなこと冗談でも言わないでよね!」


 私は平穏に暮らしたいだけだ。もっとも、帝国領に入ったら、平穏なんて夢のまた夢だろう。だからと言って、自ら戦場に飛び込むようなことをするつもりはない。


「それじゃあ、行こうか。外に魔道自動車を用意しておいた」

「えっ? ルイス。そんな高級品持ってたの?」

「いや、餞別ってことで借りてきた。親父から」


 いくら父親が国王で、彼が王国最強だからと言って、ホイホイあげられるものでもないはずだ。


「何て説明したのよ。よく許可が下りたわね」

「いや、何も説明していないよ。ちょうど置いてあったから借りてきただけだ」


 いやいや、それ借りてきたって言わないよね?


「それ盗んできたってことじゃない。返してきなさいよ!」

「いやいや、借りただけ。帰ってきたら返すから問題ないよ。ルシアもどうせ足が必要だろ?」

「そうだけど……。わかったわ。借りたってことにしとく」


 私たちも足となる乗り物が必要なのは一緒だ。背に腹は代えられないとため息をついて、ルイスの言い分に従うことにした。


「おっけー。それじゃ乗った乗った!」


 シャルルには後部座席に乗ってもらい、私が助手席に乗り込む。魔道自動車はゆっくりと加速して、王国の外へと向かって走り出した。


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反逆の刃 ~異世界に転生した暗殺者は、AIの支配する帝国に革命を起こす!~ ケロ王 @naonaox1126

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