童話 ふみちゃんのくつした

ふみその礼

第1話 ふみちゃんのくつした


ふみちゃんにはお気に入りのくつしたがあります

厚手でピンク色のくつしたです

いつも寒くなると「ピンクの出して」と

お母さんに言って出してもらいます

ことしも秋が始まり少し寒くなってきたので

お母さんに出してもらいました

ピンクのくつしたは、何年もはいているので

すこしのびてしまい、ゆるくなっています

お母さんは「新しいのにする?」と言ったけど

ふみちゃんは「いや!これがいいの!」と言って

ピンクのくつしたをはいていました


ある日、大、大、大事件が起こりました

お母さんが庭の物干しにしておいた

ふみちゃんのピンクのくつしたが

ひとつなくなっていたのです

風で飛ばされたのかも

お母さんは庭のあっちもこっちものぞいて

さがしたのですが見つかりません

ふみちゃんも庭のあっちもこっちも声をかけて

さがしたのですが見つかりません


お母さんはノウズグレイとかナベンダアとかいう

色のくつしたを出して「あたらしいのにしなさい」

と言うのですが、ふみちゃんは

「いやだ!あのピンクのがいい!」と言って

泣きべそをかいてしまいました


その夜のことです

玄関わきのおばあちゃんの部屋で

おばあちゃんがふみちゃんを手まねきします

「ふみちゃん、あんた耳いいよし、ちょっと

聞いとうみ。なんや、声せいへんか?」

ふみちゃんは坐ってしずかに聞いていました

たしかに、ちいさな声が聞こえたような…

ふみちゃんのくつしたが「わたしはここだよ」

と言っているのかも…

「今日は、もう遅いよってに、明日、お父さんに

さがしてもらい」


翌朝、お父さんとふみちゃんが庭に下りて

おばあちゃんの部屋のえんの下をのぞきこみました

デンキで照らすと奥の方に「あった!」

ふみちゃんのピンクのくつしたがありました

でも、お父さんがゴミ拾いバサミで取ろうとすると

ピンクのくつした、奥の方へ逃げていきます

「なんや!こいつ!」お父さんはがんばって

逃げていくくつしたをつかまえました

ふみちゃんの手に戻ってきたくつした…うん?

ちょっと重い、そして……ゴノゴノと動くのです

「きゃあ!」

ふみちゃん、くつしたを放り出しそうになったけど

がまんして持っていました。のぞきこんでみたら、

何か……白いシッポが……フホ!と動いたよ!


