中編2
晴れて冒険者になった十利は、さっそく初心者が挑むに相応しいダンジョンへ向かうことにした。
最低限の防具とナイフを購入し、攻略に臨むことにしたのだ。
あと、昨日の情報注入以降に俺の視界には変化が生じていた。
視界の右上に【残機:10億 レコードポイント:0】というのが浮かび上がっている。
この《残機10億》の力は、文字通り自分自身に残機が存在するということ。ゲームをする者なら誰もがピンとくるはず。
例えば残機が3なら、三回死んでも大丈夫という意味である。
もうお分かりであろう。《残機10億》というのは、文字通り残機が〝10億〟あるということ。つまりは10億回、死んでもやり直せる能力。
10億の命がこの身体に宿っている。ほぼほぼ無敵に近い。
ただ痛みは当然感じるし、死の恐怖だって存在する。
だからたとえ死んでも生き返る能力があるとしても、できる限りは死にたくない。
十利は見るからに初心者っぽかったのだろう。そんな自分に声をかけてくれた冒険者パーティがあった。
三人一組の連中で、初心者に適したダンジョンがあるから案内してくれる上に、一緒に攻略に向かってくれると親切にも言ってくれた。右も左も分からない十利は、その人たちの厚意に甘えることにしたのだ。
何よりも紅一点である女性冒険者が、あまりにも色っぽいお姉さんだったこともあり、その色香についつい誘われてしまった。
ただ、それが最悪の一日の始まりになるとは、その時の十利にはとてもではないが分かるはずもなかった。
ダンジョンの入口には魔法陣があって、そこに一定時間立っていると、ダンジョン内へと飛ばされる仕様となっている。
ダンジョン探索中に攻略に関して、冒険者たちが十利に詳しく教えてくれたのである。
どんなモンスターがいるのか、どんな罠があるのか、ダンジョンの構成や豆知識など、丁寧に教えてくれて、本当に良い人たちの世話になれたと喜んだ。
出てくるモンスターに対しても、弱点や戦い方などをレクチャーしてもらった。ただまだモンスターを倒すのは早いということで、ジッと後ろの方で待機はさせられたが。
でもそれだけ十利の命を重く受け止めてくれていると思い、その心遣は嬉しかった。
まあ気になったことがあるといえば、妙にモンスターの数が多いこと。これで初心者用とは、ダンジョンはやはり恐ろしい場所なのだろうと不安を覚えたが。
そして――三階層にやってきた時に、それは起きる。
「ちっ、やっぱこのダンジョンは一階層ごとに厳しくなり過ぎだろ!」
パーティのリーダーが、舌打ち交じりにそう言う。
確かにこれまで倒してきたモンスターたちだが、一階層ごとにかなり強さを増しているのだ。
一階層の時は、スライムやゴブリンなど、十利が見ても弱小と思われるモンスターばかりだったが、二階層ではスライムやゴブリンの上位種がもう出現したのである。
一応神殿で聞いた話では、初心者に適したダンジョンでは、五階層くらいまでは同じ種類のモンスターしか現れないってことだったのに。
それが一階ごと上る度に、どんどんモンスターの種類や数、そして強さが増しているのだ。
(ここ、本当に初心者に適したダンジョンなのか?)
そこでようやく十利は、少し違和感を持ち始めた。
「ああくそ! 前回この階層でリタイアしたんだ! せめて五階層にあるっていう宝箱まで行きてえのに!」
どうやら彼らの目的は、五階層の宝箱のようだが……。
宝箱なども一定期間でまた新しく復活するらしく、冒険者にとっては美味しいシステムになっている。
「あ、あの……危険なら引き返した方が……」
死んでは元も子もならないし、無理をしない方が良いと提案したのだが……。
「うっせぇ! ルーキーが生意気言ってんじゃねえ!」
……えぇ……。
それまで穏やかだった人が、急に豹変したように十利に怒号をぶつけてきた。
するとリーダーがニヤリと悪い笑みを浮かべたと思ったが、とんでもないことを口にしたのである。
「まあ、もう別に猫を被る必要もねえか。どうせコイツはここで使い捨てちまうんだしよぉ」
「え……ど、どういうことっすか?」
「ま、こういうことよね!」
「そうそう。こういうことこういうこと」
ガシッと、後ろから他の仲間に拘束され身動きができなくなった。
そのまま問答無用に歩かされ、辿り着いた先は軽い崖になっていて、その先では気色の悪いカマキリ型のモンスターがウヨウヨ蠢いている。確かキルマンティスというモンスターだ。
鋭い両手の鎌で、相手を一瞬にして寸断する。
十利はこれからされることを察したが、まさかさすがにそんな非道なことはしないと思い彼らの顔を見た。
だが……。
「悪いけどよぉ、最初からてめえは囮にするために連れてきたんだよ!」
「きゃはは! ウチらのこと信じた? バッカじゃないの! ここが初心者用のダンジョンだなんてウ・ソ! アタシたちの別名、教えたげよっか? ――『
「ま、俺らに目をつけられたことが災難だったな。恨むんなら、自分の不運を恨むんだな!」
そして十利は、背中からリーダーに蹴られ、そのまま崖を転がり落ちていく。
「っ……痛てぇぇ……!?」
カサカサと嫌な音が周囲から聞こえてきて、顔を上げるとそこには大量のモンスターが十利をターゲットにしていたのだ。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁっ!」
すぐさま立ち上がり逃げようとするが、その先は壁になっていて逃げ道がない。そして周りをキルマンティスに囲まれ絶望的状況に陥る。
そんな中、十利は確かに見た。
リーダーたちが、崖から降りて、その先にある穴へと入っていくのを。
(そうか……ここを通るにはコイツらを相手にしなきゃならないから。だから俺を囮に、コイツらを引きつけてその隙に……かよ)
キルマンティスたちがじわじわと詰め寄ってくる。すぐさまナイフで応戦しようとするが……。
「え? 無い!? ナイフが無い!?」
もしかしてどこかに落としたのか……。
よく見れば、持って来ていたショルダーバッグもない。崖から落ちた時にでも落としたのかもしれない。
(はは……どこまで運が無えんだよ俺は……っ!)
自分の人生の結末を悟り……諦めてしまった。
キルマンティスの一体が飛び掛かってきて、その勢いのままに鎌を振るう。
そして十利は断末魔の声を上げることもなく、その首を一撃で切断されてしまった。
そのまま首は、先にあった溝に落ちてしまう。
その間に、首を失った肉体はキルマンティスたちの餌になり、グチャグチャと嫌な音が聞こえてくる。
(ああ……あのお姉さん……美人だったのになぁ。残念だぜまったく……)
美人は怖いっていうけれど、まったくもってその通りだった。
(親切にしてくれたと思ってたのに……。 これで俺ももうお終いかぁ………………………………って、あれ?)
そこでいつまでも終わらない思考に疑問を持つ。
というより首を斬られたっていうのに、何故まだ意識を保っていられるのか?
痛みだってすでに無いから、てっきり死んだと思っていた。ていうか即死のはずだった。
しかしいまだに瞼を開ければ視界は良好だし、その気になったら喋ることもできそうだ。
(…………あ)
そこでようやく思い出す。自分の〝能力〟を。
見れば、いつの間にか自分の身体が復活していた。溝にすっぽりハマって動きにくいが、確かに身体が存在している感覚がある。
手も、足も、目も、何もかもが正常に動く。
(ていうか俺素っ裸じゃん!? けど死んで……ない? いや……これは……!?)
そこで視界にあった文字に変化が生じていることに気づく。
【残機:9億9999万9999 レコードポイント:0】
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