戦場に赴く父親が息子に送る言葉

白黒

戦場に赴く父親が息子に送る言葉

 おやおや、我が愛しの息子殿、一体どうした?

 ……おう、聞いたのか。俺が戦争に行くってこと。

 なんでって?うーん……どこから話したものか……。

 俺の親父――お前のじいちゃんがまだガキだった俺とお袋を残して戦争行った話は……聞き飽きた?まぁそう言わずに聞いてくれよ。戦争行った親父は死んじまって、その頃にはお袋の両親も亡くなってたから俺らは二人ぼっちでな。女手一つで苦労するお袋を見て、親父を憎みすらしたもんさ。

 なのになんで同じ事をするのかって?お前はせっかちだな。折角母ちゃんに似て利口に育ったんだからもう少し……その話はいい?やれやれ……。

 ともあれお袋のおかげで俺もそこそこ真っ当に育って、勿体ないくらいの嫁さんを貰って……そんでお前が生まれたわけだ。

 お袋にも母ちゃんの実家にも助けてもらいながらお前を育ててきて……最近になってようやく親父の気持ちが分かるようになってきたんだ。

 何て言うかな……子どもが生まれて健康に育つっていうのがとんでもない奇跡だって身に沁みるようになった、と言えばいいのかねぇ。お前さんほど頭が良くないからちゃんと言葉にできてるか自信はねぇが。

 お前はもう忘れちまったかもしれないが大変だったんだぜ?小さい頃は厠を覗き込んで落ちそうになったり、椅子をよじ登って机の上に乗り出したり……あぁ火に手を突っ込もうとしたこともあったっけ。あの時は我が嫁ながら凄い剣幕だった。お前は泣き止まないし、お袋もビックリして気圧されるし、俺まで泣きたく……その話はいいって?ったく……。

 まぁともかくお前がこうして俺と話してるのはとんでもない奇跡ってことで――親父も俺を見て同じ事を考えてたのかもしれないって思うようになったのさ。これからも息子が生きていく奇跡を守りたい、って。親父が俺を守るために戦ったように、俺もてめぇの息子を守りたい。

 勿論生きて帰ってくるつもりだぜ?あいつにお袋みたいな苦労はさせたくないしな。でももし俺が帰ってこれなくても、あの時ほどにはならないか。お袋もいるし、母ちゃんの実家も健在だしな。

 戦争は本職の兵士に任せればいいって?はは、人手が足りてるなら俺が出る幕はないさ。

 ……なぁ、母ちゃんは好きか?ばあちゃんは?

 ……そうか、なら安心だ。二人を……いや三人か、とにかく頼んだぞ。知っての通り今母ちゃんの腹の中にはお前の弟か妹がいる。しばらくすればお前は"お兄ちゃん"になるんだ。お前は賢いから、俺なんかよりも早く奇跡の意味が分かるかもな。

 さぁ行った行った!母ちゃんとばあちゃんをあんま待たせちゃ……おいおい、そんな顔するなよ。ったく、こっちこい。

 汗臭くて悪かったな。……いいか、もし母ちゃんやばあちゃん、お前の弟か妹が、今のお前みたいに心細そうにしてたら、お前がこうしてやるんだぞ。

 さ、涙拭け。……よし、男前になったな。

 心配すんなって。バッチリ生きて帰ってきて、お前らをこの家で待ってるからよ。

 ほら行け!母ちゃんとばあちゃんの言うことちゃんと聞くんだぞ!

 元気でな!風邪引くなよ!

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