後編
一機……減っていた。
つまりこれは一回死んでしまったことを意味する。
そして……復活したのだ。
(うわぁ、マジで死んで復活できる能力だったし)
実は半信半疑ではあった。だってあまりにも現実感のない状況だったし、ユニークスキルだなんて言われてもピンとこなかった。
だからできる限り死なないようにしようと思っていた。しかしこうして実際に経験してみて、脳内に流れ込んできた情報が嘘ではないことが証明された。
(…………だったらマジで〝アレ〟もできるのか?)
息を殺しながら、溝から顔をひょっこりと出す。
どうやらこちらに気づかずに、キルマンティスたちは餌である十利の肉体を食べて満足したのか、思い思いに動き回っている。
(正直……〝アレ〟を使うのも怖いけど、使わねえとどうにもなんねえしな)
意を決して、溝から這い出た。
すると当然こちらの存在に気づいたキルマンティスたちが目を光らせて駆け寄ってくる。
「……落ち着け。証明はされたんだ。できる……できる。信じろ……俺っ!」
十利は胸の前に両手を近づけ、互いの掌を少し距離を開けて向かい合わせる。
その間にも、大量のキルマンティスが、物凄い勢いで突っ込んでくる。
足が竦む。今すぐ逃げ出したい。蹲りたい。
だがここで試さずにいつ試すというのか。
「……来い……来い……来い来い来い来い来いっ! ――俺の命よ来やがれっ!」
すると向かい合わせた掌の中で、マッチに火を点けたように〝ナニカ〟が灯り、それが一気に膨らんで大きくなる。
桜色に輝く霊魂のような形をしたソレを、両手でそっと包み込んだまま、向かってくる昆虫どもに向けた。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」
魂の底から叫びながら、両手を一気に開いた直後、両手から凄まじい勢いで桜色の閃光がレーザーのように放たれる。
後ろに壁があって良かった。レーザーの衝撃で吹き飛ばされそうだったが壁が十利を支えてくれている。
そして桜色の閃光は、その先にいたキルマンティスたちを飲み込む。
僅か数秒ほどの出来事だったが、手の中から桜色の霊魂が消失したあと、十利は目の前を見てギョッとした。
そこにいたはずの大量のキルマンティスが跡形もなく消え去り、またその先にある壁には、先が見えないほどの穴が開いていたのである。
「す、すっげぇ……!?」
それを自分がやったなんて誰が信じてくれるだろうか。
すると大量の仲間たちが一瞬にして殺された事実を見て恐怖を感じたのか、残った数体のキルマンティスは、慌ててその場から逃げ去って行った。
十利はそのままペタリと座り込み、両手を広げてジッと見つめる。
「……今のが……《
知識にあった《残機10億》が持つ技の一つである。
命のエネルギーを圧縮し放つ。その威力は見ての通り。
「……あ、でも命を込め過ぎちまったな」
【残機:9億9999万9001 レコードポイント:2万3250】
(あれ? でもおかしいぞ)
十利は〝1000機〟分の命のエネルギーを圧縮するイメージをしたのだ。大量のキルマンティスには、今の自分が千人分くらい集まらないと倒せないと思ったからだ。
しかし残機は何故か〝2機〟多い。
「ん? そうか、《レコードポイント》が増えたからか」
この《レコードポイント》というのは、情報を信じるなら〝1万〟ごとに〝一機〟増えるシステムのようだ。まさにアクションゲームみたいである。
つまり2万ポイントを超えたから2機増えたってことだ。
「てか俺の命って1万ポイントなんだな。ちょっとショックなんですけど」
いや、自分よりも圧倒的に強いキルマンティスの数十匹分と考えると妥当なのかもしれない。
「けどとにかく今はここを出よう。マジで怖えし」
落とされた崖へと向かい、手掛かりを見つけてゆっくりと登っていく。
(……あれ? にしても身体が軽い?)
崖を登って気が付いたが、意外にスイスイと登れている自分の力に驚いた。
何事もなく上に辿り着いてから、気になったのでステータスを確認してギョッとする。
地村十利 ランク:H NEXT:100/100
体力:30
魔力:0
攻撃:24
防御:20
魔攻:0
魔防:20
敏捷:24
運:1
当初のパラメーターと比べて、全体的に二倍に膨らんでいた。
しかも驚くべきは〝NEXT〟がフルになっていることである。
これが限界値に辿り着くと、神殿でランクを上げることができるとされていた。
普通はこんなにも早くランクなど上がらないだろう。
恐らくは先程のキルマンティス一掃で、一気に経験値が溜まったということだ。
ちなみにパラメーターも、モンスターを倒すことで増えるらしい。しかし上限値が設定されていて、ランクを上げることで限界値を突破することができるシステムだと聞いた。
「何だか実感が湧かねえけど、とりあえず不幸中の幸いってことで納得しとこ」
何せ1001個分の命を捧げたのだ。これくらいのサービスはあってもいいだろう。
(まあ、普通に考えたら割に合わない対応だとは思うが。だって千回以上死んだのと一緒だしな。そう考えたらすげえ能力だなこれ)
しかしパラメーターが上昇したお蔭で、身体能力も向上した。だから身体が軽く感じたのだ。
「……この力を上手く扱えるようにならねえと。そんで稼ぐんだ。この力があればたんまり稼げる……はずだ。地道にコツコツやってても借金は返せねえ。年末の支払いだって滞ればその時点で終わりなんだ。悠長に攻略してたらこの一月で俺の人生が終わっちまう」
奴隷なんてまっぴらごめんだ。自分の落ち度でそうなったのならともかく、親父の勝手で人生を棒に振るなんて絶対に嫌だ。
「ここは多少危険でも、少し厳しいダンジョンに挑んでさっさとランクを上げて、素材やお宝をゲットするべきだよな」
命を大切にするなら、初心者に適したダンジョンからジックリ攻略するのが正しい。
しかしそれは普通の環境に置かれた冒険者が行うべきこと。
事情が事情だ。今の十利には普通は適用されない。
「っ……ああくそ、しょうがねえか。やってやる……さっさと借金返して自由を手に入れてやる! そしてまだ見ぬ美女美少女と出会って、将来の嫁さんをゲットするんだ! 待ってろよ、バラ色の人生!」
そうして十利は初心者冒険者として、前代未聞ではあるが、初心者に適したダンジョンに足を踏み入れることなく、一足飛びで中級のダンジョンから攻略を開始することになった。
そして次第にダンジョン都市内に広がっていくことになる。
この都市には、死んでも死なない『ゾンビ冒険者』がいるという噂が――。
死んでも死なない『残機10億』の俺はゾンビですか? 十本スイ @to-moto
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