Only Role Online

@YodomiADI

第1話

「天断」


その一振が最期となった。


敵のアバターがポリゴンに包まれ始める。


黄昏の空が裂け、本物の空の青が現れる。


誰かが涙を流した、そんな気がした。


ここはOnly Role Online。


VRMMO、旅の終着点最後のボス。


その名はアーサー。


理想郷を束ねる王の名前に相応しいボスの名前であった。


そのアーサーを破った者の名は……読めなかった……読むことが出来なかった……読めるはずがなかったのだ。


たったひとつだけの役割を。


それがこのゲームの本懐であったはずの矜恃は、この名も無き怪物に刃を突き立てる。


かつてたった一人だった者。


このゲームで誰よりも上手かった。


このゲームで誰よりも生きる意思があった。


このゲームで誰よりも解放を目指した。


そんなキラキラしたものでは無かった。


このゲームで誰よりも孤独に耐えられなかった。


それだけだった。


このゲームは悪辣にも人の命を奪うゲームだった。


そしてゲームのシステムがさらに人の命を奪った。


「オールイン」


全てをかけることで成立する決闘。


お金やアイテムだけだったらそこまで大きな話にならなかった。


スキル、経験値、ステータス、己の名前、アバター、成長先の未来まで奪うのだ。


白は白に、黒は黒に。その全てをかけた闘いは、PK文化から判明した。


誰かが言った。


俺の全てをかけると。


売り言葉に買い言葉。


俺も全てをかけると。


そうして行われた決闘は1人だけを残した。


そして噂された。


勝ち続ければこの世界の最強になれるのではないかと。


街は決闘者で溢れかえった。


デスゲームの生命線。


HP。


その数値が2倍になる。


成長度合いも2倍に。


スキルも2倍に。


自分が主人公になりたいと願う者、ただ己の最強を突き進める者、隣に立つ仲間を護りたいと願う者、人を殺めたい者、その理由は様々であったが、手段が一致してしまった。


フィールドで敵mobに殺されるより、可能性のある人間に託す、そんな人も現れ始めた。


現れるまでは良かった。


それを攻略に本格投与することになる事件が起こった。


アナウンスが入った。


攻略に移らない者の、現実の生命維持装置を外す、と。


誰もが暴徒と化しただろう。誰もが正常ではいられなかっただろう。誰もが自分だけが生きようともがいたはずだった。


しかし。


始まりの街にいた3018人の命がたった一夜で1人にまで凝縮された。


願いは様々だった。


もう自分は動けない、自分は動くことも出来ない、動き出す勇気すら持ちえない、でも君ならっ。


俺は死にたくない、死にたくなんてないんだっ、でも俺より強いお前が生き残るんだろっ。


君が好きです。私を連れて行って。そして離さないで。


……何も言いたくない。悪い夢覚ましてね。


お兄ちゃんになら任せてもいい気がする。そんな気がするんだ。


選ばれたのがお前だったとしても俺は諦めたくないっだから決闘しろっ


各々が各々の理由で決闘を選んだ。自死を選んだ。闘いを選んだ。諦めを選んだ。


連れて行けと、背中を押すように、肩を掴んで離さないように、その名も無き者に全てを背負い込ませてしまった。


誰もついて来れなかった。


ふるいに落とされてしまったのだ。


闘いに。


隣に立つ戦友すらも喰らってこの地にたっているのだから。


このオールインという忌むべき制度を使ってようやくこのゲームはクリア出来る仕組みだったのだ。


最前線組すら追い越して進んできた先。


最期のボス戦での1対1は、最初から作られた劇でしかないのだ。


その憎むべきGMももう居ない。


GMも最初の街の住人だったのだから。


……なぜここまで立ってこれたのかわからかった。


見上げれば想像を絶するほどの景観が目の前に拡がっているというのに、顔を上げることが出来ない。


あの生贄は必要なものだったのか。


自分一人の器で背負い切れる命ではなかった。


仕方がなかった、なんて言葉で諦めきれない。


しかしこの世界は終わりを告げようとしている。


空気が空回りするかのようなファンファーレが鳴り響く。


「この世界はクリアされました」


わすが13文字のためだけにここまで来たのだろうか。


勝利というのはこんなにも渇いたものなのだろうか。


何も出来なくなってしまったら、背中の重みに耐えきれなくなってしまう。


恐怖が背中をひっそりと叩いていた。


「この世界はクリアされました」


アーサーの亡骸に突き立つ剣が光っている。


それを引き抜くと、俺は……


自死を選んだ。


選んだはずだった。


見えない壁に防がれている。


「ログアウト処理中です」


世界が命を守り始めた。


遅い。


遅すぎる。


そのシステムがあればどれだけの人間を救うことが出来ただろう。何人、何十人、何百人の選択を正すことができただろう。


システムを呪った。


世界を呪った。


1人を呪った。


このゲームを作った会社、Alice's gardenを絶対に許さないと、


1人世界から消えた。

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