第5話 朝食

 高範は目を覚ますと、美和はすでに身支度をしていた。


「お父さん、おはよう」と美和。


「おはよう」と高範。「美和、よかったのか?」


「とってもよかったわ」と美和。


「そうじゃなくて……」と高範。


「わたし幸せな気分なの」と美和。


「お母さんが帰ってきたらどうするつもりなんだ?」と高範。


「お母さんには知られないようにするわ」と美和。「だから心配しないで。」


「佳代だって気がつくよ」と高範。


「大丈夫よ」と美和。「佳代は朝が遅いから。それよりも、朝ごはんを用意するから起きてきて。」




 高範が顔を洗ってダイニングルームに入ると、美和が朝食の準備をしていた。


「わたし、心に誓ったことがあるの」と美和。


「何を?」と高範。もう何を聞いても驚かない。


「お父さんと結婚するの」と美和。


「お父さんはお母さんと結婚しているよ」と高範。


「私が結婚できる年になったら、お父さんはお母さんと離婚して、私と結婚するのよ」と美和。


「お父さんはそんなことしないよ」と高範。


「するわ。」と美和。「わたしがさせてあげる。お父さんは何も心配しなくていいわ。」


「お母さんはどうなるんだ。かわいそうだろ」と高範。


「お母さんは離婚したがってるわ。他に相手ができれば、遅かれ早かれ出ていくわよ」と美和。「でもわたしはお父さんと離れたくないから、今は離婚させない。」


「そんな無茶な」と高範は唖然とした表情をした。


「もう私はお父さんの女で、お父さんは私のものよ」と美和。


 佳代がリビングに入ってきた。「おはよう、お父さん、美和姉さん。」




 三人が朝食を食べ終わると美和が食器を片付けた。


 高範はぼんやりとコーヒーを啜っていると、「わたし、制服に着替えてくるから」と言って美和がダイニングルームを出て行った。


 佳代が高範の前まで来て、「抱っこして」と言って両手を上にあげた。


「いいよ」と言って佳代を抱き上げた。佳代は高範の首を両手で強く抱きかかえた。


 佳代は高範の耳元で「お父さんは、お母さんでも美和姉さんでも、好きなほうを選んだらいいのよ。わたしはお父さんについていくから。それから、これだけは覚えておいて。本当にお父さんのことを愛しているのは私だけだよ」とささやいた。

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妻の座 G3M @G3M

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