エントロピーと不老不死

雛形 絢尊

第1話



















「俺はさ、」

「不老不死の薬?」

「そうすればずっと二人で生きていける」

「でも、永遠より怖いものはないわ」

「2人なら大丈夫、大丈夫だ」

「ほんとうに?」














そうして潮(うしお)は

遠く離れた街へ行ってしまった。

私たちには永遠なんてないとは

わかっていたけれど。

彼はすぐには帰ってこなかった。

それこそ宛先もわからないため、

私は来る日も来る日も彼の帰りを待った。

朝目が覚めてもあなたはいない。

失恋にも似たこの感情は、

身震いするほど切ない。

いくつも年が明けた。

それでも彼は来なかった。

隣町の御曹司に求婚を迫られた。

私はその永遠を信じて待っていた。

それからいくつかの男性に恋を迫られた。

私は断った。断り続けた。

いくつもの思い出を重ねて

少し皺が目立ってくる様になった。

いつまでも若さをと、それはそれは若さをと。

いつまでも待った。彼からの返答は来ない。

また皺だ。彼は私を忘れているのか。

待った、待った。いつまでも待った。

ただ、ただ帰りを待った。それでも待った。

永遠を待っていた。

ある夜、彼は一変した姿で目の前に現れた。

白い髭を生やした彼だ。





「随分待たせたね凛音(りんね)」

「お帰りなさい」

「寒かっただろ?」

「寒かった。ずっと寒かった」

「ごめんな、待たせたんだな」

「うん」

「永遠なんてなかった。なかったんだ」

「そうだったのね」

「物理的な永遠なんてないんだね」

「これからは?」

「この時間を取り戻す研究」

「そっか、それならもう心配いらないね」











町を出た。そうして町を出たんだ。

世界を覆すような成果を必ず得る。

そう思いながら毎日、来る日も来る日も、

当てのない正解を探し続けた。

それでも結果は出なかった。

何回も何回も何十何百何千と繰り返した。

これじゃない、これでもない、いや違う、

それでもない、どれでもない。

そうじゃない。

答えはない。ずっと思っていたことだ。

また繰り返す。

これじゃない、これでもない、いや違うと。

頭が真っ白になった。

呆然と空を見ていた。

無性に会いに行こうと思った。

私は身勝手なことをした。だが、

きっと彼女には新しい男がいる。

私ではなく、他の男がいる。

そう思った。私は申し訳ないことをした。

つかないことをした。

申し訳ない、申し訳ないと。

ようやく決着が














「永遠ってそういうことなのか」

「ずっと生きるってこと?」

「そう!ずっとずっと 」

「一緒にいれば永遠だね」

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エントロピーと不老不死 雛形 絢尊 @kensonhina

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