彼女が死んだ

真白 まみず

月島ラブストーリー

 彼女が死んだ。

 交通事故だった。

 僕の前でグッチャグチャになった。脳みそがまるでもんじゃ焼きみたいに飛び出して。

 僕は悲しんだ。



 それから何ヶ月か経っても僕は、未だに義務的に悲しんでいた。

「ね、そろそろ立ち直ったら?」

 幼馴染の瀬川が言う。

「そう簡単に立ち直れないよ」

「悲しんでるフリ、もう見飽きたの」

 僕はスンッとした。

 なんだ、もうそんなフリしなくていいのか、と。

「月島って、やっぱキモいね」

 彼女は笑うでもなく咎めるでもなく、そういった。


 学校からの帰り道。

 僕の彼女が死んだ場所で、瀬川はわざとらしく振り返って、僕を見る。

 それがまるで日課のようになっていたけど、今まで悲しそうな顔をしていた僕は今日、どんな顔をすればいいかわかっていなかった。

「月島ってさ、のこと、ホントに好きだったの?」

「好きだったよ」

「もう、人間のフリやめたら?」

 瀬川は今度は、僕を小バカにするように笑って言った。

「少なくとも私達は生物学上人間にあたるのであって、心までは未解明なんだよ」

 彼女は周囲を一回転、くるりと見渡す。

「それがなんだよ」

「いつかきっと忘れる元カノのこととか、どうでもよくない?」

「よくないよ」

「私はいいと思うよ」

「いいんだ」

「私は月島のこと好きだよ」

「そうなんだ」

「付き合おうよ」

「なんで?」

「月島ってさ、好きとか、どうでもいいでしょ?」


 僕たちは付き合った。



 不思議なことに付き合っているとなんとなく、気がつくと僕は、瀬川のことが好きになって立派に、彼氏として振る舞っていた。

 あまりに自分が気持ち悪かった。

「ね、月島って、私のこと好き?」

「好きだよ」

「嘘」

 じゃあ、どうしろって言うんだよ。

「好きってなんだよ」

「知らないよ」

「どうすれば証明できる?」

 僕がそういうと瀬川は、笑った。

 ニコッと、無邪気に。

 いい笑顔だった。

「自分の中で、私のことが好きだったなって、未来で落とし込めれば、好きなんじゃない?」

「じゃあそれは、どうしたらいいんだよ」

「こうするんだよ」

 彼女は赤の信号をいい笑顔で走り抜こうとした。

 でも、できなかった。

 彼女は普通に死んだ。

 やっぱり脳みそのもんじゃ焼きを巻き散らかして。


 僕はまた、悲しいフリをした。

 僕は人間のフリをした。

 そうして僕は気づいた。

 悲しんでいる自分が好きなんだと。

 なんだ、結局自分が好きなんだ。



「な、僕のこと、好き?」

「好きだよ」

 5年たって、大人になって。

 横を歩くカノジョが僕に応えて笑う。

 嘘だな、と思った。

「嘘」

「嘘じゃないって〜」

「ほんとに?」

「証明してあげるよ」

 そう言ってカノジョは僕の唇にキスをした。

「これだけじゃ、わかんないな。僕が確かめていい?」

「いいよ?」

「もんじゃ焼き、好き?」

「好きだけど?」

 僕も死んだ。

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彼女が死んだ 真白 まみず @mamizu_i

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