刀の青誠≪かたなのせいせい≫

あさひ

第1話 無名刀≪ななし≫

 スズメがどんぐり漁りをしにきたのか

耳に聞こえる場所でチュンチュンと鳴いていた。

「うっうぅ……」

 ミシミシと起き上がると鳴り響く

古い寺院のようである。

 頭に痛みが少し奔る

しかし体は動くので致命傷でない。

 手に力を入れようと藻掻く

すると滑らかな表面をなぞる

棒状の何かがぶつかったのだ。

 そこにはキレイな刀が置いてあり

読みづらいが文字が少しだけ彫られている。

「そうじ? おきた?」

 初めて見るのだが

はっきりと書いてあることがわかった。

「なんで読めたんだろう?」

 スズメのごはんが終わったのか

いつのまにか鳴き声の代わりに

喧騒に包まれている。

 どうやら喧嘩をしているらしい

そして追い詰められた側は

強がっているものの

劣勢にあることがわかった。

【おまえら! 局長にバレたらどうなるか!】

【知らないですねぇ】

 下卑た笑顔が想像できるぐらい

いやらしい声で男が追い詰めている。

 そっと古い寺院から顔を出して様子を窺うと

血まみれで睨む背高い男性と

先ほどのいやらしい男性の集団が対峙していた。

「大変だなぁ」

「ん?」

 背高い男性に気づかれる

目が合ったのは刹那のことである。

「危ないからどっかいけ!」

 小声で叫ばれるが

ふと手に持っていた刀を見せてみた。

「ん? お前も腕が立つのか?」

 首を傾げて

わからないと示す。

「お腹空いた……」

「腹が減ったのか? 仕方ねぇな」

「何かくれるの?」

「加勢して助かったら奢ってやるよ」

 どうせ無理だろうなと

諦め半分に言われたがごはんがもらえるらしい。

「まあ無理すんな……」

 その言葉を待たずに一気に飛び出て

鞘から抜かぬまま

前方で構えていた剣士の足に

横薙ぎを一線放つ。

「痛っ!」

 苦悶の表情で

足を抑える剣士を次々に量産した。

「なっなんだ? 子供?」

 驚きを隠せない集団は

地を這いつくばる。

「嘘だろ…… 剣筋が見えなかった?」

 全員を倒した後に

背高い男性に手を伸ばした。

「ごはん……」

「おっおう! 京まで戻ろうか!」

 背高い男性と京と呼ばれる場所まで

下山する。


 昼間の太陽は

カンカン照りの割に

そこまで嫌ではない。

「ここが食事何処ってとこだ」

「なにがあるの?」

 見たことのない場所だ

しかし鼻をくすぐる良い匂いがした。

「蕎麦って知ってるか?」

「そば?」

「蕎麦湯ってのを最初に飲んでから食うんだ」

「そばゆ?」

 それを聞いていた無口そうな男性が

奥から歩いてくる。

「子供になんて雑なことを教えてるんですか?」

「おっ! 斎藤か?」

「土方さんは本当に言葉が悪いですね」

「褒めんなってのっ!」

 頭を押さえて

やれやれと呆れる男性は

こちらにやってきた。

「蕎麦は掛けそばとつけ蕎麦があります」

「ほぉ……」

「あなたには掛けそばが良いでしょうね」

「なんで?」

「体が冷えてるでしょう?」

 確かに体中が冷えて

硬直しかけている。

「え? うわっ! 冷めてっ!」

 体に触れると

氷がついたかのような表情をされた。

「その状態であれを?」

「あれ? とはなんでしょうか?」

 土方を呼ばれた背高い男性は

色々と説明をする。

「問題はいろいろありますが……」

「屯所に来いよ」

「屯所?」

 その前に約束をねと

斎藤と呼ばれた男性が合図した。

 蕎麦で体を温めて

屯所に案内される。


 屯所はだいぶ遠く

途中でいろんな町の風景を見たが

さほど安全ではなさそうだ。

「やっと帰ったか!」

「近藤さん!」

「声が大きいですよ……」

 近藤さんと叫ばれた男性は

ゆっくり歩いてくる。

「お前が追いかけられてると聞いたからな」

「私が遣わされてましてね」

「だから蕎麦屋にいたのか?」

「さっき言いましたよ」

 会話で盛り上がる大人たちを

ポカーンと見ていたが

近藤という男性に紹介を求められた。

「忘れてた」

「そうでしたね」

 土方が後ろから

肩を押さえて先ほどのことを

掻い摘んで説明する。

「ほう……」

「誰だかわかりますか?」

「恐らくだが妖怪だな」

【は?】

 土方と斎藤が口を揃えて

突拍子もない言葉を発した。

「厳密に言えば正体不明の子供だ」

「まさか人間じゃないのか?」

「いやいや違う」

「どういうことですか?」

「単純に噂されてた孤児だよ」

 山に語られる不思議な話をし始めた

古い寺院には昼と夜など関係なく

すばしっこい【何か】がいて

近づく悪人を打ち倒している。

「こんな噂があってだな……」

「それがこの小さな子供?」

「まさかだと思うがそうらしい」

 開いた口が塞がらない土方と

興味深々な斎藤の温度差は少し面白かった。

「まあ良かった」

「もう少しで討伐するところでしたよ」

「まさか討伐対象になぁ」

 どうやら小さな子供のような妖怪を

狩り殺そうとしていたらしい。

「まあ良いか」

「うちで鍛えましょうか?」

「これからよろしくな」

 よくわからないが住所を手に入れた

刀は持っていて良いとのことだ。

 新選組屯所

京都の防衛拠点

三番隊宿舎という住所である。

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刀の青誠≪かたなのせいせい≫ あさひ @osakabehime

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