⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

翡翠

⠀ ⠀ ⠀

♢♢♢


いつも通り仕事を終えて帰宅する道、近所の子供たちが遊ぶ姿がちらほら見えた。


私が家の近くの角を曲がった時、ここら辺で見た事がない男の子が立っていた。


歳は七、八歳くらいだろう。


草臥くたびれた白色のTシャツ、汚れた赤い靴を履いていた。


その男の子の視線が妙にじっとりとしていて、顔は夏場なのにとても青白かった。


仕事終わりで疲れていたので、話しかける事もせず、早足でその日は自宅のアパートに帰った。


その日は気にも留めなかった。


しかし、次の日も、その次の日も、男の子は立っていた。


時には家の角、時には通りの向こう。


場所は違えど、いつも私が帰宅する時間に合わせているかのようだった。


そしてじっとこちらを見つめている。


食いつく様な気味悪い目つきが、頭から離れなくなった。


それにしても、ただの子供だし偶然だと思おうとした。




♢♢♢




その日も、いつものように仕事を終えて駅から歩いて自宅に向かっていた。


途中で小雨が降り始めたため、傘をさして帰路を急いだ。


小走りでアパート前に着いた時、






そう、立っていた。


じっとこちらを見つめていた。


「ここで何してるの?」と流石に声をかけようと思ったが、言葉が喉に引っかかって唸り声しか出なかった。


男の子は無言でこちらを見つめるばかりだった。


背筋をじわじわと下から上へと冷たくしていった。


頭が恐怖で回らなかった私は、無視して家に入り、玄関の鍵を慌てて閉めた。


窓から外を覗くと、少年はまだ立っている。


私の家を見つめながら、動く気配がなかった。


「何かの悪戯だろう」と自分に言い聞かせながら、リビングに向かった。


なぜあの子は私をつけ回すのだろう? 


ただの偶然では済まされないほど、あの少年は私の行動を知っているようだ。


あの角からなぜ家までついてきたのか


その夜、ベッドに入っても、どうしてもあの少年の顔が頭から離れなかった。


無表情で、青白い肌。


あれがただの子供だとは思えなかった。


異様だ。


私は、眠りに落ちることができず、ただ部屋の暗闇の中で恐怖で身を縮めていた。


次の日、仕事から帰ると、家の前にはまたあの男の子がいた。


今度は、何かを持っていた。


手には小さなくまのぬいぐるみが握られていた。


雨に濡れたのか、汚れているソレを男の子は強く抱きしめながら、またしても私を見つめていた。


私は何も言わず家に逃げ込んだ。


恐怖は理屈を超えていた。


アレは普通ではない。




深夜二時頃






─────ピンポーン♪


─────ピンポーン♪


─────ピンポーン♪






私は鼓動が早まり、身が凍りついた。


こんな時間に誰が来るはずもない。




─────ピピピピピピピピンポーン♪


─────ピンポーンピンポーン♪




モニターを確認した。




――あの子が立っていた。




満面の笑みで、クマのぬいぐるみを首が千切れそうな程強く持ちながら立っていた。



ドアを開けるべきか迷った。




─────ピピピピピピピピンポーン♪


─────ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン♪




そして、モニターの応答ボタンを押した時、男の子がこちらに向かって言った。








♢♢♢


「どう?この話怖くね?」


『作り話にしては妙にリアリティーない?マジ鳥肌ものなんだが』


「私天才かも!」


『うわ〜、コワコワ!ここで立ち話も暗くなってきたし、私もう帰るわ』


「⬜︎⬜︎がそういうなら、私も帰ろ〜」


『じゃーねー!また明日学校で!』


「うん!また!」






トントン♪



「ミカ?何もう〜帰ったんじゃないの?」







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