第24話

 皇帝と皇后、そして皇太子の死に、胡黄国中は大騒ぎになった。しばらくは皇弟が代理を勤めるのだという。国は喪に服すべく、都では死者を弔む白の垂れ幕をどこの家々も軒先に垂らしている。燈夏の屋敷でも、百合のようなとびきり真白の垂れ幕をかけていた。

「これからどうなるんだろうな。この国」

 今日はあいにくの曇り空だ。天気は重たくどんよりとしている。あと少しもすれば雨が降り始めるだろう。まるで思い出の中の冬景色の衣のようだが、こちらの方が幾分か色濃い。

「まぁ、なるようになるしかないな」

 燈夏の言葉にそうだな、と藍は呟いた。

「今更だが、ひとつ、聞いていいか?」

「うん。何?」

「清霞と共に死のうとは思わなかったのか?」

 藍はきょとんとして、燈夏を見上げた。燈夏は気まずそうに頬をかく。

「……デリカシーがない……」

 ぼそりと呟いて睨んでくる藍に、燈夏は眉をさげて「すまん」と猫のように謝った。

 ――しかたない、か。まぁ気になるよな。

 藍は慈愛に満ちた表情で、燈夏の手をにぎる。

「言っただろ。絶対に戻ってくるって。俺は燈夏が好きなんだから」

「……そうか」

 雨が降り出した。しとしとと涙のように静かな雨だった。藍はしばらく降ってもよいと思う。涙も枯れ果て、もう泣くことのできない藍の代わりに、空が泣いている気がした。



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色は匂へど蒼星に散る 葉月菜の花 @HadukiNanoka

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