第3話 死闘、ジェネラル

門番ゲートキーパーだ!」

断罪者ジャッジメントもいるぞ!」


 私たちの登場に、住民が一斉に沸き立つ。滅多に見ることのできない正体不明の二人の英雄。それが息もピッタリにAIロボット・ソルジャーを蹂躙していく。


「なかなかやるじゃない」

「褒められるなんて光栄だ」

「褒めてない、けどっ!」


 暢気な会話を交わしながら、それぞれソルジャーのコアを引っこ抜いていく。私が基本的にナイフを使って戦うのに対して、ルイスは素手だ。かと言って、素で一辺倒ではなく、ソルジャーの持つビームサーベルや単分子剣を奪い取って使うこともあった。


「数が多いなぁ。おっと、ちょっと借りるよ」


 そう言って、ルイスは一体のソルジャーを掴むと集団の方に向けて背中を叩いた。ソルジャーの主砲から強引に発射された弾丸が集団を駆逐していく。


「やっぱ、こっちの方が早いわ」

「……」


 私は、彼の荒唐無稽な戦いっぷりに言葉を失っていた。いくら蹂躙できると言っても、一体一体処理する必要のある私と違って、彼は数十体を一瞬で処理していたのだから。


「どうだ、凄いだろう」

「無茶苦茶だわ。ホントに……」


 ため息をつきながら、私は彼の言葉に反応する。もちろん、ソルジャーたちを倒す手を止めることは無い。まるで単純作業のように向かってくる彼らの背後に回ってコアをむしり取っていく。


「残りわずかだ。このまま押し切るぜ」

「分かってるわよ。でも油断しちゃダメ」

「ここまで来れば余裕……ぐあぁっ!」


 余裕と言いつつ、油断してルイスが吹き飛ばされる。ソルジャーに混じって明らかに格の違う相手がいるようだ。


「まったく、油断して足をすくわれるなんて、前の時と一緒じゃない!」

「やっちまったぜ。あとは任せたわ」


 何を寝惚けているんだ、この脳筋。


「ふざけていないで、さっさと復帰しなさい。敵は待ってはくれないのよ?」

「分かってるって。でも、その勝気な態度……。魅力的過ぎるじゃないか!」

「なっっ、こんな時に馬鹿なこと言わないで!」


 ルイスの不意打ちを食らって、思わず顔が熱くなる。こういう軽薄な所が、余計に私を苛立たせるのに気付いていないのだろうか?


 私が射線の元を探ると、そこには一回り大きなAIロボットがソルジャーたちを従えていた。


「ジェネラル! まさか、こんな所に投入してくるなんて……」

「これは厄介なヤツが来たものだな」

「ふざけてないで治療に専念して! 時間は稼ぐわ!」

「了解、急ぐよ」


 私一人では、ジェネラル相手には分が悪い。階級的にも五段階くらい上のロボットだ。私が一歩前に出ると、ジェネラルはロボットとは思えない動きで私に肉薄する。


「なっ、くっ!」


 辛うじて攻撃を受け流したが、パワーも兼ね備えていて受け流すだけで精いっぱいだ。受け流しつつ、攻撃の威力を使って後退する。間髪を入れずにジェネラルの副砲が顔を出して、銃弾を雨のように降らせた。


「牽制のつもりかしら」


 私の動きを止めるための攻撃。それは体勢を立て直すチャンスでもあった。銃弾自体の速度が驚異的だったとしても、照準速度はそうはいかない。先ほど不意を突かれて不利になった状況を難なく立て直した。


「やれやれ、今度はさっきみたいにはいかないわよ」

「……脅威レベル、上方修正」


 どうやら、先ほどまでの一連の攻撃を凌いだことで、AIが私を脅威であると認識したようだ。移動してジェネラルの背後に回り――と見せかけて上方からの奇襲攻撃をかける。


「さすがに無理か……」


 動きに惑わされることなく銃口が向けられたので、とっさに魔力で作った足場を作って反転。素早く着地して照準から逃げるように左回りに展開。スライディングで接近し、銃口を下から蹴り上げた。


 跳ねあがった銃口を下げようとするアームを蹴りバク転。斜め上方向に作った魔力の足場を蹴って、ジェネラルの背後に着地。そのままコアのある高さでナイフを振り抜いた。


「……硬い!」


 ナイフには当然魔力を込めていた。それでもコアの周りを覆う防護機構を貫くには至らない。攻撃によって生まれた隙に、ジェネラルの持った剣が振り下ろされる。


「チッ」


 舌打ちをしながら、ジェネラルを蹴りつけた反動で後退する。そこでお互い隙を伺うようにして睨み合った。


「ルイス、まだなの?!」

「おっけー。準備できてるよ!」

「できてるなら早く言え!」


 緊張感の無いルイスの言葉に、苛立ちながら悪態をつく。ルイスはそれを気にすることなく背後に回りコアを狙って突きを放った。


「コア、ゲットだぜ」


 ルイスは間違いなくコアを引き抜いた。それは彼の右手を見ても明らかだ。それでもジェネラルは動きを止めず、ルイスに向かって剣を振るった。


「あぶねっ!」


 半ば不意打ちの反撃だったにも関わらず、ルイスは言葉とは裏腹に危うげなく攻撃を距離を取って回避した。


「コードネーム・ジャッジメント。コードネーム・ゲートキーパー。脅威度、上方修正上限まで。緊急事態。コア集約要請」


 ジェネラルの言葉によって、未回収となっているソルジャーのコアが次々とジェネラルの身体に吸い込まれていく。コアのエネルギーによるプロテクトのためか、ジェネラルの身体が銀色の輝きを放っていた。


「コア集約完了。脅威の排除を再開」


 多数のコアを取り込んだジェネラルの動きは、先ほどよりも洗練していた。それでも私のスピードには及ばない。先ほどと同じように素早く回り込んでコアを狙う。だが、私のナイフではジェネラルの身体の表面に僅かに傷をつけるだけで精一杯だった。


「埒が明かないわね」

「動きに付いていけるだけでもマシさ」

「攻撃が通らなきゃ意味無いわ」


 ジェネラルの攻撃をいなしながら、私たちの置かれた理不尽な状況に文句を言う。ルイスは少し考えるように頭を人差し指で押さえると、私に一つの提案をしてきた。


「君は、弱点の場所が分かるよね? コアを吸収する前後で、狙っている場所が少しだけ違っている」

「そうよ。それでも攻撃が通らなきゃ意味ないって言ってるでしょ」

「いや、君は傷をつけてくれるだけでいい。それから……、一瞬だけ動きを止めてくれれば、僕が仕留める」


 ルイスの提案に、私はため息をついた。それは不可能だからではない。単純に気乗りがしないだけだ。だけど他の方法が無いのも事実。私はルイスの目を見て大きくうなずいた。


「一瞬だけよ」


 私はジェネラルの弱点を何度も斬りつけて印をつける。苛立ったジェネラルが私に狙いを定めて剣を振り下ろす。剣を回避すると同時に懐に潜り込んで逆立ちになってジェネラルの顎を蹴り上げた。


「おっけー、ハァァァ!」


 のけぞったジェネラルの隙を突いて、ルイスが弱点に気合を込めた一撃を入れる。その一撃はジェネラルの持つ全てのコアを粉砕した。コアを失ったジェネラルは鉄の塊となって動きを止める。


「終わったわね」

「そうだな」


 私たちは、お互いを戦友として称えあった。

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