『後悔の海に揺蕩う』
『雪』
『後悔の海に揺蕩う』
部屋の明かりを落とし、安物のシングルベッドへ倒れ込むようにして自身の身体を預ける。低反発のマットレスと幾重にも敷いた布団の山に受け止められて、ボフリと鈍い音を立てる。暫くの間、突っ伏すように枕へ顔を埋めていたが、ふと視線を僅かに逸らした。薄暗い視界に映るベッド脇のテーブル、その上に散ばるブリスター包装された市販薬と、空っぽになったミネラルウォーターのペットボトル。ベッドに倒れ込んだ際の衝撃で、積んであったペットボトルの一部が音を立てて床に零れ落ちてゆく。落下したペットボトルは全て蓋が付いたままなので慌てて拾いに行く気にもなれず、現状逃避するように再び枕に顔を埋める。そして、薬の副作用を利用して強制的に眠りに落ちるその瞬間まで、一日の言動をぼうっとした頭で何度も反芻し始めた。
どうしても気になるのは自らの口から飛び出す横暴なものの言い方だった。
その言い方一つにしたって、もっと他に言い方があったのでないかと思う。一旦落ち着いて考える事が出来れば適切な言葉を選び、それらしい態度を取り繕い、相手に不快な思いをさせる事無く、穏便に事を収められたのでは無いのだろうか。
既に終わってしまった過去の出来事への後悔と、同じことがまた起こるかもしれないという不安と恐怖。後悔をしてこの悪癖が直るというのなら、今更こんなことで悩んではいない。どれだけ気を付けても、上手く抑え込んでいたと思っていても、突然それは鎌首を擡げ、嘲笑うように自分と成り代わる。やってしまったと自覚した時には後の祭りだ、内なる自分が満足気に笑みを零すのを強く感じる。
陰鬱で矮小な自分の本性、高慢で怠惰な癖に自尊心だけは誰よりも大きな醜悪なるケダモノ。常に自分より下のモノを見て心の安寧を得て、周りの人間にはマウントを取りたがる。そんな自分に巣食う自らのエゴが大嫌いだ。しかしながら、ソレをここまで育ててしまったのは他ならぬ自分自身なのである。
いっその事、病気なのだと言われたならばどれだけ気が楽であったか。自分のせいではない、こんな風に歪めた社会と環境のせいだ、と声高らかに叫ぶことが出来るからだ。最もそれは、自己責任から逃がれる為の一手に過ぎず、根本的な解決には決してなり得ないが。
心の何処かで何をやったってもう直りはしないのだという悲壮感に苛まれながら、意味があるのかも分からない反省を一人終える。
寝返りを打ち、重くなってきたまぶたをゆっくりと閉じる。混濁する意識の中、明日こそはと淡い希望を胸の内に抱き、思考が真っ黒に塗り潰されていく様を幻視する。欠伸を一つ零した後の記憶は、何一つとて残っては居なかった。
『後悔の海に揺蕩う』 『雪』 @snow_03
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