第3話 竜

エルティアは竜の巨大な存在感に圧倒され、身体がすくんだ。しかし、彼女の使命感はその恐怖を押しのけ、竜に向き直る決意を与えた。


「そうです。村はその石を狙った魔物たちに襲われ、多くの人々が犠牲になりました。この石が、彼らを引き寄せているのです。だから私は、誰にもこの石を渡さず、世界を守るために隠そうと思いました。でも…私はただの一人の村娘です。どうすればいいのか、もう分からない…」


彼女の声は震えたが、その中には覚悟が感じられた。シェルヴァリウスはしばし黙ったまま、彼女の言葉を噛みしめるように聞いていた。やがて、竜は大きな息をつくと、翼を少し広げて立ち上がった。その動作ひとつひとつが地鳴りのように洞窟内に響く。


「人間の子よ、お前の決意と覚悟は本物だ。しかし、その石を持ち続けることは、お前一人では過ぎた重荷だ。冥府の石は、この世界を滅ぼす力を秘めているが、同時にそれを封じる力もある。それを正しい手に委ねるか、深い闇の中に戻すことができるのは、強い意志を持つ者だけだ。」


シェルヴァリウスはその巨大な体をエルティアの方へとゆっくりと向けた。彼の瞳の奥には何百年もの知恵と力が込められているかのようだった。


「お前がその石を封じるために、私の助けを必要としているならば、共にその道を歩むことを誓おう。私は、長き眠りから覚め、この世界を再び守護する時が来たようだ」


竜の言葉に、エルティアの心に安堵が広がるのを感じた。彼女は孤独ではなかった。彼女はこの巨大な存在と共に世界を守るために戦うことができるのだ。だが、それと同時に、彼女は自らの覚悟が問われることを理解していた。


「シェルヴァリウス…私を、導いてくれるのですか?」


エルティアは竜に向かって一歩前に出た。彼女の目には迷いはなく、ただ前を見据える意志が宿っていた。

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