お父さんがくつしたをひっくり返して出てきたのは

ちいちゃな白いネコちゃんでした

白くて、ひたいにすこしだけ茶色がついてる

目は開いてるけど、まだとてもおさなくて

ミヤアミヤア鳴いています

縁の下を覗きこむと、他にも3匹ちいちゃなネコが

そして奥の方から緑色の目を光らせて大きなネコが

母ネコにちがいありません

ふみちゃんは手の中の白ネコちゃんを見ました

あと足に、ふみちゃんのくつしたを半分ひっかけて

ふみちゃんを見つめる目がとてもとてもかわいい

「ねえ、この子、ウチで飼っちゃダメ?」

お父さんは白ネコをじっと見て言いました

「こいつは、まだお母さんのお乳を飲んでる。今、

お母さんから引き離したらダメだ。死んじゃうよ」

ふみちゃんは仕方なく白ネコを返すことにしました

でも「これから寒くなるから」と思って、あと足に

くつしたをかぶせてあげました

お母さんネコは、子ネコを一匹ずつ口にくわえて

どこかへ連れていこうとしています。この場所が

見つかってしまったから引っ越しをするのでしょう

白ネコの番が来ました。白ネコは、足にくつしたを

ぶらさげたまんま運ばれていきました

ふみちゃんは、自分の一番大事だったくつしたに

「白ネコちゃんを守ってあげて」とお願いをして

見送りました



それからひと月ほどたって、お庭のイチョウの木が

黄色い葉っぱをいっぱい散らし初めたころでした

ふみちゃんは、夜ふしぎな夢を見ました

あのピンクのくつしたが出てきて、ふみちゃん

台所を逃げていくのです。ふみちゃんはくつしたを

追っかけて行きます。でもつかまりません。やがて

ふみちゃんの知らないうちに入っていきました。

それで夢は終わりでした


翌朝、幼稚園がいっしょだったナナセミツキちゃん

のママから、写真付きのメールが来ました。

なんと、そこには、ふみちゃんのピンクのくつした

が写っています

「ウチの裏に空き家があって、そこで見つけたの。

これ、ふみちゃんのだよね」

ミツキちゃんとふみちゃんは同じピンクのくつした

だったから、一度間違えてはいて帰ってきたことが

あったのです。それでお母さんたちは、くつしたに

イニシャルをぬいつけていました。だから、ミツキ

ちゃんのママは気づいたのです


ふみちゃんとお母さんは、さっそくミツキちゃんの

ウチへ行きました。ふみちゃんのくつしたはかなり

よごれて戻ってきました。ふみちゃんは、ちょっと

さみしく思いました

でも、ミツキちゃんのママが言いました

「あのうちね、ネコがすんでるみたいなの。子ネコも

いるの。ときどき声が聞こえるから」

それって、あの白ねこだ!ふみちゃんは

「そのうち行ってみたい」と言いました

ふみちゃんとお母さんと、ミツキちゃんママは

いっしょに行ってみることにしました


その家は、ミツキちゃん家のすぐウラにありました

行く途中、ミツキちゃんのママは、お母さんだけに

言いました

「子ネコ4匹いたんだけど、1匹は育たなかったし

2匹は車にはねられちゃって、あと1匹かな…」


空き家はずいぶんいたんでいてほこりだらけです

すぐに、ふみちゃんのくつしたに入っていた

あの白い子ネコが飛び出してきました

「シロ!」

ふみちゃんは、名前なんか考えていなかったのに

思わず呼びかけていました。あの白いネコが元気

でいたことがうれしかったのです

すぐに後ろから母ネコが出てきて「シャー!」と

鳴きます。けいかいしてるみたいです

子ネコも、最初は飛び出してきたのに、「シャー」

と鳴きました。母親のまねをしてるみたいです


ふみちゃんはしゃがんで「シロ、シロ」と優しく

呼びかけました

白ネコは不思議そうな顔で見ています。でも…

近づいてはきません

ふみちゃんは、手に持っていた、あのくつしたを

出して、白ネコの前で振ってみせました

「ほら、おいで…あなたの好きなくつしただよ」

白ネコは、さらに不思議そうな顔をいてたけど

少しずつふみちゃんの方へ寄って来ました

母ネコも「う~…」とうなっていたけど、子ネコ

の様子を見て、うなるのをやめました


白ネコはふみちゃんのそばに来て、目の前に

差し出されたくつしたのにおいをかぎました

それから、きせきのような出来事が起こりま

した。ふみちゃんが手を伸ばして、白ネコの

頭をなでると、白ネコは逃げもせず、気持ち

良さそうな顔をします

くつしたのおかげかもしれません。

ふみちゃんの思いが白ネコに届いたのです


ふみちゃんはしばらく白ネコをなでてから

やさしく抱きあげました

くつしたでくるむようにして胸に抱くと

白ネコは安心したように目を閉じています

白ネコはとてもやせていました。きっと

食べるものがなくて、虫などを食べていた

のでしょう


母ネコは、ふみちゃんと子ネコのようすを

じっと見ていましたが、けいかいしていた

その目が、おだやかなものに変わりました

ふみちゃんは母ネコに言いました

「おかあさん、この子をわたしにまかせて

きっと大事に育てるから……」

白黒の母ネコは、気持ちを落ち着けるように

自分の背中をぺろぺろとなめて、それから

ふみちゃんの目を見つめました

その目に、やさしい光が見えたようです

母ネコは背を向けて奥に入っていきました

ふみちゃんのことを信じてくれたのです



        ※



それから1年がたちました

シロはすっかり大きな雄ネコになりました

ある日、塀の上を、白黒のネコが通りました

シロの母ネコです。元気で生きていたのです

ふみちゃんは、奥にいたシロを呼びました

「ほら、シロ!お母さんだよ!」

出てきたシロは、最初びっくりの顔をして

それから、なんと、「ウウ~…」とうなりました

「ばか!シロ!あんたのお母さんじゃない!

忘れちゃったの?」

ふみちゃんがそう言っても、シロはうなるのを

やめません。その様子をじっと見ていた母ネコは

「安心」したような微笑ほほえみをうかべ、ゆうゆうと

歩いてゆきました


体はでっかいけど、あまりではないシロ

でも、ふみちゃんにとっては、とってもとっても

かわいいのです

家の中のケージの奥には、シロお気に入りの、あの

ピンクのくつしたが、今も大事にしまわれています



           

           了















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

 童話 ふみちゃんのくつした ふみその礼 @kazefuki7ketu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る